第II部 原子力研究開発利用の動向
第5章 核融合及び原子力船の研究開発

2 原子力船

 原子力船は,少量の核燃料で長期間の運航が可能であり,高出力になる程経済性が良くなるなどの特長を有するので,その実用化が期待され,日本原子力船開発事業団における原子力第1船「むつ」の開発を中心として研究開発が進められてきたが,昭和49年9月,出力上昇試験中に遮蔽の不備による放射線漏れが発生したことなどにより,その開発は大幅に遅延している。
 原子力委員会は,原子力船研究開発の進め方について見直しを行うため,昭和54年2月,原子力船研究開発専門部会を設置した。同専門部会は,原子力船研究開発の課題,研究開発体制のあり方等について検討を進め,昭和54年12月,報告書をまとめた。原子力委員会は,この報告をもとに慎重に審議を重ね,昭和54年12月,「日本原子力船開発事業団の統廃合問題について」を,更に,昭和55年4月,「原子力船研究開発の進め方について」を決定した。
 政府は,これらの方針を踏まえて,日本原子力船開発事業団が「むつ」の開発に加えて,原子力船の開発に必要な研究を行うことができるよう同事業団を日本原子力船研究開発事業団と改め,同事業団に研究開発機能を付し,併せて昭和59年度末までに同事業団を他の原子力関係機関に統合するものとする旨定めることを主な内容とする日本原子力船開発事業団法の一部改正法案を第93回国会に提出した。同法案は昭和55年11月26日成立し,同月29日施行された。
 その後,原子力船研究開発の進め方については,昭和56年2月,「日本原子力船研究開発事業団の原子力船の開発に関する基本計画」がまとめられた。本基本計画において,原子力第1船は,実験船として,原子力船に関するデータ,経験の取得に最大限の活用を図ることとし,また原子力船の開発に必要な研究については,原子力第1船の成果を十分に活用しつつ,経済性,信頼性の優れた船舶用原子炉を中心として行うものとされた。

(1)原子力船「むつ」
 佐世保港における「むつ」の改修,総点検については,昭和55年8月,本格的な遮蔽改修工事が開始され,長崎の地元関係者(長崎県知事,佐世保市長及び長崎県漁連会長)と約束した昭和56年10月までの期限内に工事を終了すべく,最大限の努力をしてきたが,工事手順等を再検討した結果,確実に工事を実施するためには当初予定した工事手順の変更が必要であり,これに伴い,佐世保港における修理期間を延長せざるを得ないとの判断に至った。
 このため,昭和56年8月31日,科学技術庁長官と日本原子力船研究開発事業団理事長が長崎県を訪問し,地元関係三者に対し「むつ」が修理を終えて佐世保港を出港する期限を昭和57年8月31日まで延長することを要請した。
 この要請を受けてそれぞれ鋭意検討が行なわれ,佐世保市においては昭和56年9月17日に臨時市議会で,長崎県漁連においては同年10月17日に臨時総会で,長崎県においては同年10月22日臨時県議会で期限延長に同意する決定がなされた。これを踏まえ同年10月23日に地元関係三者は上京し,科学技術庁長官及び日本原子力船研究開発事業団に要請を受け入れる旨回答した。これによって佐世保港における「むつ」の修理期限は昭和57年8月31日までに延長されることとなった。
 なお,日本原子力船研究開発事業団は,遮蔽改修とは別に,安全性総点検の結果に基づき「むつ」の安全性・信頼性を一層向上させる観点から遮蔽改修工事に併行して補修工事を行うこととしており,昭和55年10月に原子炉等規制法に基づきこれに必要な原子炉設置変更許可申請を内閣総理大臣あて申請し,昭和56年8月,許可を受けた。
 また,「むつ」の定係港については,昭和49年の放射線漏れの際,政府が青森県,むつ市及び青森県漁連との間で締結した協定(いわゆる四者協定)に基づき,新たに定係港を選定したうえで現定係港(青森県むつ市の大湊港の定係港)を撤去することとなっていた。このため,政府及び日本原子力船開発事業団は,新定係港を選定すべく,全国的な調査を行うなど努力を続けた。

 共  同  声  明
 原子力船「むつ」の定係港については,昭和49年10月14日関係四者間において締結した『原子力船「むつ」の定係港入港及び定係港の撤去に関する合意協定書』の主旨に基づき,青森県内の外洋に新しい定係港を設置することとし,その取扱いについて,科学技術庁,日本原子力船研究開発事業団,青森県,むつ市及び青森県漁業協同組合連合会の五者は,次のとおり合意した。
1.原子力船「むつ」の新定係港については,むつ市関根浜地区を候補地として調査,調整のうえ,決定することとし,可及的速やかに建設するものとする。
2.「むつ」は,新定係港の建設の見通しを確認のうえ,大湊港の定係港に入港し,新定係港が完成するまでの間は,大湊港の定係港に停泊するものとする。
3.「むつ」の大湊港の定係港への入港・停泊にあたっての取扱い及び大湊港の定係港の取扱いについては,今後,協議するものとする。
4.大湊港の定係港は,新定係港の完成をまって撤去するものとする。

 しかしながら,新定係港を確定するに至らず,昭和55年8月科学技術庁から,青森県知事,むつ市長及び青森県漁連会長の地元関係者に対し,大湊港をむつの定係港として再度使用することの可能性について検討を要請した。
 その後,地元側と科学技術庁の間で,鋭意折衝が行なわれた結果,「むつ」の新定係港を青森県内の外洋に設置することとし,むつ市関根浜地区を候補地として調査,調整の上決定し可及的速やかに建設すること,「むつ」は新定係港が完成するまでの間は,大湊港の定係港に停泊すること,などで地元関係三者の合意が得られ,昭和56年5月24日,科学技術庁長官,日本原子力船研究開発事業団理事長及び地元関係三者の五者で会談を行い合意事項を共同声明として発表した。これによって,「むつ」の新定係港の問題の解決について基本的な方向が得られ,現在この共同声明に基づき日本原子力船研究開発事業団が関根浜地区の立地に関する調査を鋭意進めているところである。

(2)その他の研究開発
 日本原子力船研究開発事業団は,原子力船「むつ」の開発とともに,経済性,信頼性の高い改良舶用炉等の研究開発を行うこととしており,現在,第1次概念設計のための基礎的な調査研究を行っている。
 また,運輸省船舶技術研究所においても,原子力船の事故解析に関する研究等が実施されている。


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