第1章 原子力開発利用の動向と新長期計画
1 着実に進展する原子力発電

(3)原子力発電所の立地をめぐる動向

 原子力発電の拡大を支える原子力発電所の立地動向としては,先に述べたように,昭和56年度には,昭和50年度に鹿児島県川内地点が決定されて以来6年ぶりの新規立地地点として新潟県巻地点及び北海道泊地点が,また,昭和57年度上期においては,九州電力(株)玄海原子力発電所3号機・4号機が電源開発基本計画に組み込まれ,明るいきざしが見えてきたものと言える。
 しかし,昭和65年度4,600万キロワットの原子力発電開発目標を達成するには,現在,運転中,建設中及び建設準備中の原子力発電所の総電気出力約3,500万キロワットに加えて,運転開始に至るまでのリード・タイムを考慮すれば,目標との差分1,100万キロワット程度の立地を,この2年間程度のうちに決定しなければならず,目標の実現には格段の立地努力が必要である。
 このため,原子力発電の必要性,安全性等について地元住民の理解を深め,協力を得るため,広報活動等が積極的に推進されるとともに,電源立地の円滑化に資するとの観点から立地地域の振興を図るための施策が充実,強化されてきている。
 〔広報活動の強化〕
 広報活動については国民の原子力に対する意識動向に十分応えるものである必要がある。総理府が昭和56年11月に行った「省エネルギーに関する世論調査」の結果では,前回の調査(昭和55年11月)にくらべ,国民の多数が原子力発電の必要性を認めているという状況は変らないものの,原子力発電所に対し不安感を抱く者の増加,原子力発電所の安全対策に信頼感を示す者の減少がみられた。このような国民の意識の変化は,昭和56年4月の日本原子力発電(株)敦賀発電所の事故の影響によるものと考えられる。敦賀発電所の事故は,周辺環境を含め,放射性物質により何ら影響を与えるものではなかったが,その社会的影響は大きく,改めて安全管理の徹底が図られた。今後,きめの細かい安全確保対策を一層充実させ,原子力発電所の安全運転の実績を積み上げることが,国民の原子力に対する理解の一層の向上を図る前提であるが,特に,事故・故障が発生した場合に,正しい情報を的確に国民に伝えると同時にその経験を原子力発電関連施設の運転等に適切に反映し再発を防ぐことが必要である。
 具体的な広報活動については,従来から広報資料の作成配布,各種研修の実施等積極的な広報活動が行われているが,昭和56年度からは,特に立地の初期段階において国自らが広報を行う他,地方自治体の行う広報へ助成を行うこととした。さらに昭和57年度において民間有識者等を地元の要請に応じて機動的に派遣する制度を創設した。
 また,これまで精力的に進められてきた各種安全研究,あるいは,実規模又は実物に近い形で行われている各種実証試験の結果が積み重ねられてきており,その成果を積極的に活用して,国民の不安の解消に努めているところである。

 〔立地地域の振興〕
 原子力発電所等原子力施設の立地は,立地地域の人口をはじめ雇用,産業,財政などの幅広い分野にわたって多大な影響をもたらしており,立地市町村の地域振興の機会となっている。例えば,原子力発電所の立地に伴う固定資産税等は,地元市町村の財政に寄与するとともに,いわゆる電源三法に基づく電源立地促進対策交付金により公共用施設の整備等生活環境の整備,充実が図られている。しかし,近年地元の要望が,公共用施設の整備による福祉の向上から,雇用機会の増大等による地域の社会的,経済的発展へと広がるようになった。
 これに対応して,立地地域振興のための国の施策として,昭和56年度には,発電所施設周辺地域の住民の雇用確保等を図るため,原子力発電施設等周辺地域交付金及び電力移出県等交付金からなる電源立地特別交付金が創設されるなど,いわゆる電源三法に基づく交付金制度の充実が図られた。さらに,昭和57年度においても,電源地域への企業立地を促進するため,都道府県による立地企業の設備資金需要に対する融資制度の整備を促進することとし,このため電力移出県等交付金の増額がなされるなど,地域振興施策の一層の強化が図られた。
 今後の地域振興策の方向としては,いわゆる電源三法の活用とともに在来の各種地域振興策をも十分活用して地域の産業の振興を図るほか,地方自治体が地域振興ビジョンを立案するに当たって国が支援を行うなど,地域の実情に応じた多様なものとすることが望まれる。


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