第5章 研究開発の推進

 我が国は,原子力の研究開発がエネルギー政策上の重要課題であるとの認識のもとに,原子力基本法制定以来,これを自主的に進めるとの基本方針を貫して堅持してきたところである。
 すなわち,我が国の原子力開発利用が欧米各国に比べて遅れて着手されたこともあり,昭和30年代は,日本原子力研究所,大学等を中心として原子力の基礎的研究を進めるとともに,諸外国の原子力技術の消化を図り,原子力の研究開発基盤の整備に努めた。これらの技術蓄積を踏まえ,昭和40年代に入ってから,我が国独自に新型動力炉や原子力船を自主的に開発するとの方針のもとに,これを動力炉・核燃料開発事業団や日本原子力船開発事業団において国のプロジェクトとして進めてきた。今日,これらのプロジェクトは,その開発に着手して以来,すでに約10年を経過し,これまで建設してきた施設が運転を開始しつつあり,その開発成果が具体的に評価される段階に至っている。今後その評価を踏まえ,実用化へ向けて新たな開発段階に移行しようとしている。
 また,多目的高温ガス炉,核融合等,新たな研究開発の芽が,これまでの基礎研究の成果によって自主開発プロジェクトとして飛躍しようとする段階に達してきている。
 一方,現在原子力発電の主流を占めている軽水型原子炉については,民間による米国からの技術導入あるいは日本原子力研究所で進められた研究開発の成果を基礎として,軽水炉技術の消化を図り,今日,我が国電力供給の一翼を担うまでに発展してきている。しかし,なお,原子力発電については,第3章,第4章で述べたごとく,安全の確保と核燃料サイクルの確立を図り,我が国社会に原子力発電を事業として定着化させる努力が必要である。
 このため,原子力委員会としては民間における一層の努力の傾注を期待するとともに,政府においても,安全研究並びにウラン濃縮,再処理,放射性廃棄物の処理処分等の核燃料サイクル確立のための研究開発を強力に推進することが必要と考える。
 また,放射線利用は,今日これまでの研究の成果により,医療,工業,農業等の分野において,国民生活の身近なところにまで広く普及し,国民生活の向上に大きく寄与するに至っており,利用分野の拡大のための研究開発が進められている。
 さらに,安全確保の観点から,昭和30年代より放射線の人体及び環境への影響について放射線医学総合研究所を中心に研究が進められ,今日,原子力開発利用の進展に伴い,ますますこの分野の研究が重要となってきている。
 このように,今日広範多岐にわたる研究開発課題を総合的,計画的に推進することが要請されている。
 原子力委員会としては,これらの研究開発課題の緊急性とその規模の大きさから,従前にも増して膨大な資金と人材を確保する必要があるとの認識に立ち,以下のような基本的方針のもとに,開発目標,開発時期を明確にし研究開発を計画的,効果的に推進していく考えである。
 まず,当面の最重要研究開発課題としては,軽水炉及び環境放射能に関する安全研究並びにウラン濃縮,再処理,放射性廃棄物処理処分等,核燃料サイクルの確立のための研究開発を進め,安全で整合性のとれた原子力発電体系を確立して,原子力発電の定着化を図る。
 次に,中期目標としては,これまでの研究開発の成果を踏まえて,軽水炉に比して核燃料の有効利用をめざす新型転換炉及び高速増殖炉の開発,非電力分野への原子力エネルギーの利用を図る多目的高温ガス炉の開発,さらには原子力船の開発等,軽水炉による発達のみにとどまっている現状から,原子力エネルギーの利用の多様化,高度化を図り,原子力利用の飛躍的拡大による本格的な原子力時代招来のための研究開発を進める。
 さらに長期目標としては,21世紀の実用化をめざし,人類究極のエネルギー源として期待されている核融合の研究開発を進め,エネルギー源としての可能性の実証を行う。
 これらの研究開発を進めるにあたっては,近年,安全研究,放射性廃棄物処理処分研究,核融合研究開発等についての,国際協力の気運が急速に高まってきており,これを十分考慮して進めることとしている。また,原子力の研究開発に果たしてきた基礎研究の役割を十分に認識して,人材養成を含め,研究開発基盤の整備充実を積極的に図り,大学及び各研究機関との連けいを一層深めていく必要がある。
 さらに,今日,高速増殖炉・核融合等の研究開発を進めるに際して新たな研究施設の用地が必要となっているが,近年,このような用地の確保が難しい状況となっているが,将来のエネルギー源獲得をめざした研究開発の重要性,緊急性にかんがみ,その計画的推進のため早急に円滑な立地確保のための対策を進めていくことが必要である。

