第2章 原子力研究開発利用の進展
5.核融合,原子力船及び多目的高温ガス炉の研究開発

〔核融合〕
 核融合については,我が国のほか,米国,EC,及びソ連においてそれぞれの特徴を生かしつつ,核融合動力炉実現の前提となる臨界プラズマ条件の達成を目標とした大型実験装置の建設を含む大規模な研究開発が進められている。
 我が国における臨界プラズマ試験装置(JT-60)の製作も順調に進捗しており,昭和54年10月にはこのJT-60を含む今後の核融合研究施設の敷地を茨城県那珂町とすることが正式に決定され,現在昭和58年の完成をめざして建屋の建設,機器の据え付け等の準備を急いでいる。
 一方,これらの核融合研究開発は,21世紀までにわたる極めて大規模なものであるから,人的,物的資源の効率的利用及び相互啓発の観点から国際協力に対する関心も高く,経済協力開発機構国際エネルギー機関(OECD-IEA),国際原子力機関(IAEA)における多数国間協力及び日米,日ソの二国間協力が積極的に進められている。特に,昭和53年5月の日米首脳会談の合意を踏まえて検討が進められていた日米核融合研究協力については,昭和54年5月2日,日米エネルギー等研究開発協力協定を締結し,この協定の下で,8月から米国のプラズマ試験装置ダブレットIIIでの共同研究等が開始されたが,我が国における原子力研究開発分野での国際協力としては,その規模の面においても内容の面においても画期的なものといえる。

 〔原子力船〕
 原子力第1船「むつ」は,昭和53年10月,長崎県佐世保港へ回航され,昭和54年1月からは,従来から進めてきた安全性総点検の一環として,新たに原子炉プラント機器の点検が開始されたほか,7月には船底等船体の点検も実施された。また,遮へい改修については,所要の準備が行われるとともに,原子力委員会及び原子力安全委員会の審査を経て,昭和54年11月,その実施に必要な原子炉の設置変更が許可された。
 日本原子力船開発事業団の研究開発機関への移行については,日本原子力船開発事業団を廃止するものとする期限を昭和55年11月まで延期するという日本原子力船開発事業団法の改正(昭和52年11月)の趣旨を踏まえて現在検討が進められており,原子力委員会においても,昭和54年2月原子力船研究開発専門部会を設置し,同部会において原子力船研究開発の課題,研究開発体制のあり方等について審議を進めている。
 「むつ」の開発計画は,昭和49年9月の放射線漏れ以来,当初の予定がかなり遅れているが,今後なお解決すべき問題もあり,関係者の協力を得つつ本計画の所期の目的が達成されるよう一層努力を続けて行く必要がある。

 〔多目的高温ガス炉〕
 最近の厳しいエネルギー情勢に対処するため,石油代替エネルギーの開発が大きな課題となっているが,電力以外の分野での核熱エネルギーの利用に対する関心も高まりをみせている。
 我が国においては,従来からこの分野での調査研究を進めてきており,特に日本原子力研究所は昭和44年から多目的高温ガス炉の研究開発に取り組んできた。同研究所においては,昭和53年度には新たに実験炉用の機器の実証試験を目的とした大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)の建設を開始するとともに,実験炉の機能を発揮し,かつ安全性を確保,保持することができる全プラントシステムの総合設計が行われた。
 また,通商産業省においては「高温還元ガス利用による直接製鉄技術の研究開発」の第一期計画が進められたほか,民間においても産業用エネルギー源としての多目的高温ガス炉及び熱利用系の開発に対し関心が示された。
 一方,国際協力の面においては,二国間の協力が進展しつつあり,特に西ドイツとの間では,高温ガス炉の研究開発協力に関し,日本原子力研究所と西ドイツユーリッヒ原子力研究所との間で協力協定が昭和54年2月に締結された。


目次へ          第2章 第6節へ