第1章 原子力発電推進の必要性と今後の進め方

3 自主技術開発の推進

 そもそも我が国の原子力開発利用は自主的に進めることを基本原則の一つとして掲げ諸施策を進めてきたが,原子力開発利用に関し後発国であったことから,技術面においては外国から技術を導入し,その消化吸収を図るという方法が先行してきた。
 しかし,今や我が国の原子力開発利用は,軽水炉については定着化と拡大の時代を迎え,また新型転換炉の原型炉やウラン濃縮パイロットプラントの運転の開始,あるいは高速増殖炉の原型炉や民間再処理工場の建設を間近に控えるなど各分野において新しい展開を見せるに至っており,他方,原子力を取りまく国際環境は,核不拡散の強化をめぐり厳しい情勢が展開されている。
 原子力委員会としては,このような国内外の情勢の展開において,自主技術開発の重要性がますます高まっていることを認識し,ここに改めて自主技術開発についての考え方を述べることとした。

 (自主技術開発の意義)
 我が国の原子力研究開発の個々のプロジェクトは,対象となる技術の位置づけ,開発の経済性等によって我が国の国情に最適な観点から選択され,展開されているが,原子力分野における自主技術開発の意義は以下の4点に要約される。
 まず第一は,自主技術開発を行う過程において,技術が国内に蓄積され,豊富なデータと経験を自ら持つことができ,これによって実用化に際して生ずる各種の問題に的確かつ迅速に対応し,実用化を円滑に進めていくことが,できることである。
 我が国は原子力研究開発利用に当たって,軽水炉をはじめ多くを導入技術に頼ったが,これを消化吸収して我が国に適合した技術体系とするための努力が遅れていたことは否めず,今後一層独自の研究開発を進める必要がある。
 第二は,外国からの原子力技術の導入が難しくなってきていることである。
 先進国の産業戦略や研究開発投資の停帯傾向を考慮すると,今後海外の先進技術の導入が期待できず,また近年とみに問題となっている核不拡散の観点から,濃縮,再処理,重水製造技術などの機微な技術の移転や導入が制約されているなど,従来のような導入技術の消化吸収による開発は困難になっている面があり,したがってこれらの点に十分に配慮し,枢要な技術については自ら開発していくことが重要である。
 第三は,原子力分野の国際協力において,積極的な役割を果たしていくう元で,自主技術の開発が必要なことである。
 我が国の経済面及び技術面での国際的な高い位置づけ及びエネルギー多消費国でありながらエネルギー資源の海外依存度が非常に高いという国情を考濾すれば,我が国は原子力分野の技術開発において国際的な場で積極的な役割を果たしていく責務がある。この意味において,我が国は高速増殖炉や核融合等の巨大かつ困難な先進技術に関する国際協力に積極的に対応していかなければならないが,その際,先進国に比肩しうる我が国独自の考えや技術を持っていなければ,真に実りのある協力を行い,成果を挙げることはできない。また,我が国は発展途上国との国際協力においても先導的な役割が期待されているところであるが,自主技術の蓄積のうえに立ってこそ真にこれに貢献していくことができるものである。
 第四は,我が国の将来産業としての原子力産業の発展にとって,自主技術の開発が不可欠なことである。
 今後世界的な原子力平和利用の拡大が期待されること及び原子力産業が幅広い関連分野を有する高度の知識集約産業であることを考慮すれば,原子力産業は我が国の将来の産業の中核として位置づけられるべきものであり,原子力産業の発展を図るとともに,これを将来の輸出産業にまで伸ばしていくためにも,核燃料サイクルの全ての分野にわたり自ら開発した技術をもつ必要がある。