(軽水炉に関する安全研究)
 現在,実用段階にある軽水型原子炉の安全性は,極めて高水準にある。安全の判断を行うに際して十分な知見の得られていない場合には,特別に厳しい安全基準を課することによって不足している知見を補うこととしており,今後は,安全研究や実証試験を行うとともに,運転経験の蓄積を図ることによって安全基準のより精密化,安全裕度の定量化を進める必要がある。
 また,極めて小さい確率ではあるが,理論的には想定されるような大規模な事故,事象に関しては,本来,実証することが困難なものが多いが,できるだけ実証的研究を進めることによって設計上の裕度を確認する努力を続ける必要がある。さらに,原子炉施設等の建設運転にあたって,科学技術の進歩を踏まえ,最新の技術水準をとり入れることによって安全技術の向上を図る必要がある。
 このような観点から,原子力委員会は,従来からこれらの安全研究の推進を図ってきたところであるが,さらに,これを総合的,計画的に推進するため,「原子炉施設等安全研究専門部会」を設置して,原子炉施設等の工学的安全研究の推進方策について検討を進め,本年6月「原子炉施設等安全研究5ケ年計画」を策定し,原子炉等の安全研究を強力に推進することとした。
 すなわち,原子炉施設等の安全審査基準のより定量化,精密化を図るために必要な試験研究については,反応度事故に関する研究,冷却材喪失事故に関する研究等を,日本原子力研究所を中心に推進してきている。その成果は,国際的にも高く評価されるに至っており,特に昭和50年度には,日米協力として冷却材喪失事故研究計画(LOFT計画)への参加,出力異常事故研究計画(PBF計画)と我が国の原子炉安全性研究炉計画(NSRR計画)との相互協力,国際エネルギー機関(IEA)を中心とする安全性情報交換協力等を行い,各国と活発な国際協力を図った。このような国内での安全研究の成果や国際協力による情報交換等により,電子計算機による我が国独自の安全解析プログラムの作成も逐次進み,安全審査のより充実化に寄与し得る段階を迎えている。
 また,軽水炉技術の信頼性の一層の向上を図るための研究開発として,日本原子力研究所において軽水炉用燃料の健全性,信頼性の向上を図るための実用燃料照射後試験施設の建設等を進めている。さらに,原子力発電の安全性に対する不安を解消するため,配管信頼性,格納容器スプレイ効果信頼性,耐震信頼性,核燃料信頼性等について,できるだけ実規模に近い形での安全実証試験を行うに必要な経費を,昭和50年度から,電源開発促進対策特別会計に計上(昭和50年度約45億円,昭和51年度約76億円)し,日本原子力研究所,(財)原子力工学試験センター等において実施されている。
 さらに,外国技術への依存から脱却し,自主開発に基づく,我が国に適した軽水炉技術の確立をめざすため,通商産業省において,軽水炉の改良,標準化の施策を進めている。
 以上の軽水炉の安全性,信頼性向上のための試験研究の努力は,原子力発電の定着化に大きく寄与するものと期待される。

