第1章 原子力開発利用の動向
4 国際協力と核不拡散

(2)核不拡散

 我が国は,現在,ウラン資源及び濃縮・再処理の役務のほとんど全量を海外に依存しており,ウラン資源等の長期的な安定確保を図る必要がある。同時に,我が国の原子力開発利用に支障を来たさないように,核不拡散に関して国際的信頼を高めるためには,引き続き核不拡散努力を行っていくことが必要である。
 我が国は,原子力基本法制定以来,原子力開発利用を平和目的に限って推進してきており,国際的にも「核兵器の不拡散に関する条約」(NPT)を批准するとともにIAEAの保障措置を積極的に受け入れることにより,原子力開発利用に関し平和利用に徹していることを世界に明らかにしてきている。
 一方,国際的な動向をみても,既に終了した国際核燃料サイクル評価(INFCE)の結果として得られた「原子力平和利用と核不拡散は両立しうる」との基本認識の下に,IAEAの場を中心として新しい国際秩序を形成するための検討・協議が引き続き行われている。
 しかしながら,核不拡散問題は国際的な政治問題でもある。本年開催が予定されていた「原子力平和利用における国際協力の促進のための国連会議」が主として議題中の核不拡散の考え方,会議の手続等についての合意が得られず延期されている。その背景には,一部の開発途上国側に,核軍縮が進まぬ一方,原子力供給国側の規制のみが強化され,平和利用の権利が抑制されようとしていることに対する反発があったためである。このことに示されるように核不拡散問題に関する国際的なコンセンサス作りは容易なものではない。

イ)二国間協議

(i)日米再処理問題
 東海再処理工場の運転継続,民間再処理工場の建設等をめぐる日米間の再処理問題については,昭和56年10月,両国政府は再処理に関する長期的取決めを昭和59年12月末までに作成する意図を有すること,また,それまでの間東海再処理工場はその能力(210トン/年)の範囲内で運転することを骨子とする日米共同決定の署名,日米共同声明の発表が行われた。その後,昭和57年6月に至り,米国政府内で長期的取決めに関する協議を行う前提となる米国のプルトニウム利用政策が決定され,その機会をとらえ,同月中川前科学技術庁長官が訪米し,米国産核物質の再処理ばかりでなく管轄外移転も含め,IAEAの保障措置の適用等の一定の条件の下で自由に行い得る包括同意方式による解決を早期に図るため話合いに入ることとなった。
 これを受けて,同年8月の東京における協議以来,事務レベル協議が精力的に行われているが,米国が長期的取決めの前提として,依然として1978年核不拡散法に基づく措置を採る必要があるとしていること等から,長期的取決めの早期決着の見通しは必ずしも楽観を許さない状況にある。

(ii)日豪原子力協定の改正
 昭和57年8月に改正された日豪原子力協定は,豪州の核不拡散強化のための保障措置政策を受けてできたものである。主な改正点は,豪州産核物質に関し,規制の対象となる行為として「管轄外移転」の他に,新たに「再処理」及び「20%を超える濃縮」が加えられたことであるが,さらに,このうち「管轄外移転」及び「再処理」の規制については,IAEAの保障措置の適用等の一定の条件下で自由に行い得るとの長期的包括的事前承認方式となったことである。

(iii)日加原子力協定に係る動き
 豪州との間に初めて長期的包括的事前承認制度が導入されたのに続いて,カナダとの間にも,改正後の日加原子力協定上の再処理及び管轄外移転等に関するカナダ政府の事前同意権を長期的・包括的な形で運用することを定めた書簡の交換が昭和58年4月に行われた。

ロ)多国間協議
 INFCEの成果を受け核不拡散に関する新しい国際的制度として,国際プルトニウム貯蔵(IPS),核燃料等供給保証(CAS)及び国際使用済燃料管理(ISFM)が提唱され,現在までIAEAにおいて多くの国が参加して検討が進められた。このうち,一部については最終報告書がとりまとめられ,IAEAの理事会において,その取扱いが検討されている。

