第8章 放射線利用
1 放射線利用の動向

(3)医学への利用

 放射線の医学利用は,エックス線を用いる診断,高エネルギー放射線発生装置やコバルト等を用いる治療及び放射性同位元素を用いる診断・治療(核医学)の3分野にわたって行われている。
 エックス線診断は臨床医学のすべての領域にわたって広く利用されており,最も重要な検査法の一つになっている。特にコンピュ一夕技術を利用した精密定量診断装置(EMIスキャナなど)が実用化され,医療に大きく役立っている。
 一方,診断件数の増加とともに医療放射線被ばく線量もまた増加し,その対策が必要となりつつある。対策の第一は患者及び医療従事者の放射線被ばくを軽減し,かつ診断効果を挙げるような診断機器及び診断法の開発であり,最近数年間に著しい進歩を見せている。特に,間欠ばく射法,高感度イメージインテンシファィアを用いる撮影法等が導入され,胃集団検診等に応用されて大きな成果を挙げている。対策の第二は放射線ことにエックス線を用いる診断により得られた医学情報を管理し,無駄な検査を繰り返すことのないような診療システムを整備することであり,新設の病院では中央放射線部門及び医療情報処理部門の充実が進められている。
 放射線治療の対象は悪性腫瘍が主であり,国立がんセンターを中核とする診療施設の整備と相まって,着実にその成果を挙げている。また,耐放射線性を持つ黒色がんに対する高LET放射線(速中性子線,陽子線等)による治療の可能性について放射線医学総合研究所では医用サイクロトロンによる予備的な生物実験を行っていたが,治療効果が著しいことがわかった。このため,昭和51年2月から本格的な治療研究に入り,成果が挙がりつつある。今後の悪性腫瘍の治療には手術,化学療法等と放射線治療との有効な併用が必要と考えられるが,特に免疫療法の導入と放射線治療との併用により成績の向上が認められており,これらの今後の発展の可能性は大きい。放射線治療の場合には,治療成績の向上と裏腹の結果として,後障害の発生もまた増加する傾向があり,その防止のため,コンピュータを利用する高精度治療システムが開発され普及しつつある。
 放射性同位元素を利用する診断は,99mTc及びサイクロトロンによって生産される核種に代表される短寿命核種の開発利用とシンチレーションカメラを中心とする放射線計測技術,及びラジオイムノアッセイによるインビトロテストの3方面の普及に支えられて急激に発展している。我が国では,放射線医学総合研究所において医用サイクロトロンによる短寿命核種の生産,利用に関する研究開発が開始されており,陽電子カメラの開発等を含めて,この分野の研究が積極的に推進されている。


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