第1章 原子力発電
5 原子力発電所の安全確保

(2)発電用原子炉の検査

 発電用原子炉の検査については,電気事業法により通商産業省が使用前検査,燃料体検査,溶接検査,定期検査を行うほか,必要に応じ,原子炉等規制法により科学技術庁が,電気事業法により通商産業省がそれぞれ立入検査を行うことになっている。
 昭和51年度は,使用前検査については,合計23基に対し行うとともに,定期検査については,日本原子力発電(株)東海発電所,敦賀発電所,東京電力(株)福島第1原子力発電所の1号炉,2号炉,3号炉,中部電力(株)浜岡原子力発電所1号炉,関西電力(株)美浜発電所の1号炉,2号炉,高浜発電所の1号炉,2号炉,中国電力(株)島根原子力発電所及び九州電力(株)玄海原子力発電所1号炉の合計12基について行われた。この定期検査に関し,昭和48年当時における関西電力(株)美浜発電所1号炉における燃料体の損傷が報告されず,昭和51年12月3日に通商産業省が行った立入検査により,ようやく明らかにされた。その後の調査結果によって,本件燃料体の損傷は,発電所周辺の環境に対して影響を与えたものではないことが確認されたが関西電力(株)の昭和48年当時の措置内容は,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第67条及び電気事業法第106条の報告を怠ったものと考えられるのみならず,原子力発電所の安全確保に対する取組み姿勢そのものにかかわるものであった。このため原子力委員会としては,同社に対し,強く反省を求めるとともに科学技術庁及び通商産業省に対し,所要の調査の実施を要請した。両省庁はこれを受け,原因及び対策についてとりまとめを行い昭和52年8月9日付で公表した。
 この原因は,原子炉運転中に炉心バッフル板接合部の隙間からの一次冷却水の横流れの水流によって,燃料棒が振動して他のものと繰返し接触し損傷したと判断された。
 この対策として,横流れの水流を防止するため,炉心バッフル板の隙間の幅を小さくすることとした。
 国内の他の原子炉(PWR)についても,所要の隙間の調整を行っている。
 なお,両省庁は本件に関し,同社に対し昭和52年2月3日付及び昭和52年3月3日付の2回にわたり文書をもって厳重に注意を喚起し,強く反省を促すとともに所要の措置を講じさせた。また,国としても定期検査の一層の充実,強化を図ることとした。このほか昭和51年度の検査において発見され,又は,処置された主要な事象としては次のものがあげられる。
 高浜発電所1号炉については,昭和52年1月2日から定期検査を実施しているが,52年2月に実施した燃料体検査において,燃料集合体1体の支持格子の一部に損傷が認められた。この損傷は,燃料取扱時に他の燃料体に接触して発生したものと判断され,燃料取替クレーンの昇降速度を減速すること等により,同種トラブルの再発を防止するとともに,当該燃料を取り替えることとした。
 福島第一原子力発電所1号炉については,昭和51年8月17日から定期検査を実施しているが,52年2月に実施した供用期間中検査(ISI)において制御棒駆動水戻りノズル部及び給水ノズル部にひびが認められた。
 このひびの原因は,高温の原子炉水と低温の制御棒駆動水戻り水又は給水がノズル・コーナー部付近で混合する際に生ずる温度変動により生じたものと判断され,制御棒駆動水戻りノズルについては,当該ノズル部のひびの部分を削り取るとともに,再発を防止するため,当該戻りノズルを使用しないノン・リターン方式に変更することとし,また給水ノズルについては,当該ノズル部のひびの部分を削り取るとともに,再発を防止するため,温度変動を緩和する対策として,給水ノズルとサーマル・スリーブの間隙を少なくする改造工事を行うこととした。
 島根原子力発電所については,昭和52年1月9日から7月13日まで定期検査を実施したが,52年3月に実施した供用期間中検査において制御棒駆動水戻りノズル部にひびが認められた。
 このひびの原因は,前述した福島第一原子力発電所1号炉と同様の原因と判断され,その対策も同様の処置が取られた。
 福島第一原子力発電所2号炉については,昭和52年1月5日から定期検査を実施しているが,52年3月に実施した供用期間中検査においてコレットリティナー・チューブ(制御棒の位置固定装置をカバーしているチューブ)に,微細なひびが認められた。
 このひびの原因は,応力腐食割れによるものと判断され,当該部分を取り替えることとした。
 なお,これらの事象はいずれも原子炉に重大な影響を及ぼすものではなく,また,従業員の被ばく及び周辺公衆への影響はなかった。


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