第3章 核不拡散への対応と国際協力
3 核不拡散に対する我が国の対応

(1)二国間原子力協議への対応

 最近の核不拡散をめぐる二国間の主な動きとしては,日米間の再処理に関する交渉及び日豪間の原子力協定の改訂がある。
 東海再処理施設の運転については,日米原子力協定に基づき,合衆国産の特殊核物質の再処理について規制を受けている。同施設の運転開始に際しては,昭和52年9月,日米共同決定及び共同声明を行い,当初2年間,99トンの枠内で使用済燃料の再処理を行うこととなった。
 その後,日米間の合意により4度にわたる運転期間の延長及び再処理枠50トンの上積みという暫定措置を講じ,昭和56年10月末まで,累計量149トンまで再処理できることとなっていた。
 昭和56年5月,鈴木総理大臣とレーガン大統領との日米首脳会談では,米側は,我が国にとって使用済燃料の再処理が重要であることを理解するとともに,両国は東海再処理施設の運転期間延長,新たな再処理施設の建設等の日米間の再処理問題について恒久的解決を図るべく早急に協議を開始すべきことを合意した。

 昭和56年7月には,先に述べたレーガン大統領の対外原子力政策が発表され,その後上記首脳会談の共同声明でうたわれている恒久的解決をめざすべく,協議が開始された。その結果,同年9月,東海再処理施設については,設計能力(210トン/年)の範囲内で昭和59年末まで運転すること,第二再処理工場については,建設に関する主要な措置に対する規制を撤廃すること,東海再処理施設における保障措置技術の改良に関しては,国際原子力機関に対する保障措置技術支援計画を通じて,東海再処理施設における改良保障措置技術の研究開発(TASTEX)のフォローアップ等保障措置技術の研究開発を行っていくこと,等で実質的合意に達した。その後,米国内の所要の手続を経て同年10月日米共同決定の署名,共同声明の発表等が行われた。
 原子力委員会としては,原子力委員会委員長談話として発表したように東海再処理施設の運転については,本来,無期限であるべきではあるが,恒久的な解決のための協議にはなお時間を要するという米側の立場を理解し,上記期限については,その満了とともに東海再処理施設の運転を中断する意図ではなく,この期限内に長期的な取決めを行うとの趣旨であることを日米間で確認したため,これが現時点では最も現実的な解決策であるとして同意したものである。
 今後は,昭和56年5月の上記首脳会談の共同声明の趣旨に鑑み,今回の合意をさらにおしすすめ,できるだけ早期に長期的解決が得られるよう努力することとしている。
 日豪間の原子力協定改訂の動きは,昭和52年5月,豪州フレーザー首相が核不拡散の観点からのウラン輸出政策を発表し,この具体化のため関係各国に協定改訂・締結交渉を申し入れたことに始まる。
 我が国との間では,昭和53年8月以来,昭和56年9月までに7回の交渉が行われている。豪州はこれまでに,豪・ユーラトム協定等,16の相手国との間で9つの協定を合意しており,我が国との間の改訂交渉の早期妥結が重要な課題となっている。
 我が国としては豪・ユーラトム協定締結交渉等の結果を踏まえつつ我が国の原子力平和利用の自主性を確保するとの立場から対応していくこととしている。

(2)国際的制度に関する多国間協議への対応

 国際プルトニウム貯蔵(IPS)は,再処理して得られるプルトニウムを,国際的な監視の下で貯蔵することにより,プルトニウムが平和目的以外に転用されることを防止しようという国際的制度である。このような制度は,将来プルトニウムが大規模に再利用される時代において,プルトニウム利用に係る核不拡散の国際的信頼性を高め,ひいてはプルトニウムの円滑な利用に資するものと期待されている。我が国としては,IPSの検討に当っては,核拡散を十分防止しつつもプルトニウムの平和利用の円滑な実施が妨げられないよう配慮していくこととしている。
 国際使用済燃料管理(ISFM)は,将来再処理能力を上まわって発生する使用済燃料を国際的に管理し,核不拡散等に寄与することを目的とした国際的制度である。我が国としては,発生する使用済燃料は全て再処理する方針であり,長期的に使用済燃料を貯蔵する意志はないが,世界的にみた場合,再処理能力を上まわって使用済燃料が発生することも事実であり,核不拡散等の観点から使用済燃料の暫定貯蔵に係わる検討を行うことは有意義であると考え,本検討に参加しているところである。
 原子力資材,技術及び核燃料サービスの供給保証については,それが適切に行われるならば,結果として核不拡散に寄与することになるとの考えのもとに,開発途上国の強い要請もあり,昭和55年6月,国際原子力機関の理事会において,この問題を検討するための委員会として供給保証委員会(CAS)の設置が合意された。我が国としては,NPT体制の維持強化を図りつつ,原子力平和利用と核不拡散の両立をめざすとの基本的立場に立って,この検討に参加しているところである。

