第1章 原子力開発利用の新展開を迎えて
3 新たな段階を迎えた研究開発

(1)研究開発の進展

 我が国の原子力開発利用に関する研究開発は,エネルギー分野及び放射線利用の分野において幅広く行われてきた。
 エネルギー分野に関する研究開発については,基礎的研究,安全研究等の基盤的な研究から実用化を目指した大型の研究開発計画に至るまで,幅広く進められ大きな成果をあげつつあるが,他方,研究開発の進展に伴い開発資金も膨大となり,かつ多くの人材を要する段階に至っている。

 このエネルギー分野については,まず原子力発電を推進するうえで,自主的核燃料サイクルを早期に確立することが肝要であるが,そのための研究開発は次の様に着実に進展してきた。
 昭和44年以来開発が進められてきた遠心分離法によるウラン濃縮技術については,昭和56年末には,岡山県人形峠におけるパイロットプラントの完成が予定され,次の段階である商業プラントへの橋渡しの役目をもつ原型プラントの建設計画を進める段階にあり,原子力委員会のウラン濃縮国産化専門部会の検討結果(昭和56年8月報告書提出)を基に,濃縮ウラン国産化の具体的方策を検討しているところである。
 また,再処理については,動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設の建設・運転の経験を経て,現在,日本原燃サービス(株)が昭和65年度頃の運転開始を目途に大規模な再処理工場を建設すべく準備を進める段階に至っている。
 更に,使用済燃料の再処理により取出されるプルトニウムの取扱い技術の開発も重要な課題である。この面では動力炉・核燃料開発事業団が,東海再処理施設で取出されたプルトニウム溶液とウラン溶液を混合し,粉末の混合酸化物に転換するため,我が国独自の技術による混合転換法を採用したプルトニウム転換施設の建設を進めるとともに,また,高速増殖炉原型炉「もんじゅ」用のプルトニウム燃料を加工するため,「常陽」及び「ふげん」の燃料製造技術の経験を基に,自動化技術を取り入れたプルトニウム燃料製造技術開発施設の建設を昭和56年度中に着工する予定となっている。

 なお,既に,東海再処理施設で取り出されたプルトニウムの一部が,上記の混合転換法による試験設備により転換され,プルトニウム燃料施設で加工され新型転換炉「ふげん」の燃料として昭和56年8月から9月にかけて装荷された。
 更に,再処理の結果生じる高レベル廃液の処理技術についても,ガラス固化処理及び貯蔵に関する技術の開発が進められ着実に成果があがり,昭和56年度から実廃液を使用して固化処理試験が行われることとなっており,これにより昭和60年代の初め頃に実証運転の開始が計画されているパイロットプラントのためのデータを収集する段階に至っている。
 原子力発電推進の上で,重要な課題である安全確保に関する研究開発については,日本原子力研究所等における工学的安全研究及び放射線医学総合研究所等における環境放射能安全研究が着実な進展を示しており,これまでの成果は安全審査基準,指針等の整備及び安全裕度の定量化や安全技術の向上に寄与している。今後とも,最新の科学技術の知見,原子力施設の運転経験の蓄積等に基づき,より一層の安全性の向上を図るため長期的な観点から総合的,計画的に安全研究が進められていくと期待される。
 次に,限られたウラン資源を有効に活用し長期的に安定したエネルギー源として原子力発電を拡大していくためには新型炉の開発が必要である。このため燃えた燃料より多くの新しい燃料(プルトニウム)を生みだしていく高速増殖炉の開発が進められ,また軽水炉から高速増殖炉へという基本路線を補完し,プルトニウムの有効利用及び天然ウラン所要量の減少を図るため新型転換炉の開発が行われてきた。
 高速増殖炉の開発については,実験炉「常陽」(昭和52年4月臨界)の建設・運転の経験及び動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センターを中心に進められてきた各種の研究開発の成果をもとに,昭和62年度に臨界に達することを目途に原型炉「もんじゅ」の建設準備が進められており,昭和55年12月から科学技術庁による安全審査が進められている。

 また,新型転換炉の開発については,原型炉「ふげん」(昭和53年3月臨界)の建設・運転の経験を踏まえ,実証炉の建設計画を進める段階にあり,原子力委員会においては,新型転換炉実証炉評価検討専門部会の検討結果(昭和56年8月報告書提出)を基に,今後の進め方を検討しているところである。
 更に,発電以外にも核熱エネルギーを利用すべく開発を進めてきた多目的高温ガス炉は,昭和60年代前半に実験炉の運転を開始することを目標に,大型構造物実証試験ループ(HENDEL)の建設が進められる等設計研究,工学試験が行われており,また世界的な造船・海運国である我が国としては将来に予想される原子力船時代に備え,原子力船の開発を推進し世界の大勢に遅れないようにしなければならない。
 実用化された場合には,豊富なエネルギーの供給を可能とするものとして期待されている核融合の研究開発については,日本原子力研究所,大学等においてそれぞれの特徴を生かして進められているが,核融合制御に関する科学的実証のための臨界プラズマ試験装置(JT-60)は昭和59年度完成を目途に建設が行われており,これにより昭和60年代初頭には臨界プラズマ条件が達成されるものと期待されている。
 他方,以上のようなエネルギー分野に関する研究開発に対し,放射線利用の分野の研究開発については,早くから原子力平和利用の一環として農業,工業,医学等広範な分野において研究が行われ,多くのものがすでに実用に供されてきている。今後も各分野においてその利用が一層拡大していくことが期待されているが,特に医学分野においては各種の粒子加速器の発達,電子計算機技術の進展等もあって国民の医療の維持・向上のうえで大きく寄与していくことが期待されている。
 このように,四半世紀にわたる研究開発努力の結果,新型転換炉,ウラン濃縮及び再処理の各プロジェクトについては実用化を図る段階を迎えるに至っており,その実用化の実現は,自主技術の開発を実らせるばかりでなく,これに続く他のプロジェクトの推進に対する大きな励みとなるものであり,これらのプロジェクトの実用化について所要の準備あるいは検討を進めていく必要がある。
 原子力の研究開発は,前述のように,広範囲の分野に展開され,それぞれ着実に推進されてきており,今後更に一層の推進が必要とされるとともに,基礎的研究の充実も重要な課題となっている。
 一方,現下の厳しい財政事情から,今後の研究開発の道は容易でなく,これらの研究開発を総合的に推進し,我が国の原子力開発利用体系を確立していくためには,政府及び民間における格段の努力と密接な協力が必要とされるところである。


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