第8章 放射線利用
1 放射線利用の動向

(2)農林水産業への利用

 農林水産業関係の放射線利用による実用化技術としては,馬鈴薯の発芽防止技術のほか,南西諸島及び小笠原諸島におけるみかん類や果菜類の害虫であるウリミバエ及びミカンコミバエの不妊化による撲滅技術があげられる。
 この技術は,60Coのガンマ線照射による不妊雄を大量に野外に放飼することにより,野外の雌が正常な雄と交尾する機会を低下させ,正常な産卵を抑制し,次世代の個体数を減少させることを数世代にわたって繰り返し根絶に至らしめるものであり,農薬による防除と異なり,人体及び環境への影響のない画期的な技術である。

 沖縄県久米島のウリミバエについては,不妊虫放飼を開始して4年後の昭和53年に根絶に成功した。
 なお,現在は,沖縄本島周辺の慶良間諸島でウリミバエの不妊虫放飼を行っているほか,小笠原諸島においてもミカンコミバエの不妊虫放飼を行っている。

 また,試験研究面では,利用分野が広範であり,照射研究(品種改良,食品照射,放射線重合の利用),トレーサー利用研究(生理生態研究,施肥農薬施用法の改良,地下水流動機構の解明),放射化分析利用研究(極微量元素の検出・定量等)が国立試験研究機関を中心として進められている。昭和54年度における研究開発の状況は以下のとおりである。
 照射研究としては,農業技術研究所放射線育種場で,品種改良を図るためのガンマ線による突然変異の誘発を行ったほか,食品総合研究所において不溶化酵素製造法の研究を行い,また林業試験場において放射線処理による木材の飼料化並びにコロイダル燃料の製造に関する研究を行った。
 トレーサー利用は,農業研究における放射線利用の草分けの分野である。
 その内容は広範にわたり,農林水産生物及び病原菌,害虫,病原ウイルスの生理生態に関する研究,施肥法,農薬施用法の改良等の分野で不可欠の方法となっている。さらに,野菜の光合成産物の動態に関する研究,ウンカ・ヨコバイ類の生態と化学的防除に関する研究等を行った。
 放射化分析の分野では,研究用原子炉による放射化分析の農業利用に関する研究をはじめ,魚類の回遊追跡法としてアクチバブルトレーサー法が有用であることの実証に基づき,魚類に対するアクチバブルトレーサーの応用技術の開発研究を進めた。


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