1 医学利用

 放射線の医学利用はエックス線を用いる診断,高エネルギー放射線発生装置やテレコバルト等を用いる治療及び放射性同位元素を用いる診断治療(核医学)の3分野にわたって行われている。
 エックス線診断は臨床医学のすべての領域にわたって広く利用されており,最も重要な検査法の一つになっている。この分野では診断機器及び診断法の開発が,最近数年間に著しい進歩を見せており,とくに間欠曝射法,高感度イメージインテンシファイア(X線けい光像を増倍する電子管)を用いる撮影法等が導入され,胃集団検診等に応用されて大きな成果を挙げている。
 放射線治療の対象は主として悪性腫瘍であり,がんセンターを中核とする診療施設の整備とあいまって,着実にその成果をあげている。しかし従来の電子線,ガンマ線及び高エネルギーエックス線による治療にはある程度の限界があり,他の治療法との併用による治療効果が期待されている。また,治療効果の良い高LET放射線(速中性子線,陽子線,熱中性子捕獲療法等)による治療の実用化が要望されており,原子炉を用いた脳の悪性腫瘍治療法の研究が進められているほか,放射線医学総合研究所及び東京大学医科学研究所のサイクロトロンが完成し,その進展が期待されている。今後の悪性腫瘍の治療には手術,化学療法等との有効な併用が必要であり,さらに免疫療法の併用が今後の研究の焦点と考えられる。放射線治療の場合には,治療成績の向上の結果として,後障害の発生も増加する傾向があり,その防止のためコンピュータを利用する適確な治療システムが開発され,普及しつつある。
 放射性同位元素を利用する診断は99mTc及びサイクロトロン生産核種に代表される短寿命核種の開発利用と,シンチカメラとそのコンピュータによるデータ処理を中心とする放射線計測技術の進歩及びラジオイムノアッセイ法(血液中の微量物質を放射性同位元素で標識したタンパク質と結合させて測定する方法)の開発により急激に発展しつつある。我が国では医学利用核種ことに短寿命核種を自国内で生産し供給する体制は確立されていないが,昭和49年度から稼動を始めた放射線医学総合研究所及び東京大学医科学研究所の医用サイクロトロンを中心としてこの領域の研究が推進され,さらに新しい応用分野を開拓することが期待される。


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