第1章 原子力発電
5 原子力発電所の安全確保

(3)原子力発電所の故障等

 昭和51年度中に原子炉等規制法に基づき報告のあった原子力発電所の原子炉施設の故障及び原子炉施設に関する人身障害は17件であった。
 原子力発電所の原子炉施設の故障については16件報告された。このうち4件は定期検査により機器,配管に異常が発見されたものである。
 ここでは,この4件を除く12件の原子炉の運転中に発生した故障について述べる。これらのうちわけは,機器配管等の故障によるもの9件,機器等の誤操作によるもの2件,蒸気発生器細管に異常の発見されたもの1件であり,その概要は,次のとおりである。また,いずれの場合も従業員の異常の被ばく及び周辺公衆への影響はなかった。
① 昭和51年5月,東京電力(株)福島第一原子力発電所2号炉の原子炉水位記録計の指示が上昇し,「原子炉水位高」の警報が発せられ,更にタービン・トリップ設定値を超えて上昇したため,原子炉が停止した。給水制御系統の機器を点検した結果,給水制御系のマスター・コントローラ内の抵抗接合部で接触不良が認められた。調査の結果,給水制御系統の他の機器に何ら異常がないことが判明し,マスター・コントローラの当該部分を取り替え,翌日運転を再開した。
② 昭和51年6月,東京電力(株)福島第一原子力発電所1号炉の「制御棒駆動水圧低」の警報が発せられ,更に「制御棒駆動水フィルター差圧大」の警報が発せられたため,予備の制御棒駆動水圧ポンプを作動させる一方,これまで作動していた同ポンプを点検した。
 その結果,ライン軸受の損傷及びポンプの主軸の折損が確認された。損傷原因は,ライン軸受への給油が減少したため,ライン軸受部が高温となり損傷するとともに,振動が発生してポンプ主軸が折損したものと判断された。給油減少の原因を除去し,損傷したポンプを予備品と取り替えた。
③ 昭和51年6月,東京電力(株)福島第一原子力発電所2号炉の原子炉再循環ポンプの電気配線がショートし,同ポンプ1台が停止したため,出力を低下させた。点検の結果,原子炉再循環ポンプ用制御盤上部の空調設備より海水が漏れたために制御盤内の配線がショートしたことが判明した。空調設備の損傷箇所である海水系のパイプの弁及び制御盤の損傷機器を取り替え,5日後に出力を上昇させた。
④ 昭和51年6月,夏期ピーク時対策のため,東京電力(株)福島第一原子力発電所2号炉を停止し,点検を行っていたところ,炉心スプレー系配管にひびが発見された。
 調査の結果,原因は応力腐食割れと判明し,当該配管の取り替えを行った。
 なお,昭和52年度の定期検査の際に同配管を応力腐食割れを起こしにくい炭素鋼配管に再度取り替えている。
⑤ 昭和51年7月,東京電力(株)福島第一原子力発電所1号炉の格納容器内の温度が上昇したため,原子炉を停止した。
 格納容器を点検した結果,空調設備の制御空気配管のフィルターカバー(アクリル製)の破損により制御用空気が喪失し冷却能力が低下したことが判明した。フィルターカバーの破損は,経年劣化によるものであることが判明し,当該カバーを金属製のものと取り替え,5日後に運転を再開した。なお,現在はアクリル製のフィルターカバーを用いている炉はない。
⑥ 昭和51年7月,関西電力(株)高浜発電所1号炉の制御棒クラスタ駆動用電源喪失により,原子炉が停止した。このため制御棒クラスタ駆動用電源系統を点検した結果,自動電圧調整装置の部品の不良により発電電動機(M-Gセット)が停止し電源喪失を生じたことが判明した。不良部品を取り替え,2日後に運転を再開した。
⑦ 昭和51年8月,中国電力(株)島根原子力発電所の蒸気タービン主蒸気止め弁の定期閉止試験を実施中,第3弁の試験時に原子炉が停止した。主蒸気止め弁のテスト回路及びテスト用電磁弁の点検の結果,第3弁の電磁弁接点に異物がかみ込んだため第3電磁弁の送入空気が漏出し,この結果,自動的に第1及び第4主蒸気止め弁が閉まり原子炉が停止したことが判明した。念のため健全な他の3個の電磁弁を含む全ての電磁弁を取り替え,2日後に運転を再開した。
⑧ 昭和51年9月,東京電力(株)福島第一原子力発電所3号炉の発電機出力が徐々に増加したため原子炉再循環ポンプが停止し,出力が低下した。原子炉再循環系を点検した結果,M-Gセット回転計発電機ブラシの摩耗により出力電圧が低下し,それを補正するように制御系が働いたことによって再循環ポンプの速度が上昇し,また,このため自動電圧調整器が電圧低下の方向に働いたため発電機出力が増加したことが判明した。発電機ブラシの摩耗は,整流子のカーボン粉がブラシと整流子面の間に巻き込まれたため機械的摩耗が促進されたものと考えられ,当該ブラシを取り替え,翌日出力を上昇した。
⑨ 昭和51年10月,東京電力(株)福島第一原子力発電所2号炉のタービン建屋内主蒸気管ヘッダ付近で異音の発生を発見し,蒸気漏れの疑いがあったため,原子炉を停止した。点検の結果,主蒸気圧力検出用計装配管溶接部にひびが認められた。このひびは溶接コーナ部に繰り返し応力が作用し,疲労亀裂が発生したものと判断された。
 計装配管のひび部分を抜管し新たに管を取り付け,同様なひびが他の配管に発生していないことを確認し,2日後に運転を再開した。
⑩ 昭和51年11月,東京電力(株)福島第一原子力発電所3号炉の再循環ポンプM-Gセットが停止し,出力が低下した。3日後原因調査のため原子炉を停止した。同ポンプを点検した結果,ポンプモータ端子箱内の接続母線バーが焼損したためM-Gセットが停止したことが判明した。母線バー焼損の原因は締付ボルトの締付不良により熱が発生したためと考えられた。
 母線バーを取り替え,出力が低下してから7日後に運転を再開した。

