第Ⅰ部 総論
第2章 原子力研究開発利用の進展と新長期計画

2 核燃料サイクルの確立

 昭和52年から昭和53年にかけては,核燃料サイクル分野での従来からの研究開発が実り,我が国の自主技術について大きな自信を得るに至るとともに,それらの研究開発の成果を得て自主的核燃料サイクルの確立のための準備が積極的に進められた。

 〔天然ウラン〕
 天然ウランについては,我が国の電気事業者はカナダ,フランス,オーストラリア等と長期及び短期の購入契約を締結しているほか,更に,ニジェールにおけるアクータ鉱山からの開発輸入(約2万ショート・トン)が昭和53年から開始された。
 我が国を取りまくウラン資源国の動きについては,カナダは核不拡散の観点から,昭和52年以降,対日ウラン禁輸措置をとつていたが,昭和53年1月,日加原子力協力協定改訂交渉が妥結し,輸入が再開されている。また,オーストラリアにおいては,環境問題についてのオーストラリア政府と現地民との話し合いが解決し,ウラン鉱山の開発に目途がつき,我が国への輸入に明るい見通しが得られた。
 一方,我が国の海外調査探鉱活動も,動力炉・核燃料開発事業団及び民間企業により活発に進められている。
 また,昭和53年4月には,動力炉・核燃料開発事業団において,鉱石から六フッ化ウラン(UF6)への連続工程による一貫製錬転換法のパイロット・プラントの建設が着手された。

 〔ウラン濃縮〕
 濃縮ウランについては,日米原子力協力協定に基づき,米国から,順調な供給が続けられている。
 また,昭和53年2月,米国が濃縮契約の新方式(調整可能確定量契約方式)を発表したことに伴い,我が国の電気事業者によつて,現在の契約(長期確定量契約)を新方式に切り替えると同時に,濃縮ウランの引取りを現在の発電計画に合うようにするための交渉が米国との間で行われている。
 一方,従来の研究開発成果を踏まえて,昭和52年8月,動力炉・核燃料開発事業団において,ウラン濃縮パイロット・プラントの建設が着手された。このパイロット・プラントほ最終的には,遠心分離機7,000台の規模にすることが計画されており,昭和54年夏には1,000台による部分運転が行われる予定である。また,このパイロット・プラントの建設・運転及び,その後の実証プラントの建設運転経験を経て,その経済性等の確認を行つていけば,国内におけるウラン濃縮の新規需要の相当部分を国内で賄うことが十分に行いうる見通しとなつた。

 〔再処理〕
 我が国は,将来第二再処理工場の建設,運転が開始ざれるまでの間は,再処理の大部分は海外に委託して行う方針としているが,昭和52年9月,我が国の電気事業者とフランスのCOGEMA社との間で,昭和53年5月には,英国核燃料公社との間で新たな再処理委託契約が締結され,これにより,動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設による再処理と従来既に契約済みのものもあわせ,昭和65年頃までの再処理役務はほぼ確保されたといえる。
 なお,第二再処理工場の建設は,民間企業により実施せしめることとしており,それに必要な措置として,現在原子炉等規制法の改正案を国会に提出中である。
 米国との東海再処理施設の運転に関する再処理交渉は,難航の末,昭和52年9月,解決をみた。これにより,国内での再処理が,2年間99トンの枠内で認められることとなり,我が国がエネルギー確保のため自主的核燃料サイクルの確立を目指すとの国の基木姿勢を一層明確にする結果となつた。
 東海再処理施設は,昭和52年9月から試験運転を開始し,ウラン試験,ホット試験と段階を踏んで,当初は順調に進捗した。しかしながら,昭和53年8月に発生した再処理工程内の蒸発缶内のトラブルのため,昭和53年9月末現在試験運転は停止している状況である。この停止までの段階では,ほぼ初期の予定どおりの成果を得ており,今後の点検,改修及びその後の運転を進めることにより我が国における再処理技術の確立に大きく貢献する見通しである。なお,再処理に伴う放射性物質の放出低減化の研究開発にも一層の努力を傾注した。また,日米再処理交渉における共同決定の際の了解事項に基づき,東海再処理施設の運転試験設備(OTL)によるウラン及びプルトニウムの混合抽出,混合転換の研究開発も進められた。

 〔放射性廃棄物の処理処分〕
 昭和53年6月の原子炉等規制法の一部改正に伴い,放射性廃棄物の廃棄については,原子力施設の事業所内と事業所外の廃棄に区分して規制されることとなつた。これに伴い,放射性廃棄物の廃棄の基準を整備する必要があるため,原子力委員会において廃棄に関する技術的な基準の検討を行い,昭和53年8月,「放射性廃棄物の廃棄に関する技術的基準」を決定した。これを受けて,現在,関係省庁において関連規則等の改正が進められている。
 低レベル放射性廃棄物については,試験的海洋処分を昭和54年度に実施することを目標に所要の準備が進められているが,その一環として,低レベル放射性廃棄物の固化体を封入した海洋投棄用固化体に関する基準作成及びその固化体の管理法についての試験研究を進めるとともに,投棄船の改造に関する設計研究が進められている。また,陸地処分についても現在調査が進められている。

 高レベル放射性廃棄物の処理については固化技術開発が動力炉・核燃料開発事業団において,既にコールド試験が実証規模で行われるとともに,群分離,消滅処理等の新処理技術に関する基礎的な研究及び固化体の安全評価試験が日本原子力研究所を中心に進められた。今後,これらの結果を踏まえて,ホット試験,固化及び工学貯蔵プラント実証試験へ進むこととなる。また,高レベル放射性廃棄物の処分に関しては,我が国の地質及び地層の特性を調査するとともに,地層処分時の安全評価試験を実験室規模で進めている。


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