第II部 原子力研究開発利用の動向
(参考)諸外国の動向

(1)核融合

 諸外国の核融合研究開発は,臨界プラズマ条件の達成を目指した研究開発の段階にあり,JT-60と同様臨界プラズマ条件の達成等を目標とするTFTR(米国),JET(EC)及びT-15(ソ連)の建設が,1980年代前半の完成・運転を目途に進められている。
 さらに,各国とも臨界プラズマ条件達成後に建設すべき装置(以下,「次期装置」と言う。)についても,検討が開始されている。中でも,IAEAの場で,概念設計が進められている国際トカマク炉(INTOR)は,次期装置のモデルとして注目されるが,その検討の結果,比較的コンパクトなトカマク炉による自己点火条件達成の可能性,100秒以上のD-T燃焼達成の可能性などについて専門家の間で見解が一致したことは,核融合研究開発がいよいよ新しい段階に入ることを示唆していると考えられる。

i 研究開発の現状

(i)炉心技術
 近年,トカマク型核融合の炉心技術に関する内外の研究の進展には著しいものがあり,炉心温度領域のプラズマ閉込めの達成,閉込めの効率化につながる高ベータ化,低安定係数放電,高密度プラズマの形成などに好結果が得られた。
 また,非円形プラズマ制御の進歩,ダイバータに関する経験と知識の増大も注目される。これらの成果から,比較的コンパクトなトカマクによる実炉相当の炉心プラズマの実現について見通しが極めて明るくなっている。

 一方,トカマク方式以外の磁場閉込め方式についても,近年世界的に見ていくつかの進展が見られた。まず,ステラレータやヘリオトロンにおいては,プラズマ電流ゼロの状態での安定したプラズマ閉込めを達成した。
 また,ミラーではタンデム方式により静電場によるプラズマ閉込めの可能性が示された。
 その他の方式についても,それぞれ性能の向上を目指して実験が行われている。
 さらに,慣性核融合については,米国において100KJレーザーの建設が進められるなど科学的実証を目指して研究が進められている。
 以上のように近年各種の方式にそれぞれ進展が見られ,トカマク方式については実炉相当の炉心プラズマの実現を目指し得る状況にある。その他の方式についてもそれぞれ特徴を生かし科学的実証を目指し着実に成果が積み上げられつつあるものの,現時点においてはいずれも核融合反応が実際に生起するプラズマ(核反応プラズマ)を取扱う段階までには達していない。

(ii)大型トカマク装置
 トカマク方式による核融合研究開発の当面の主目標は,臨界プラズマ条件の達成である。このため,各国においていわゆる大型トカマク装置の建設が進められており,1980年代前半に次々と実験に入る予定である。((表参照))
 これらの装置は,いずれも大容積高温プラズマの形成を共通の目標とする一方,それぞれ,長時間パルス,不純物制御,D-T燃焼,非円形プラズマ,起電導コイル使用など特徴的な目標を掲げており,それらの装置を用いた実験を通じて次期装置の設計パラメータの最終的な確認が行われる見通しである。

(iii)炉工学技術

 炉工学技術については,各国とも,数年前から,本格的研究開発を開始しており,炉心技術の進展を反映して精力的な研究開発が進められている。主要な技術の状況は次のとおりである。
 ア.超電導磁石技術に関しては,IEAにおける大型コイル試験が近く開始されようとしている。同試験では,トカマク核融合炉のトロイダルコイルとして予想される大きさの約1/3のコイルをトーラス状に並べた試験が行われる。
 イ.プラズマ加熱技術は,大型トカマク装置の実験に用いるべく開発が進んでおり,炉心プラズマ条件達成に必要な温度の約半分程度までプラズマを加熱できる水準に達している。
 ウ.炉構造材料に関しては,米国を中心として各国において原子炉照射などによりデータが蓄積されつつあるが,さらに14MeVの中性子源による照射実験が計画されている。
 工.トリチウムについては,諸外国において軍事用としてその取扱技術,生産技術などについての研究が行われ相当の水準にあるが,核融合炉に応用するためには,まだ開発要素が残されており,例えば,米国等においては総合的な試験が開始されようとしている。
 オ.炉設計技術は,各国における各種の設計研究により急速に進展した。
 特に,IAEAのINTORワークショップに見られる如く,次期装置に関しては,現実的な設計を検討し得る水準に達している。
 これらの技術の他,核融合炉技術には,既存の核分裂炉技術,重電技術などを基礎として発展させ得るものが多い。また,トリチウムを始め,放射化生成物等の生物への影響などについての研究も進められている。

ii 諸外国の次期装置
 前述のような進展状況を踏まえ,諸外国において,次期装置の検討が精力的に進められており,現在のところ,ある程度概要が示されている装置としては,米国の工学試験装置(注)(ETF)及びIAEAの国際トカマク炉(INTOR)がある。両者の主要パラメータは相当類似しており,国際的にみて次期装置についての概念が収れんしつつあることを示していると考えられる。即ち,次期装置においては,最終的に自己点火条件及び100秒以上の長時間D-T燃焼を行うことを目標とすることについて並びに装置の大きさについてほぼ一致している。しかし,トリチウム増殖ブランケット,ダイバータ方式,加熱方式,電流維持による定常運転などについては考え方が分かれている。


(注)米国では,現在,ETFより完成時期を早め目標を下げたFED(Fusion Engineering Device)をETFに代わる装置として検討しているが,詳細は決まっていない。

(2)原子力船

(1)ソ連は,昭和34年に世界最初の平和目的の原子力船である原子力砕氷船レーニン号を完成し,その運航によって原子力砕氷船の有用性を実証した。その後,昭和49年にアルクチカ号,昭和52年シベリア号を完成し,それぞれ就航させており,これら3隻の原子力砕氷船は,現在も北極海において活躍中である。また,現在4番目の原子力砕氷船ロシア号を建造中である。
(2)米国及び西ドイツは,それぞれ実験的な目的で原子力貨客船サバンナ号(昭和37年完成,昭和45年まで運航)及び原子力鉱石運搬船オット・ハーン号(昭和43年完成,昭和54年まで運航)を建造し,それぞれ約10年間にわたって運航することにより原子力商船の技術的可能性を確認した。
 更に,米国及び西ドイツは,これらの実験船の運航経験を踏まえて,より改良された舶用炉の開発を進めており,現在は,設計をほぼ固めた段階にまで達している。
(3)フランスにおいても,原子力軍艦の運航経験を踏まえて商船用舶用炉の開発が進められており,現在は,米国及び西ドイツと同様,設計をほぼ固めた段階にある。
(4)カナダでは,沿岸警備隊が,原子力砕氷船の建造について検討を進めている。


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