(3)保障措置の充実

 世界的な核不拡散強化の状況下で,NPT体制を支える国際原子力機関の保障措置の充実が求められており,我が国としても,国際原子力機関による保障措置の円滑かつ効果的な実施のため,原子炉等規制法の改正等国内保障措置体制の整備充実を鋭意行ってきているところである。一方国内では原子力委員会のポストINFCE問題協議会に,昭和55年10月保障措置研究会を設置し,国際原子力機関による保障措置の改良等の国際的核不拡散強化の動向,並びに国内における原子力開発利用の進展に伴う核燃料サイクル主要部門の拡大及び核物質取扱い量の増大に適切に対処するために,INFCE後の諸問題についての審議の1つとして,国際保障措置の前提となる国内保障措置の整備の充実に関する検討を進めてきた。同研究会は昭和56年10月,国内保障措置体制の整備計画をとりまとめ,我が国が国際的に信頼され,かつ,NPTに基づく国際原子力機関の保障措置適用の前提としての国内保障措置を実施していくために推進すべき所要の方策を提言した。
 また,我が国は,従来より,保障措置技術の改良を独自であるいは国際原子力機関を中心とした国際協力の形で行ってきたが,INFCEの結論を踏まえ今後ともこれに積極的に取り組んでいく必要がある。
 米国,フランス及び国際原子力機関と共同して,昭和52年9月の日米共同声明の趣旨にのつとって,実施してきた東海再処理施設における改良保障措置技術の研究開発(TASTEX)は,所期の成果が達成されたとの結論が得られ,昭和56年5月に終了した。また,日本,米国,トロイカ三国(英,西独,蘭),豪州,国際原子力機関及びユーラトム六者による遠心分離法ウラン濃縮施設に関する保障措置技術開発国際協力プロジェクトに対しても,我が国は今後とも積極的に参加していくこととしている。さらには,国際原子力機関が実際に適用する保障措置技術の開発及び実証試験を行うことを目的とした国際原子力機関に対する保障措置技術支援計画が昭和56年11月に発足した。

(4)核物質防護措置の整備

 原子力開発利用の進展に伴い,核物質が各施設において大量に扱われるようになったため,これを盗収等により入手し平和目的以外に利用することを防止するいわゆる核物質防護が極めて重要となってきた。国際的には,昭和47年に,国際原子力機関が核物質防護に関する勧告を出しており,国内においても昭和51年原子力委員会に核物質防護専門部会が設置され,国際動向にも対応した我が国の核物質防護のあり方について検討を進めてきたところである。これによって我が国の核物質防護は上記の国際原子力機関の勧告等の国際的基準を満たし得るものとなっている。しかしながら核物質防護をめぐる国際的動向は,なお年々動いている。昭和55年3月,署名のために開放された核物質防護条約は,国際輸送における核物質防護確保のためのシステムを構築するものとして,国際原子力機関において2年間の討議を経て成立したものであるが,昭和56年10月現在,31ヵ国及びECが署名を行っており,このうちスウェーデン及びドイツ民主共和国は批准まで終了している。また,二国間の原子力協定においても核物質防護の実施の義務づけを明確に規定することが一般化しつつある。
 このような動きを受けて原子力委員会は,昭和56年3月,同専門部会がとりまとめた報告(昭和55年6月報告書提出)を基に,
① 関係行政機関においては,報告書に示された内容を指針として,今後の核物質防護施策を進めること,
② 必要に応じ核物質防護の実施義務等に関する法令整備を含む体制整備を図ること,及び,
③ 核物質防護条約については,批准に備え国際動向に留意しつつ,諸般の整備を進めること,
を内容とする委員会決定を行った。


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