第2章 原子力研究開発利用の進展
6.放射線利用

 放射性同位元素や放射線は医学,農学,工業等の分野で広く利用され,今や国民生活に欠くことのできない役割を果たすようになっている。昭和54年3月には放射性同位元素や各種放射線発生装置を利用して放射線障害防止法の規制を受けている事業所数は,3,822機関にのぼっているが,これは20年前の昭和33年度の304機関に比較すると約13倍に増加している。
 最近の特徴としては,医学分野における利用がめざましく,中でも診断用の放射性同位元素は年20〜25%の増加を示している。特に治療面においては,サイクロトロンの速中性子線によるがん治療の臨床研究が軌道に乗り成果をあげているほか,診断面においては機器の改良等による診断の効率化,医療被ばくの低減等も進んでいる。
 工業利用の分野では,測定・分析技術の精度向上,電子線照射による各種材料の工業化に努力が払われた。食品照射においては,玉ねぎ等の保存期間延長を図るため照射効果,健全性試験の研究が進められた。このほか,近年になり,農林水産分野での利用として放射化分析法を用いた魚類の動態解明の分野で成果をあげている。また,廃煙,廃水の無公害化等環境保全の技術への応用も期待され,研究開発が進められている。
 このような近年の放射線利用の拡大を踏まえ,これに対処するため,放射線障害防止法の改正について検討が進められた。
 放射線利用に関する国際協力としては,従来からフランスとの間で放射線化学分野での研究協力が進められてきたほか,昭和53年8月からは国際原子力機関(IAEA)がアジア・太平洋地域の研究協力の一環として進めている「原子力科学技術に関する研究・開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」に加盟している。この加盟を機に,我が国は,国際協力事業団(JICA)を活用して昭和54年10月から日本原子力研究所及び国内の食品照射関連機関を中心にして約1ヵ月にわたるワークショップ(国際研修会)を開催し,また,本協定に基づく今後の協力活動の具体策を検討するため,第一回RCA加盟国政府専門家会合を昭和54年10月に東京で開催する等の協力を行った。
 我が国のイニシアティブにより行われた同会合は,RCAの活動を本格的な軌道にのせ,今後の発展のための方向づけを行ったという点で画期的であったと考えられる。東南アジア地域の開発途上国に対する協力は我が国としての方針となっており,原子力分野においても今後積極的にこれを進める必要があるが,当面は,放射線利用の面で協力を進めて行くことが,これら諸国の要望に応えることにもなると考える。


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