第1章 原子力発電推進の必要性と今後の進め方

4 原子力発電所等の立地促進

 原子力発電を推進するためには,原子力発電所をはじめ核燃料サイクル関連施設,研究開発施設等の立地を円滑に進めていくことが極めて重要である。
 電源開発調整審議会で決定された原子力発電所の基数について見ると昭和45年度から49年度までの5年間には17基が決定されたが,昭和50年度から54年度までの5年間には8基であり,これらは全て既設地点における増設で,新規立地県及び地点は1地点もなかった。また,米国TMI原子力発電所事故直後の昭和54年度には1基も決定に至らなかった。昭和55年度に入ってからも,四国電力(株)伊方原子力発電所3号機及び中国電力(株)島根原子力発電所2号機について,電気事業者から地元に建設の申し込みが行われ,引き続き両者の話し合いが進められる一方,東京電力(株)柏崎・刈羽原子力発電所2号機及び5号機について第一次公開ヒアリングが行われるなどの動きがあるに止まった。
 これらのことは,原子力の安全性に対する不安感など様々な問題から新規立地地域を中心に,原子力発電所への取り組みが極めて慎重になっており,特に最近においては,立地調査段階においてすら地元の協力が得られ難くなっている場合が多いなど,建設までの期間が長期化する傾向にあるということである。
 一方,我が国は,原子力発電規模の目標として,昭和65年度には5,100〜5,300万kWを掲げており,この目標を達成するためには,今後10年間に2,300〜2,500万kWの原子力発電所を新たに開発する必要があり,政府及び関係機関の格段の努力により,立地の円滑な促進を図らなければならない。
 原子力発電所等の立地促進については,原子力先進諸外国においても共通した課題であり,各国において国民の合意を得るために相当の努力が払われている。
 我が国においても,昭和49年には電源三法(発電用施設周辺地域整備法,電源開発促進税法,及び電源開発促進対策特別会計法)を新設して,国として立地対策について積極的な取り組みを進めてきており,また,国が積極的に対策を講ずる必要のある個別の立地地点については,昭和52年以来,総合エネルギー対策推進閣僚会議の了解のもとに「要対策重要電源」(昭和55年10月現在28地点うち原子力発電所12地点)に指定し,国の出先機関及び関係地方公共団体で構成する電源立地連絡会を設け,関係機関の連絡調整を密にするとともに,地域振興のモデルプランの提示や地域の実情に応じたきめ細かい広報活動等の施策が講じられている。
 原子力発電所の立地難の共通の要因は,原子力発電所の安全性についての国民の不安であるが,安全性について国民の信頼を得ていくためには,原子力発電の安全規制の強化,安全性研究の充実等に努めることはもとより,何よりも現実のトラブルを少くし,稼動率を向上させていくことが必要であり,政府,電気事業者,メーカー等の建設・運転に関係する人々の一層の努力が望まれる。また,原子力発電所の事故については周辺公衆に影響を与えるような事故は,未だ一度もなく,そのような事態を招くようなことのないよう万全の施策が講じられているが,TMI原子力発電所事故の経験をも踏まえ,万一の場合の防災対策についても体制の整備を進め,住民に安心感をもつてもらうよう十分配慮する必要がある。
 一方,原子力発電の必要性とともに,安全性についての国の広報活動の積極的展開が必要とされる。政府においては,これまでもマスメディアを通じての広報,各種研修の実施,広報資料の作成配布等を実施してきたが,昭和55年度においては,従来,都道府県のみを対象としていた広報対策交付金を発展的に解消させ,都道府県に加え,立地地域の市町村における広報活動を積極的に進めるための広報・安全等対策交付金制度を新設した。なお,今後立地初期の調査段階における対策の重要性が増していることに鑑み,原子力発電所の立地予定地点等における広報活動についても,早い段階から積極的に展開していく必要がある。
 さらに,立地地点の調査に関しては,地元の協力が得られやすい形でその促進を図るとともに,単に原子力発電所としての技術的側面からの立地の調査のみならず,地域の実情を踏まえた社会的経済的影響について調査を十分に行い,地域の側に立つた立地受入れについての判断資料を整えていくことも必要である。
 また,原子力発電所の設置のためには,設置地域の福祉向上を図っていくことが必要である。このため,電源三法により,道路,港湾,公園,水道,教育文化施設等の公共施設を,立地市町村及びその周辺市町村が整備することとしており,これに必要な経費として発電所の出力に応じた電源立地促進対策交付金を自治体に交付することとし,その額は,原子力発電所について他の発電所より優遇措置を講じている。昭和55年度においては,地域の要望を踏まえ,その交付限度額の増額及び交付期間の延長を行い,改善を図っているところであり,今後ともその充実に努めていくことが重要である。
 さらに,建設予定地点周辺海域における漁業活動との調整も,立地問題における大きな課題である。これら漁業活動との調整は,一義的には当事者間における問題であり,電気事業者と漁業者との間における円滑な調整が進められることを期待するものであるが,発電所の立地と漁業との共存共栄が図られなければならないという立場に立って,国においても,漁業関係者に対し原子力発電の安全性について理解を求めつつ,両者の間で十分な調整が図られるよう配慮すべきである。
 原子力発電所の立地は,地域へのインパクトが大きく,その影響が各方面にも及ぶため地域の関係者の合意のうえに進められなければならない問題であり,特効薬的方策を見出すことは難しく,原子力発電の必要性及び安全性についての地域住民の理解と協力を根気よく求めていくとともに,地域の要望を踏まえつつ地域住民の福祉向上の方策の改善を積み重ね,原子力発電所の立地と地域社会との調和の方途を探究していかなければならない。
 昭和55年11月28日,「石油代替エネルギーの供給目標」の閣議決定に際し,原子力委員会としては,原子力発電所の立地促進の重要性に鑑み「原子力発電の開発促進について」との委員長談話を発表し,その中で原子力発電所の立地促進について関係方面の一層の努力と協力を強く呼びかけたところであり,原子力委員会としても,今後一層の努力を傾注していくこととしている。


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