第8章 放射線利用
1 放射線利用の動向

(4)工業利用

 放射線の工業利用は化学,紙パルプ,鉄鋼,機械,電気,造船,建設,土木等広汎な業種に及んでおり,その利用技術もゲージング,トレーサー,非破壊検査,螢光エックス線分析,放射化分析等多岐にわたっている。
 また,エネルギー利用技術も着実に進展している。
 放射線のケージング利用については,工程管理のシステム化に対応して,厚さ計,液面計,水分計等にRIが有効に利用されているほか,環境汚染物質の分析手段としてイオウ分析計及びラジオクロマトグラフィー装置が地方公共団体等に多数設置され,公害のモニタリングに重要な役割を果たした。
 非破壊検査法については,鉄鋼,機械,造船業,航空業を中心に60Co,192Ir,170Tmが放射線源として利用されており,非破壊検査専業会社の数においては,我が国は世界一を誇っている。
 トレーサー利用については,物質の移動調査,工程解析の手段として広く利用され,35Sによるエンジン・オイル消費量の測定,85Krによる半導体電子部品のリーク試験,197Hgを用いた食塩電解槽内の水銀計量法等が行われている。また,137Csを用いた鉱工業で発生するスラリーの粒度分布測定に関する研究,螢光X線法による鉱石の野外測定等が行われた。
 エネルギー利用については,147Pmを利用した自発光塗料の時計用文字板への利用のほか,煙探知器,放電管類の暗黒効果除去に見られるように放射線による電離現象が広く利用されている。また,今後普及することが予想されるプルトニウム電池を用いた心臓ペースメーカーについては,その安全性試験を実施し,その安全性を評価するに必要なデータが得られている。その他使用済燃料から,90Sr,187Cs,147Pm等の有用核種を分離精製し,これを熱源や線源として用いる研究が日本原子力研究所で行われている。


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