1 原子力施設等の安全対策
(3)放射性同位元素等の取扱いに伴う安全対策

イ 放射性同位元素等の取扱いの許可及び届出

 放射性同位元素等の取扱いに伴う安全性の確保については,「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(放射線障害防止法)に基づき,規制が行われている。その概要は以下のとおりである。
① ○放射性同位元素又は放射線発生装置を使用しようとする者○放射性同位元素を業として販売しようとする者○放射性同位元素又は放射性同位元素によって汚染された物を業として廃棄しようとする者は,科学技術庁長官の許可を受けなければならない。(密封された放射性同位元素の1工場又は1事業所当たりの使用総量が100ミリキューリ以下の場合には届出)
② 取扱いを開始する前に,放射線障害予防規定の作成・届出,放射線取扱主任者の選任・届出をしなければならない。
③ 取扱いに当たっては,総理府令で定める使用,詰替,保管,運搬(一部の運搬については,運輸省令)及び廃棄の技術上の基準に従って行うとともに,使用,保管等の記帳,従業員の被ばく測定等を行わなければならない。
 これら使用の許可や販売,廃棄の事業の許可に当たっては,事業所等から申請された,使用,詰替,貯蔵,廃棄等の施設などの内容について,同法に規定する許可基準に適合しているか否かを厳正に審査したのち,適合しているものについて許可(届出の受理)をしている。
 このような規制により,作業従事者の安全を図るばかりでなく,線量率の測定の義務づけや排気,排水中の放射性同位元素の濃度を規制することにより事業所外の一般公衆の安全の確保を図っている。
 これら事業所は,教育機関をはじめ研究機関,医療機関,民間企業等多岐にわたり,その数も年々増加している。使用事業所ついては,昭和49(48)年度には新たに173(177)事業所が許可され,223(197)事業所から届出があった。また,使用の廃止等の届出が,許可事業所から116(74)件,届出事業所から160(67)件行われた結果,昭和49年度末の使用事業所数は3,225となっている。

 販売事業所は,昭和49(48)年度には28(17)事業所が許可され,12(0)事業所から廃止の届出が行われた結果,合計136(120)事業所となり,廃棄事業所は前年度と同じ6事業所である。
 なお,昭和49年度末の使用,販売,廃棄事業所の総計は3,367事業所となっている。

ロ 放射性同位元素等取扱事業所に対する立入検査

 放射線障害防止法では,科学技術庁長官は,同法又は同法に基づく命令の実施のため必要があると認めるときは,使用事業所等の放射線取扱施設に放射線検査官を立ち入らせ,必要物件の検査等を行わせることができることになっている。この規定に基づき,使用事業所等への立入検査が毎年行われているが,昭和49(48)年度には317(400)事業所について立入検査が行われた。

ハ 放射性同位元素等取扱事業所における紛失,過剰被ばく等の事件

 医療機関,教育機関,非破壊検査専業事業所等において,放射性同位元素等に係る紛失,過剰被ばく等の事件が発生したが,昭和48,49年度における主な事件の概要は,次表のとおりである。

 これらの事件については,科学技術庁は,厚生省,文部省等とも連絡をとりつつ,立入検査等所要の行政措置を講じた。
 また,昭和49年度には,日本非破壊検査(株),日本工業検査(株)において,昭和46~47年に放射線作業従事者に過剰被ばくをした者があり,18才未満の者を放射線作業に従事させるなど放射線障害防止法違反の疑いのある事件が判明したので,昭和49年5月,非破壊検査を専業とする事業所20ヵ所に対して特別に立入検査を実施した。日本非破壊検査(株)については放射性同位元素の使用について廃止届を提出させた。

ニ 放射線障害防止対策の強化

 このような状況から,科学技術庁では,昭和49年5月,放射性同位元素等の全取扱事業所に対し,科学技術庁長官名による文書をもって,法令の履行状況を総点検した。この総点検の結果等を踏まえて,放射線障害防止の徹底を図るため,昭和49年8月,以下の4つを骨子とする放射線障害防止対策要綱を策定した。
① 法令遵守確保のための監督指導等の強化
② 事業所等の自主的安全活動の促進
③ 非破壊検査事業所に対する監督指導の強化等の特別対策
④ 障害防止法の施行体制等の基本的検討
 この対策要綱に基づき,次のような施策を実施している。
① 労働省,厚生省及び科学技術庁の立入検査等の強化と労働省,厚生省等関係9省庁からなる「放射線障害防止関係省庁連絡会議」の設置(昭和49年5月)による関係行政の円滑かつ効率的な実施
② 関係業界26団体による「放射線障害防止中央協議会」の設立(昭和49年10月)と自主的安全活動の開始
③ 非破壊検査に使用される線源ホルダーの標示の指導及び現場ごとのガンマ線透過写真撮影作業主任者の配置(労働安全衛生法施行令の一部改正により,昭和52年4月1日から配置することが義務づけられた。)
④ 医療機関及び教育機関に対する厚生省及び文部省との緊密な連携による監督指導の強化
⑤ 放射線安全管理の徹底のためのポスター(1万枚),パンフレット(3万部)の作成配布とその他の教育指導の実施
⑥ 放射線障害防止法の基本的な見直しの開始と放射性同位元素の盗難防止対策要綱の策定(昭和50年3月12日)と実施


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