(環境放射能に関する安全研究)
 原子力開発利用に伴う放射線の人体及び環境への影響に関する研究については,国民の健康と安全の確保及び環境の保全を一層堅持する立場からその推進を図ることは極めて重要である。原子力委員会は,環境放射線による被ばく線量評価研究及び低レベル放射線の影響研究の総合的な実施を図るため,「環境放射能安全研究専門部会」においてその進め方について,審議,検討を進め,本年9月,「環境放射能安全研究年次計画」を策定した。この計画に基づいて,放射線医学総合研究所,日本原子力研究所,大学等において,引き続き強力にこれらの研究を推進することとしている。

(核燃料サイクル確立のための研究開発)
 我が国の原子力開発利用は米国,ソ連,英国,フランスに遅れて始まったこともあり,これまでウラン濃縮,再処理等核燃料サイクルの一部を西ドイツ,イタリア等の国々と同様海外に依存してきたが,我が国の原子力発電の規模の拡大に対処していくためには,我が国に適した核燃料サイクルを確立する必要がある。このため,従来から,動力炉・核燃料開発事業団,日本原子力研究所等において,ウラン濃縮,再処理,放射性廃棄物の処理処分等の研究開発を推進してきたところである。
 すなわちウラン濃縮技術については,動力炉・核燃料開発事業団における遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発を進めてきたが,これまでのカスケード試験の開発成果に基づき,原子力委員会としては「核燃料サイクル問題懇談会」での評価検討を踏まえて,昭和52年度から濃縮パイロットプラントを建設することが妥当と考えている。
 再処理技術については,動力炉・核燃料開発事業団が我が国最初の使用済燃料再処理工場の建設を行い,昭和53年度の操業をめざして,現在,天然ウラン及び劣化ウランを用いた試験を進めている。
 放射性廃棄物の処理処分技術の研究開発としては,低レベル放射性廃棄物の試験的海洋処分を実施する上で必要な処分固化体の健全性を調査確認するため,日本原子力研究所,(財)電力中央研究所等において放射性物質の深海底500気圧下における浸出試験,健全性試験が実施されるとともに,深海底までの健全な降下及び着底について追跡するための技術の開発が行われている。
 また,高レベル放射性廃棄物の処理処分技術については,各国とも調査研究の段階にあり,原子力発電の進展に伴って各国共通した課題となっている。我が国では,高レベル放射性廃棄物は現在までのところ発生しておらず,動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設が稼動する予定の昭和53年度以降に生じてくるものである。この処理技術については,動力炉・核燃料開発事業団,日本原子力研究所等において,ガラス固化等の処理技術の研究を進めており,今後10年程度のうちに実証試験を行うことを目標としている。処理後の方策としては,厳重な管理が可能な工学的貯蔵を当面の方策と考えているが,最終的な処分については,当面地層処分に重点をおき,我が国の社会的地理的条件に見合った処分方法の調査研究を早急に進め,今後3~5年のうちに処分方法の方向付けを行うものとし,さらに昭和60年代から実証試験を行うことを目標としている。このような研究開発の進め方については「放射性廃棄物対策技術専門部会」において検討し,研究開発計画を策定した。今後はこれに沿って,総合的,計画的に対策を推進することとしている。