⑪ 昭和52年1月,関西電力(株)高浜発電所1号炉の復水器空気抽出器ガスモニタ及び蒸気発生器ブローダウン水モニタの指示が上昇し続けたため原子炉を停止した。ブローダウン水の分析結果から,蒸気発生器細管における一次冷却水の漏洩が判明した。
 この故障による従業員の異常な被ばくはなく,周辺環境に放出された気体状放射性物質の放射能は,0.02 Ciと極く微量であり,モニタリングボストの指示値に変化はなく,周辺公衆への影響はなかった。
 同炉は,この件による停止のまま52年2月より定期検査を実施した。
⑫ 昭和52年2月,日本原子力発電(株)敦賀発電所の主蒸気圧力に変動があったため,原因調査を実施中機器の誤操作のため原子炉が停止した。主蒸気圧力の変動はタービン圧力制御系統の電気式圧力制御系の機器の不調によることが判明した。電気式圧力制御系の不調機器を取り替え,2日後に運転を再開した。
 原子力発電所原子炉施設内で発生した人身障害は1件あり,その概要は次のとおりである。
○ 昭和52年3月,東京電力(株)福島第一原子力発電所3号炉の廃棄物処理系の配管修理作業中,仮設足場から約7.5m下に転落した。この事故により転落者は頭蓋骨骨折,右大腿部骨折を生じ,同日入院先にて死亡した。
 なお,昭和51年度中に電気事業法によって報告された原子力発電所の異常件数は19件(一部は,前述の原子炉等規制法の規定に基づく報告と重複している。)あったが,これらの異常はいずれも原子炉に重大な影響を及ぼすものではなく,また,従業員の被ばく及び周辺公衆への影響はなかった。


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