2 工業利用

 放射線の工業利用は化学,紙パルプ,鉄鋼,機械,電機,造船,建設,土木等広汎な業種におよんでおり,その利用技術もゲージング,トレーサー非破壊検査,螢光エックス線分析,放射化分析等多岐にわたっているほか,エネルギー利用技術についても着実に進展している。ゲージング利用については,工程管理のシステム化に対応して,厚さ計,密度計,レベル計,水分計等が検出用線源として有効に利用されているほか,環境汚染物質の分析手段として,イオウ分析計及びラジオガスクロマトグラフィー装置が関係個所に多数設置され,公害監視に重要な役割を果たしている。
 環境汚染物質の分析には,螢光エック線分析及び放射化分析技術もうまく運用される。
 放射性同位元素を線源とする非破壊検査法については鉄鋼,機械,造船業を中心として普及し,従来から用いられている60Co,1921r線源に加えて低エネルギーガンマ線源として170Tm線源が利用されるようになった。
 トレーサー利用については,物質の移動調査,工程解析の手段として広く利用され,35Sによるエンジン・オイル消費量の測定,85Krによる半導体電子部品のリーク試験が行われている。ラジオアイソトープ希釈法による食塩電解槽内の水銀計量技術についてば日本原子力研究所が197Hgを用いる方法の改良とマニュアル化を行い,ソーダ工業界に広く普及した。
 エネルギー利用については,147Pm等を利用した自発光塗料の時計用文字板のほか,煙探知器,放電管類の暗黒効果除去にみられるように放射線による電離現象が広く利用されている。また,新しい利用が期待されている252Cf中性子源については,国内では100μg程度までの強力な中性子源が,原子炉特性の実験,核燃料の検査等を中心に使用され始めており,今後,分析技術あるいは非破壊検査等における利用研究が広まるものと予想される。
 使用済燃料から90Sr,137Cs,147Pm等の有用核種を分離精製し,これを熱源や線源として用いる研究が日本原子力研究所で行われている。
 その他国立試験研究機関においてもそれぞれの特性を生かした試験研究が広く進められている。


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