(新型炉の研究開発)
 発電用原子炉としては,現在,軽水炉が世界の主流を占めており,今後とも当分の間は,この傾向が続くものと思われるが,世界的な原子力発電の開発規模の拡大に伴って,将来にわたって軽水炉による開発に中心を置く限り,昭和70年代頃を境に,ウラン資源の不足が生ずることが予測される。このため,先進諸外国においては,核燃料(ウラン,プルトニウム等)を有効利用することを目的とした新型炉の開発を進めている。
 我が国としても,原子力が,将来,各産業分野の中で大きな比重を占めることとなること,自主技術の蓄積が安全性,信頼性の向上に不可欠であること等から,独自の技術開発を進めることが必要であるとの認識に立ち,政府は,動力炉開発に関する基本方針及び基本計画を定め,動力炉・核燃料開発事業団において昭和42年度より,国のプロジェクトとして,新型転換炉及び高速増殖炉の開発を進めてきたところである。高速増殖炉実験炉「“常陽”」はすでに施設の建設を終えて運転に入る段階にあり,また,新型転換炉原型炉「ふげん」は建設の大づめを迎えており,今後,これらの開発成果が具体的に評価される段階に至っている。
 また,原子力エネルギーの非電力部門への利用を図るための多目的高温ガス炉については,その研究が日本原子力研究所で進展し,実験炉の建設計画について具体的に検討するまでに至っている。
 原子力委員会は,このような新型炉開発の進展により,新たな段階を迎えた現時点で,改めて,長期的な新型炉開発についての施策の見直しを行うため, 「新型動力炉開発専門部会」を設けて審議を進め,本年8月,次のような内容の報告を受け,今後これに沿って我が国の新型炉開発を進めることとした。

 以上の新型炉開発を進めるにあたっては,新型炉の安全性の確保,及び環境の保全に努力を注ぐことがこれまで以上に要請されるので,それぞれの開発計画の中で,これらの研究開発を推進するとともに,実用化に備えて安全評価等に関する諸データの蓄積を図る。

(原子力船の研究開発)
 我が国では,「原子力第1船開発計画」に基づき,日本原子力船開発事業団を中心に原子力船「むつ」の開発を進めてきたが,昭和49年9月,原子炉の出力上昇試験の際生じた放射線漏れのため,この開発が一時停滞の止むなきに至った。
 このような事態に対処し,政府においては,「むつ」放射線漏れ問題調査委員会」を開催し,放射線漏れの原因を明らかにした。一方,原子力委員会は,「原子力船懇談会」を設け,我が国における原子力船開発の在り方,「むつ」の今後の措置等について,抜本的な見直しを行った。その結果,我が国においては今後とも原子力船開発を積極的に行うべきこと,「むつ」は適切な改修を行うことにより,所期の目的を達成させることができることなどを明らかにするとともに,今後とも「むつ」の開発を積極的に推進することとし,日本原子力船開発事業団法の改正等に関し所要の措置をとるべきことを決定した。
 政府は「むつ」の総点検,改修に関し,原子力委員会の決定に基づぎ国の立場からチェックを行うため,「「むつ」総点検・改修技術検討委員会」を設け,審議を行っている。また,「むつ」の点検,改修を行う修理港について長崎県及び佐世保市に対し,受入れ方の協力を要請し,地元の理解と協力を得るよう努力を重ねているところである。
 原子力委員会としては,エネルギー政策のみならず造船,海運政策の観点から,原子力船開発を今後とも積極的に推進し,世界の大勢に遅れることのないよう配慮すべきであると考えており,この意味から修理港さらには新定係港の決定が地元の理解と協力を得て,円滑に行われることを期待するものである。

(核融合の研究開発)
 我が国のエネルギー供給を長期的に展望すると,人類究極のエネルギー源として期待されている核融合の研究開発を積極的に進める必要がある。原子力委員会は,昭和43年以来,原子力特定総合研究として,日本原子力研究所,電子技術総合研究所,理化学研究所,金属材料技術研究所等において進めてきたが,これらの研究の成果に基づき,昭和50年7月,21世紀の実用化をめざして,昭和50年代中頃に臨界プラズマ条件を達成することを目標とする「第二段階核融合研究開発基本計画」を策定した。
 これに基づき,日本原子力研究所では,第二段階の主装置である臨界プラズマ試験装置(JT-60)について,その詳細設計を進めるとともに主要機器の試作開発を行い,本年度中にその建設に着手する予定である。
 また,原子力委員会としては,我が国の核融合研究開発を総合的,計画的に推進するため,昭和50年11月,「核融合会議」を設置して,大学,国立研究機関等の研究を含め,総合的な研究開発の進め方について審議検討を行っている。


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