第3章 核不拡散への対応と国際協力
4 原子力の研究開発等に関する国際協力

 原子力の研究開発等に関する我が国の国際協力は,近年,とみに活発化の傾向を見せている。この背景としては,過去四半世紀の間,営々として築き上げられてきた我が国の原子力技術に対する国際的評価の高まり,個々のプロジェクトの巨大化に伴う研究開発リスクの分散化の傾向,国際的規模での安全性技術等に関する評価推進の動き,開発途上国からの協力要請の高まり等が上げられる。我が国は,国際協力については,原子力開発利用における自主性の確保を前提として必要に応じ,協力相手国と協力形態を選びつつ国際協力を推進することとしているが,国際協力活発化の動きは今後ますます増大し,特に我が国が主導的立場で進めることが必要とされる国際協力が多くなってくるものと予想される。
 我が国の原子力の研究開発等に関する国際協力には,安全研究に関するもの,高速増殖炉等の新型炉の開発に関するもの,核融合研究に関するもの,原子力施設の規制情報交換に関するもの,開発途上国との放射線・アイソトープの利用技術に関するもの及び国際原子力関係機関を通じての協力がある。
 安全研究協力については,軽水炉に関し日本と同様に軽水炉路線をとる米国,西独及びフランスとの間で協力が進められているが,最近では,軽水炉の安全研究のみでなく,特に日米間では,高速増殖炉及び高温ガス炉の分野にも協力の範囲が拡大されてきている。
 安全研究においては,各種の事故条件を再現する特殊な研究用原子炉が重要な役割を果たすが,これらの各種の原子炉を一国で全て備えることは資金面,研究人員等の面から制約があるので,各国がそれぞれ所有している再現事故条件の異なる研究用原子炉を活用し,相互に研究協力を行うことは極めて有効なことである。
 我が国は,日本原子力研究所のNSRR炉(反応度事故時の燃料の安全性の研究のための炉),米国のPBF炉(原子炉の過渡状態における炉心安全性の研究のための炉),及び西独のPNS炉(冷却材喪失事故時及び出力冷却不整合時の燃料安全性の研究のための炉)等を対象とし,これらの国の間で研究成果についての情報交換及び研究者,技術者等の交流を活発に行っている。
 最近の動きとしては,昭和56年2月から我が国の日本原子力研究所とフランスの原子力庁との間で,NSRR炉とフランスのPHEBUS炉を用いた軽水炉燃料の安全研究協力(NSSR/PHEBUS計画研究協力)が始められている。
 また,スリー・マイル・アイランド原子力発電所の事故の教訓を踏まえて,昭和55年5月及び6月の日米首脳会談において意見の一致が得られた原子炉の安全研究に関する日米協力の拡大,強化については,現在,小破断時の冷却材喪失事故,原子炉の耐震信頼性等に関する4つの協力分野が選定され,協力の枠組みを示す政府間の取極め締結等のため,作業が進められている。
 この他,日独間で,高レベル廃棄物管理分野における技術協力が昭和56年2月から動力炉・核燃料開発事業団と西独カールスルーエ原子力センターの間で開始された。

 更に,新型炉については,重水炉に関しカナダと,高速増殖炉に関し米国,英国,西独,フランス及びソ連と,高温ガス炉に関し西独との間で,協力を行っている。これらの新型炉に関する協力の中では,米国との協力が,最も活発であり,各種の専門家会合,専門家の相互派遣及び情報交換が行われている。
 核融合の研究については,米国,ソ連等との間で協力を行っている。特に,米国との間では,昭和54年5月に締結された日米エネルギー協力協定に基づいて米国のトカマク型プラズマ試験装置ダブレット-IIIを用いた共同研究,交流計画等が行われている。核融合関連では,この他,国際原子力機関,国際エネルギー機関(IEA)の協力プロジェクトの一環として,INTOR計画(次期大型トカマク炉の共同研究),TEXTOR計画(プラズマ壁面相互作用研究),超電導磁石研究計画等の協力が,多国間の協力として行われている。
 このような新型炉に関する協力,核融合に関する協力等は,今後,大型化していくことが予想され,我が国としては,自主開発路線のもとに,費用対効果,効率性等を十分に検討し必要なプロジェクトについては,積極的に対応していくことが望まれる。
 原子力施設の規制情報交換協力については,原子力施設の規制上必要とされる技術情報,許認可措置,運転経験,規制手続等について各種の情報交換,専門家会合の開催等が米国及びフランスの規制当局との間で行われている。
 一方,開発途上国との協力活動としては国際原子力機関の「原子力科学技術に関する研究・開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」のもとで,現在,アジア・太平洋地域の開発途上国を対象とする農業及び工業分野への放射線・アイソトープの利用を中心とした協力活動が行われている。この協力活動の一環として我が国は,放射線・アイソトープの食品照射計画及び工業利用計画について資金の拠出,研修員の受け入れ,専門家の派遣,各種ワークショップの開催等を行っている。我が国独自のRCA協力として国際協力事業団の協力を得て,我が国は昭和56年2月,医療面への協力の拡大の観点から,「RCA放射線・アイソトープの医学生物学利用調査団」をアジア諸国に派遣するとともに,同年8月には,放射線医学総合研究所を実施機関として「アイソトープ・放射線の医学・生物学利用ワークショップ」を開催する等積極的な対応を行いつつあるが,今後は更に,協力の拡充強化を図っていくことが望まれる。

 また,原子力分野の国際原子力関係機関としては,国際原子力機関の他,経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)等があるが,我が国はこれらの国際原子力関係機関における原子力平和利用のための国際協力活動に積極的に協力を行ってきているところである。このうち,経済協力開発機構原子力機関への協力活動の1つとして,我が国は昭和56年4月には,NEA運営委員会を東京に招致するとともに「原子力開発における国際協力の役割」と題する特別シンポジウムを主催した。
 このシンポジウムでは,原子力開発先進6ヵ国から各国における原子力政策の紹介があり,原子力開発を推進する上で直面している諸問題解決のための国際協力のあり方について意見交換が行われた。


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