(i)国際プルトニウム貯蔵(IPS)
 IPSは,再処理により抽出されたプルトニウムのうち余剰プルトニウムをIAEAに預託し,国際的管理の下で貯蔵することにより軍事利用への転用を防ごうとするものである。
 プルトニウム管理に関して何らかの国際的コンセンサスが得られることは,プルトニウムの有効利用を図ることとしている我が国にとって極めて有意義であるとの基本的認識の下に,我が国は,現行の保障措置制度との整合性が失われず,かつ,円滑なプルトニウム利用が阻害されることのないようにするとの基本的立場に立ち専門家会合に参加してきた。
 しかしながら,これまで我が国を含む西側諸国,開発途上国,資源国の間で調整が整わず,昭和57年10月には三論併記の報告書がとりまとめられ,その取扱いについては,IAEA理事会の場で引き続き検討が行われることとなっている。

(ii)核燃料等供給保証(CAS)
 核不拡散を確保しつつ,原子力資材,技術および核燃料サービスの供給をいかにして保証するかを検討する供給保証委員会(CAS)がIAEA理事会の下におかれ,供給保証に関する今後の国際協力のあり方,特に,国際協力の原則,原子力協力協定改訂のあり方,緊急時バックアップメカニズム,さらには,IAEAの責任と役割等について国際的コンセンサスを築く努力が重ねられている。我が国は受領国としてだけでなく,将来,供給国の立場となる可能性もあることから,双方の立場を十分勘案し,新しい国際的な秩序作りに関する検討に積極的に参加していくこととしている。

(iii)国際使用済燃料管理(ISFM)
 ISFMは,世界的に見た場合,将来,使用済燃料の発生量が再処理能力を上回ることが予想されているため,核不拡散の観点から使用済燃料を国際管理下におこうとするものである。我が国は,国際的な核不拡散体制に積極的に貢献するため本検討に参加してきたが,昭和57年7月には最終報告書がとりまとめられ,その中で貯蔵技術,本構想に関連するIAEAの役割等が明らかにされている。本報告書は昭和58年2月のIAEA理事会に報告され,作業は終了した。

ハ)保障措置及び核物質防護
 保障措置については,核不拡散を担保するため,IAEA保障措置をより一層有効なものとすることを目的として,内外において積極的な検討が進められている。
 国内においては,昭和57年6月に決定した原子力開発利用長期計画の中で,合理的な保障措置の方策が示されるなど国内保障措置体制の整備・充実に努める一方,国際的には,IAEAと密接な連携を図りつつIAEAの保障措置体制の改善・合理化にも積極的に協力している。
 また,保障措置技術については,国内で自主的に研究開発を行うとともに,国際的にはIAEAの保障措置技術研究開発を我が国として支援するため,対IAEA保障措置技術開発支援協力計画(JASPAS)を昭和56年11月から発足させるなど,我が国の保障措置技術に対する国際的な信頼を高める努力を行っているところである。

 なお,遠心分離法濃縮施設の保障措置のあり方については,昭和55年11月から関係6者(日本,米国,豪州,トロイカ三国(英国,西独,オランダ),ユーラトム,IAEA)が遠心分離法ウラン濃縮保障措置技術国際協力(Hexapartite Safeguards Project)として検討を進めてきたが,昭和58年2月,合意に達し,同年6月のIAEA理事会に報告されている。今後,我が国の動力炉・核燃料開発事業団のウラン濃縮パイロットプラントについても,この結果に基づいた査察を受けることとなっている。
 一方,核物質防護については,近年,核不拡散上重要な課題の一つであることが認識され,昭和57年6月に決定された原子力開発利用長期計画の中で示された指針に沿って,所要の施策が講じられてきている。また,国際的には,昭和55年3月,核物質防護条約が署名のため開放されている。
 同条約は21ヵ国の批准により発効することとなっているが,昭和58年8月現在,35ヵ国及びヨーロッパ共同体(EC)が署名し,このうち,7ヵ国が批准している。我が国も署名,批准に備え,諸般の準備を進めることとしている。


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