第3章 原子力をめぐる国際動向と我が国の立場

1 INFCEの成果

 〔INFCEの経緯〕
 INFCEは,原子力の平和利用と核不拡散を両立させる方途を探求するため,核燃料サイクルの全分野における技術的,分析的作業を行うことを目的として,昭和52年10月の設立総会(於ワシントン)でその発足をみた。その後,核燃料サイクルの各分野毎に8つの作業部会が設けられ,46カ国,5国際機関の専門家によって精力的に検討が行われた結果,昭和54年10月までに全ての作業部会で最終報告書が作成された。一方,各作業部会の調整を行うために設置された技術調整委員会(TCC)においても,各作業部会の作業全般をとりまとめたTCC報告書が作成された。これらの作業結果を受けて,昭和55年2月ウイーンにおいて最終総会が開催され,各作業部会報告書及びTCC報告書を採択して2年4カ月にわたる検討作業を終了した。
 原子力委員会は,INFCEの開始に当たって,「INFCEに臨む我が国の基本的考え方」(昭和52年10月14日決定)を示し,「INFCE対策協議会」を設けて対応策を検討してきた。また,INFCEにおいては再処理,プルトニウムの取扱い及びリサイクルを検討する第4作業部会で,我が国は英国とともに共同議長国を務め,また最終総会においては,我が国代表が議長を務めるなど検討作業に積極的に参加した。

 〔INFCEの成果と意義〕
 INFCEにおいては極めて幅広い分野にわたって,多様な観点からの分析が行われたため,原子力全般に関して重要な成果が生みだされたと考えられる。特に核不拡散の観点から,再処理,濃縮,プルトニウム利用などが評価されたが,保障措置が核不拡散と原子力の平和利用の両立のための手段として最も有効であり,この保障措置をさらに効果的なものとするため,保障措置技術の改良を進めるとともに,国際制度の整備や核不拡散に有効な技術的代替手段の確立を図ることによって核不拡散と原子力の平和利用は両立し得るとの結論となった。

 また,核不拡散に有効な核燃料サイクルの問題については,現在及び将来にわたって核不拡散上有効と評価される特定の核燃料サイクルは存在しないとの結論になった。すなわち再処理については,再処理を行う核燃料サイクルはこれを行わない核燃料サイクルに比べて核不拡散上不利ということはなく,再処理を行う場合には,経済性の観点及び世界全体として再処理工場の数をあまりふやすべきでないとの核不拡散上の観点から,まず,原子力先進国は,自国内に大規模な工場を建設し,原子力後発国はそれらから再処理サービスの提供を受けるのが良いとの結論となった。濃縮については施設の数を制限し,需要に見合った形でその能力を拡張すべきであり,資金的技術的な面から大規模原子力発電国及び大規模ウラン資源国のみが,一国単位の濃縮施設を作る立場にあるとの結論になった。高速増殖炉燃料サイクルについては他の核燃料サイクルと比べ,それ程核拡散上の違いはなく,高速増殖炉が原子力システムに採用されていけば,世界的にみてウラン資源上の制約から解放されるとの結論となった。プルトニウムの熱中性子炉への利用については,経済的にそれ程メリットはないが,エネルギー自立と供給保証の観点から重要と考えている国もあるとの結論になった。
 以上がINFCEの機微な分野における結論であるが,INFCEの真の成果は,核不拡散の観点から原子力の平和利用の面における制約を拡大するという米国の政策とそれに反対する日本及び西欧諸国との深刻な対立に調整のための対話の場を与え,その対話を通じて各国の原子力事情に関する相互理解が深まったことにある。
 なお,昭和55年6月イタリアのベネチヤで行われた先進国首脳会議の最終コミュニケで,本件が取りあげられ,INFCEの検討結果が歓迎されるとともに,全ての国が原子力の平和利用のための政策,計画を策定する際にはこれらの諸検討結果を考慮に入れることが強く要請された。


目次へ          第3章 第2節へ