第2章 原子力研究開発利用の進展
2.安全研究と軽水炉の改良・標準化等

〔米国原子力発電所事故の教訓と安全研究の強化〕
 原子力施設等の安全研究については,原子力安全委員会の原子力施設等安全研究専門部会において,従来からの安全研究年次計画の見直しを行い,国及び民間の安全研究実施分担,研究推進体制を含めた計画的総合的推進方策の検討が進められていたが,昭和54年3月に発生した米国原子力発電所事故の教訓を踏まえ,配管等の小破断による冷却材喪失事故に関する研究等を強化することを内容とした昭和54年度及び昭和55年度の安全研究年次計画が,昭和54年7月,取りまとめられた。
 また,環境放射能に関する安全研究についても,原子力安全委員会の環境放射能安全研究専門部会で検討が進められ,昭和54年7月,原子力施設の安全研究と同様,米国の事故を踏まえた環境放射能予測システムに関する研究の強化等を内容とした昭和54年度及び昭和55年度の年次計画が取りまとめられた。
 原子力委員会としては,これらの年次計画に沿った研究が円滑に実施され,所期の成果を挙げることができるよう必要な資金,人材等の確保に努めることとしている。
 更に,米国原子力発電所事故を契機として,安全対策に対する国際協力の機運が高まっており,東京サミットにおいても国際原子力機関(IAEA)を中心とした協力を進めることの必要性が確認されたが,我が国もこれらの国際協力には積極的に参加していく方針である。

 〔工学的安全研究〕
 原子力施設の冷却材喪失事故時の安全性,軽水炉燃料の安全性,構造の安全性,地震時の安全性,放射性物質の放出の低減化対策,核燃料施設の安全性,核燃料輸送容器の安全性等の工学面を中心とした安全研究が,引き続き日本原子力研究所ほか関係機関の下で研究が進められた。冷却材喪失事故に関する研究のため,昭和44年度から進められてきたROSA計画については,加圧水型炉を対象としたROSA-II計画を経て,現在沸とう水型炉を対象としたROSA-III計画が進行中であるが,先の米国原子力発電所事故の教訓を踏まえ,配管等の小破断時の影響等についても十分留意して研究を進めることとしている。

 〔環境放射能安全研究〕
 環境放射能に関する安全研究については,放射線医学総合研究所を中心として,着実に研究が進められた。
 特に同研究所では,昭和52年度に完成した晩発障害実験棟に加え,昭和54年度からは新たに内部被ばく実験棟の建設が開始された。これらの施設の整備によって,低線量及び低線量率被ばくの問題や内部被ばくの問題に関する研究の一層の進展に大きく貢献することが期待されている。

 〔原子力施設の安全性実証試験〕
 昭和49年に新設された電源開発促進対策特別会計により原子力発電施設の立地の円滑化を図ることを目的として進められている安全性等の実証試験については,日本原子力研究所における格納容器スプレイ効果実証試験,(財)原子力工学試験センターによる大規模耐震実験装置の整備等が順調に進められている。
 また,国際協力面では,従来からの協力に加え,新たに日本原子力研究所における大型再冠水効果実証試験施設を使用した日米独3ヵ国による安全研究協力を進めることとしている。

 〔軽水炉の改良・標準化〕
 軽水炉技術の一層の信頼性の向上,検査の効率化等を目的とした第二次改良・標準化計画については,昭和55年度終了を目途として昭和54年度も引き続き通商産業省によって進められた。この改良・標準化の成果は,逐次現在安全審査中の軽水炉に取り入れられてきている。また,産業界においてもこの改良・標準化に積極的に参画した。なお,軽水炉技術のより一層の向上に関しては,民間企業間による国際的な協力の試みも進められた。


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