第5章 保障措置及び核物質防護

1 我が国における保障措置

 我が国における原子力の研究開発利用は,原子力基本法に基づき,平和目的にのみ限定して進めてきた。この基本法の精神にのっとり,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)をはじめとする関係法令に基づき,核燃料物質等の管理のための規制を行っている。
 また,我が国は,米国,英国,カナダ,オーストラリア及びフランスの5ヵ国との間に締結した二国間原子力協定に基づき,移転された核燃料物質,施設,設備及びこれらを使用して生産された特殊核分裂性物質等は,軍事目的に転用しないことを約束しており,そのことを確認するため従来より国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受け入れてきた。
 また,我が国は昭和51年6月8日,核兵器の不拡散に関する条約,(NPT)を批准して第97番目の締約国になるとともに,同条約第3条第1項及び第4項に基づき原子力の平和利用により発生するプルトニウム等が核兵器その他の核爆発装置に転用されることを防止するための保障措置協定を国際原子力機関との間に締結(昭和52年3月4日署名,11月21日国会承認,12月2日発効)し,これに伴い前記の二国間原子協定に基づく保障措置の適用は停止され,NPTに基づく保障措置を受け入れることとなった。
 更に,このNPTに基づく保障措置協定を実施するため,原子炉等規制法の一部を改正(昭和52年12月2日施行)したほか,昭和52年12月,(財)核物質管理センターを原子炉等規制法に基づく指定情報処理機関に指定し,核燃料物質に関する計量管理情報の集中管理,国際原子力機関(IAEA)への計量管理情報の作成等の保障措置に係る情報処理を行わせている他,昭和53年7月には保障措置分析所を建設し,各原子力施設から収去した試料に関し保障措置実施に必要な情報を得るため核物質の分析等の業務を行っている。

 なお,我が国における保障措置体制を図示すると図のようになる。
 この間,昭和55年6月には,保障措置の実施に伴う問題点の検討を行うために,保障措置協定議定書第18条に基づく日本,IIAEA合同委員会の第1回会合が開催され,我が国における保障措置の実施の状況とともに,人形濃縮パイロットプラントに対する査察の方法等についての協議が行われた。この結果人形濃縮パイロットプラントに対しては,カスケードホール立入禁止を前提として,約月1回の頻度でIAEA特定査察が行われることとなり,昭和55年7月第1回の特定査察が実施された。査察内容についてはトロイカ(英国,西独及びオランダ)の有するアルメロ濃縮施設に対するものと同様となっている。

 また,昭和54年及び昭和55年上半期に我が国及びIAEAが我が国の原子力施設に対して実施した保障措置の結果,核物質の転用の可能性は皆無であった。
 昭和54年及び昭和55年上半期における国内査察とIAEA査察の実績は以下のとおりとなっている。
 このように,我が国の保障措置は目的を達成しているといえるが,近年の我が国における原子力平和利用,とくに核燃料サイクル分野での事業の拡大及び国際的な核不拡散政策を反映して,今後とも適切に保障措置を実施していくためには,なお解決すべき次のような課題がある。
① 再処理施設,濃縮施設,加工施設等の核不拡散上重要な施設の保障措置手法の確立
② MUF(不明物質量)解析手法の確立
③ 査察による機密情報の漏洩の防止
 とくに,これらについては,我が国のみならず国際的に解決されるべき性格のものであり我が国としては,これらを国際的な検討の場に積極的に参加しつつ解決していく必要がある。


目次へ          第5章 第2節(1)へ