第1章 原子力開発利用の新展開を迎えて
1 四半世紀の歩みと今後の方向

(2)今後の方向

 二度にわたる石油危機を契機として世界的にも石油代替エネルギーの中核として原子力に対する期待が強まっているが,西側主要先進国では原子力開発促進の努力にかかわらず原子力開発が停滞ぎみな現況にある。
 これらの国では,我が国と比べ資源が比較的豊かであり,原子力開発の遅れに対しては,他のエネルギー源の増強により対処しうる一面もあるが,国内エネルギー資源に乏しい我が国としては,エネルギーの安定供給確保を図る上で原子力開発の遅れは許されない。
 今後,我が国の原子力の開発利用を推進していくに当たっては,当面,次の点に配慮していかなければならない。
 まず第1に原子力発電は既に総発電電力量の約16%(昭和55年度)を占めるに至っており,石油代替エネルギーの中核として原子力発電の開発を一層強力に推進していくことである。
 このため,原子力発電の推進は安全確保なしにはありえないことを十分認識し,安全確保をより一層徹底して原子力に対する信頼を確保するとともに,併せて原子力施設の立地地域との調和及び地域の発展にも寄与することにより,立地難の打開に努めていくべきである。更に軽水炉の性能向上,運転性・信頼性の向上,放射線作業環境の改善等我が国の国情に合った,いわば日本型軽水炉の確立を図るとともに,核燃料サイクルの確立,放射性廃棄物対策の推進等原子力発電を円滑に進めるための基盤整備を進める必要がある。
 第2に実用化を図るべき段階に達した技術開発プロジェクトについて官民あげてその実用化に向けての努力を進めるとともに,これらに続く広範な分野に及ぶ研究開発プロジェクトを効果的に推進していくことである。
 即ち,実用化を図る段階にきているプロジェクトとしては,新型転換炉の実証炉及びウラン濃縮原型プラントの建設計画があり,それぞれ今後の進め方を定めていく必要があり,また,東海再処理施設の経験を基に日本原燃サービス(株)により準備が進められている民間再処理工場の建設も,重要な課題である。
 一方,本格的なウラン・プルトニウムサイクルの確立に必要な高速増殖炉の開発については原型炉の建設準備が進められ,高レベル放射性廃棄物の固化処理技術の開発についてもパイロットプラントの建設に向けて研究開発が進められている。更に,長期的課題である多目的高温ガス炉の開発についても実験炉の建設のための準備が整いつつあり,核融合の開発についても臨界試験装置の建設に次ぐ次段階の目標をめざして研究開発を進める段階に来ている。
 このように,原子力の技術開発は,基礎研究から実用化に近い段階に至るまで広範な技術開発が着実に進められ,それぞれ新しい段階に進みつつある。このため多額の資金と多くの人材を必要とする状況にあり特に実用化段階に近い技術開発プロジェクトについては,民間産業界の一層積極的な取組みが期待される。
 第3に,原子力平和利用の推進について国際的な協力を一層強力に進めていくことである。
 すなわち,世界的に核不拡散強化の方策がとられつつあるが,我が国は,もとより国内的には原子力の平和利用に徹する方針をとってきており,国内保障措置体制等の充実を図ってきているところであり,国際的にも核の拡散の防止については,積極的な役割を果たし,新しい国際秩序の形成に貢献していかなければならない。
 更に,原子力の研究開発等の分野での国際協力に積極的に参加するとともに,開発途上国への技術協力を強化するなど,国際協力を増進し,国際的にも原子力平和利用の推進に寄与していく必要がある。


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