 (自主技術開発の展開)
 既に相当の規模で実用に供されている軽水炉は,米国からの技術導入によって開始されたものであるが,我が国最初の発電炉である日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)が発電を開始して以来17年を経過し,この間における米国技術の消化吸収及び国内における技術開発と経験の蓄積により,軽水炉技術は相当程度に我が国自身の技術となりつつある。ハードウエアの面については,既に国産化率90%以上に達し,ほぼ国産の原子炉といってよい段階にあり,特に,周辺機器や部品類の一部については,我が国の厳しい基準に適合させる過程において相当に高い水準のものとなっており,溶接技術,バルブ,燃料体自動取替技術,耐震設計などは海外と比較しても優れたものとなっている。しかしながら,今後とも,さらに信頼性の向上,作業性の向上,従業員の被ばく低減,トラブルの根絶等を目指して,個々の機器にとどまらずシステムについても改良を加えていく必要があり,このためプラント全体にわたる改良・標準化を初め,我が国の国情を十分に踏まえた,いわゆる日本型軽水炉の完成に向けて努力を払っていかなければならない。これらの努力により得られた成果は既に建設中の軽水炉に生かされており,今後一層その努力を進め,軽水炉技術の定着化を図っていくことが重要である。
 新型転換炉及び高速増殖炉の開発は,いずれも当初より自主技術で進められ,新型転換炉については原型炉が,高速増殖炉については実験炉が完成し,運転されている。この両炉の開発においては,これまで十数年にわたる技術開発の成果が蓄積されており,開発に当たっては,動力炉・核燃料開発事業団の大洗工学センターにおいて実規模での各種試験を行い,その結果を踏まえつつ進めるなど,開発途上で生ずる問題点について技術面での対応が十分に可能な体制が整えられている。さらにこの両炉に必要なプルトニウム燃料についても自主技術により,すでに製造・供給されており,また高速増殖炉の使用済燃料の再処理技術の開発も進められている。このような努力の結果,今や両炉の運転の実績が着々と蓄積され,次の段階である実証炉あるいは原型炉の設計に対し,その成果が充分に取り入れられるなど,開発の着実な進展が図られている。また,実用段階を間近に控えた新型転換炉については,原子力委員会新型転換炉実証炉評価検討専門部会において,その実用化の意義,技術的評価,経済的評価等について審議を行っており,今後の施策の確立に資することとしている。

 ウラン濃縮技術については,核不拡散上の観点から,海外からの導入が不可能であったこともあり,自ら開発することとし,昭和48年に遠心分離法の開発を国のプロジェクトに指定して,動力炉・核燃料開発事業団において開発が進められてきた。この技術開発の中心課題は,高性能,長寿命かつ低価格の遠心分離機の開発及びその生産技術の確立にあり,開発は同事業団とメーカーとの密接な協力のもとに進められた。この結果,今や我が国の遠心分離機の性能は国際水準に達したといわれており,昭和54年9月にはパイロットプラントが部分運転に入ったことにより,我が国は自主技術開発によって世界で8番目のウラン濃縮技術保有国になった。この施設の建設・運転により,我が国のウラン濃縮の基本的技術が確立し,将来の本格的な濃縮ウラン国産化への礎が固まるものと期待されている。このため,これらの開発成果を踏まえ,原子力委員会は新たにウラン濃縮国産化専門部会を設置し,実用濃縮工場の建設・運転に至るまでの具体的な道すじとその推進方策について検討し,ウラン濃縮の早期国産化を図っていくこととしている。
 再処理については,動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設は,フランスからの導入技術によるものであるが,その建設に際しては,一部の輸入機器を除き国内で製作,施工しており,また,建設,試運転の過程においては幾多の箇所に改良を加えるなど技術の消化・吸収に努めてきた。さらに,放出低減化技術,ウラン・プルトニウム混合抽出技術,混合転換技術等についても,我が国の国情に合わせた技術体系を確立すべく研究開発が進められており,昭和55年8月には混合転換技術によるプルトニウム転換施設の建設が開始された。この東海再処理施設のこれまでの運転及び今後の運転を通じ蓄積される技術と経験を基に,自主技術の向上を図り,我が国の民間再処理工場の建設,運転にその技術を十分に生かしていくことが重要である。
 放射性廃棄物の処理処分技術については,自主技術を中心に,諸外国の研究動向を参考にしつつ研究開発が進められている。低レベル放射性廃棄物の海洋処分技術については,日本原子力研究所,電力中央研究所等において,セメント固化処理技術の開発,安全性評価試験等が行われ,既に十分安全を確保し得る技術として確立されており,試験的処分を開始し得る段階に達している。特に我が国は高水圧下における投棄物の強度試験を実施した世界で唯一の国である。また,低レベル放射性廃棄物の陸地処分については今後実証試験を行うこととし,比較的放射能レベルの高い廃樹脂等の処理技術については,我が国独自の技術の開発も進められている。高レベル放射性廃棄物に関しては,我が国として最適な処理処分技術の確立を図るため,我が国の再処理施設において発生する高レベル放射性廃液の特性に適したガラス固化プロセス等の処理技術の研究開発が進められるとともに,我が国の条件に適合した安全性の高い処分技術を目指した調査研究が,動力炉・核燃料開発事業団において実施されている。また処理処分に際しては安全性評価が重要であるが,これに必要な研究が日本原子力研究所等において進められている。


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