第4章 核燃料政策の強化

 我が国の原子力発電は,現在,運転中,建設中及び国の計画に組み入れられているものの合計で約2,079万KWに達している。これに必要な天然ウラン,濃縮ウラン及び使用済燃料の再処理については,海外に依存しながらも,全体として原子力発電計画との整合性がとられている。しかし,今後の原子力発電計画の拡大に対処していくためには,我が国に適した核燃料サイクルを今後の発電計画と整合性をもって計画的に進めていくことが必要である。
 このような観点から,原子力委員会としても我が国に適した核燃料サイクルの確立のための努力を重ねてきたが,現状においては燃料加工分野以外ではその事業形成が遅れている。今後はウラン濃縮,使用済燃料の再処理,放射性廃棄物の処理処分等に関し,事業として確立させることが必要となっている。
 原子力委員会は,このような核燃料サイクルの確立の重要性にかんがみ,本年3月,「核燃料サイクル問題懇談会」を設置して,審議を進めているところであるが,米国を中心とする核拡散防止の強化をめぐっての最近の国際情勢は,極めて厳しい状況となっており,これを踏まえて,今後諸施策を進めていく必要があると考える。

(天然ウランの確保)
 国内のウラン資源に乏して我が国としては,必要な天然ウランの供給を海外に依存せざるを得ない。各電気事業者は,昭和60年頃までに必要とする天然ウランを,長期買付契約等によりすでに確保しているものの,近年新たな追加買付契約はなされていない。このことから,昭和60年以降に必要とする天然ウランについては,最近の資源ナショナリズムの傾向,ウラン市場の動向等を考慮すると,供給の不安定が懸念されている。このため,原子力委員会としては,海外探鉱による天然ウランの確保について,この数年,予算面で強化を図ってきており,今後の成果が期待されるところであるが,さらに,今後一層,ウラン資源の長期的安定的確保を図る観点から,民間における海外ウランの長期購入契約に期待するとともに,政府としても開発輸入の比率を高めるため,資源国との協調を図ることが必要であると考える。具体的には,動力炉・核燃料開発事業団による先駆的な海外調査探鉱を拡充強化するとともに,民間企業の探鉱開発に対する融資制度を改善していく必要がある。また,さらに長期的観点から,海水からのウラン採取も,注目されており,研究開発を実施している。

(ウラン濃縮)
 軽水型原子力発電に必要なウラン濃縮役務については,二国間原子力協定に基づき我が国電気事業者と米国エネルギー研究開発庁(ERDA)及びフランスを中心とするユーロディフ社(EURODIF)との契約により,すでに発電設備容量で約6,000万KWに相当する量が確保されている。
 しかし,1980年代前半にはERDAの濃縮能力が限界に達すると予想されるので,自由世界の中で濃縮需要の大きい我が国としては,長期的にみて濃縮ウランの安定確保を図るための方策を講ずる必要がある。原子力委員会としては,米国等の国際的動向を見極めつつ,国際共同濃縮事業への民間の参加による供給源の多様化を図るとともに,将来,国産工場を建設して新規需要の大部分を国内でまかなうことを目標に技術開発を進める必要があると判断し,昭和48年以来,動力炉・核燃料開発事業団において遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発を,原子力特別研究開発計画・(国のプロジェクト)として進めてきた。遠心分離法によるウラン濃縮技術は,今田大きな進展を見せており, 「核燃料サイクル問題懇談会」での評価検討を踏まえ,今後,将来の実用工場の設計,建設,運転に必要な技術を確立するために,濃縮パイロットプラントの建設を行うこととしている。

(核燃料の加工及び輸送)
 軽水炉用核燃料の加工については,民間においてすでに事業として行われて,いる。また,加工工場から原子力発電所への新燃料の輸送については,これまですべて安全に実施されており,使用済燃料の輸送については,国内の再処理工場の運転開始に備えて現在事業化が図られているところである。原子力委員会としては,民間における事業活動の活発化に対応して,量産体制に対応した安全規制の強化,安全基準の整備等を進め,安全の確保を図るとともに,これら事業の健全な発展を期することとしている。

