第3章 1980年代への展望と今後の課題
4.より一層の国民の協力のもとで

 第1章でも述べたように,今日の厳しいエネルギー情勢の中にあって,エネルギー資源に乏しい我が国が,石油代替エネルギーの確保を図っていかなければならないことの重要性は論をまたない。この中にあって,原子力は,従来からの研究開発利用の成果が実り,既に実用化から定着化及び拡大の段階を迎え,石油代替エネルギーとして当面最も現実的なものとなっている。
 我が国においては,原子力研究開発利用の必要性,重要性という点に関する限り,国民の相当の理解を得てきているとみられるが,個別の原子力発電施設等の立地に際しては,必ずしも十分な地元住民の支持が得られず,立地が難航する面もあり,いわゆる総論賛成,各論反対の傾向が指摘されてきた。また,国民の完全な支持が得られない最大の理由としては安全性に対する種々の不安が完全には払しょくできないことがあげられており,特に自分の居住地域への原子力発電施設等の立地に対して,反対の傾向が強い。
 こうした傾向をみると,原子力発電所における故障等の発生,低い設備利用率等の現象が不安を招く原因のひとつとなっていることは否めないし,3月の米国原子力発電所の事故もこの不安感を一層助長する結果になったと考えられる。
 そもそも原子力は,放射性物質及び放射線を扱うという他の技術分野とは異なった特殊な性格を有しており,このためにこそ,その研究開発利用については,当初から安全性の確保を大前提として推進してきている。我が国としては,今後とも安全性の確保に一層の努力を傾注することにより,原子力をより信頼度の高い実用技術として定着させていかなければならない。
 ところで,国民の一層の理解と協力を求めるためには,第1に国民の持つ原子力の安全性に対する不安に応える必要があり,国民が安全性を実感として理解できるようにすることが重要である。このためには,安全性の実証試験等の成果を蓄積し,また安全研究の推進等,国及び民間が一体となって安全性の確保,信頼性の向上に努め,これらを通じ,原子力発電所の安全運転の実績を積み上げることが必要である。そのためには,原子力安全委員会を中心とする国による適切な安全規制を強力に実施するとともに,原子力発電施設等の設置者はこれを十分に遵守することが肝要である。
 第2に,原子力発電施設等の設置者と国民との間をはじめ,政府,地方自治体,産業界等関係者相互の信頼関係を築いていくことが大切である。このためには,常に地元住民及び一般国民との,或いは関係者相互の意思疎通に努め,国民が不安となるような事項について情報の提供を行うとともに,相互の意見交換を尽くすようにしていくことが必要である。
 第3に,個別の立地地点においては,それぞれの地元における個有の事情に配慮しつつ,地点に即したきめ細かい対策を講じることもその理解と協力を得る上で極めて重要なことである。
 このように,安全性の確保を大前提としつつ,相互の信頼関係を築いていくことが,我が国全体として,原子力の研究開発利用に対する国民のより一層の理解と協力を得る上で最も要請されるところであり,原子力委員会としても関係者の協力を得て今後とも最大限の努力を払っていく所存である。


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