(使用済燃料の再利用)
 使用済燃料の再処理,プルトニウム利用等をめぐる近年の国際情勢は,核拡散防止の観点から極めて厳しいものがある。使用済燃料を再処理して,回収されるプルトニウム及び減損ウランの再利用を図ることは,我が国にとって極めて重要である。当面,使用済燃料の再処理は,昭和53年度から操業に入る予定の動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設において行うほか,この能力を上まわる分については英国等に委託することとしている。
 しかし,英国をはじめとする諸外国の昨今の情勢を考慮すると,引き続き長期にわたって再処理を海外に依存することは困難であり,さらに前述のように,核燃料サイクル確立の必要性の見地から動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設に続いて民間による第二再処理工場の建設を推進する必要がある。
 再処理から得られるプルトニウムの利用については,原子力委員会としては,その核特性から高速増殖炉に利用するのが最も適当であると考えているが,高速増殖炉が実用化されるまでの間,資源の有効利用等の観点から,可能な限り熱中性子炉での再利用を積極的に進めることとし,新型転換炉においてプルトニウム利用の実証を行うとともに,軽水炉での利用についても,諸外国の利用状況を参考にしつつ,所要の実証を経て実用化に進むことが適切であろうと考え,従来から努力を重ねているところである。

(放射性廃棄物の処理処分)
 原子力発電所等原子力施設で発生する放射性廃棄物については,原子炉等規制法等により厳重に規制されており,気体状,液体状,固体状の放射性廃棄物それぞれについて,性状,放射能レベルに応じて所要の措置がなされ,安全に管理されている。
 しかし,低レベル固体廃棄物が今後の原子力発電の進展に伴って増加するほか,動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設の稼動が近づいており,放射性廃棄物の安全な処理処分システムの確立が緊急な課題である。(動力炉・核燃料開発事業団の再処理工場のフル稼動時(210トン/年)でも年間約100m3程度(固化後はさらに10数m3に減少する。)と量的には少ないが,放射能レベルが高く,半減期の長い核種も含まれているので慎重な配慮が必要である。)このため,原子力委員会としては従来より専門部会等で検討を進めてきたところであるが,昭和50年7月「放射性廃棄物対策技術専門部会」を設置し,放射性廃棄物処理処分のあり方と並行して,研究開発計画の策定等技術的側面について検討を進めるとともに,国と民間との責任分担,体制問題について関係各界と適宜懇談会を開催し,また,核燃料サイクル確立の観点から「核燃料サイクル問題懇談会」においても,重要問題として諸施策の検討を急いできた。
 これらの検討を踏まえ,原子力委員会は,本年10月,放射性廃棄物対策についての基本的方針を定めた。すなわち,高レベル廃棄物については再処理事業者が処理及び一時貯蔵を行い,永久的処分及びこれに代る貯蔵については国が責任をもつとの基本的考え方のもとに,政府は今後10年程度のうちに安全な形態への固化処理と貯蔵についての実証試験を行うことを目標として必要な準備を進めることとし,処分については今後3〜5年間で方向付けを行い,さらに,昭和60年代からの実証試験を行うこととした。また,低・中レベル放射性廃棄物については,ドラム缶等にセメント等で固化した後,その固化処理形態に応じて海洋処分または陸地処分を行う方針とし,このため(財)原子力環境整備センターを設立するとともに,民間において必要な体制整備を行うこととした。特に海洋処分については,これまでに行ってきた海洋環境調査及び経済協力開発機構(OECD)原子力機関(NEA)の10年間に及ぶ海洋処分の経験等に基づく海洋処分に伴う環境への影響に関する事前の評価を踏まえ,内外の協力を得て国の責任のもとに安全性を確認し,また処分技術を確立することを目的として,昭和53年頃から試験的海洋処分に着手することとしている。このため,原子力安全局は試験的海洋処分の環境安全評価に関する報告書を本年9月とりまとめたが,この評価の妥当性について「放射性廃棄物対策技術専門部会」で審議検討している。


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