3. わが国の濃縮ウラン安定確保策

 昭和46年12月,原子力委員会は,わが国の濃縮ウランの長期安定確保を図るため「濃縮ウラン安定確保策の推進について」の決定を行ない,①当面は日米原子力協力協定により米国からの供給確保に努め,②さらに将来の需要増に対しては,国際共同濃縮事業に参加することを検討するとともに,③究極的な安定確保を図るため,わが国に必要な濃縮ウランの一部について1980年代に国産化を開始することを目標に所要の研究開発を強力に推進することとした。
 このため原子力委員会は「国際濃縮計画懇談会」を設置し,国際共同濃縮事業に関する検討をすすめるとともに,「ウラン濃縮技術開発懇談会」においてわが国が行なうべきウラン濃縮研究開発の具体的計画を検討した。
 国際濃縮計画懇談会においては,当初米国の提案による多国間協力による濃縮事業を中心として検討を進めたが,欧州各国がこれに対し必ずしも積極的ではなかったことから次第に日米,日仏二国間ベースによる共同事業が中心議題となった。
 また,ウラン濃縮技術開発懇談会においては,ガス拡散法および遠心分離法の両方式の考察を行ない,諸般の事情から,わが国では遠心分離法によるウラン濃縮の技術開発を強力に促進すべきであるとの結論を得た。

(1)日米原子力協力協定による供給確保

 わが国は日米原子力協力協定に基づき,米国から発電用および研究用として必要な濃縮ウランの供給を受けている。
 すなわち,現在昭和48年末までに着工予定の27基(約2,000万kW)の発電用原子炉等に必要な335トン(ウラン235換算量)が協定により供給保証されているが,今後のわが国の原子力発電の進展を考慮して上記27基分も含め,発電用原子炉の累計設備容量最大約6,000万kWに必要な濃縮ウランの供給が合意された。

(2)国際濃縮計画への参加

 わが国の国産濃縮工場の本格的操業は,1985年頃になるものとみられるところから,1980年頃からそれまでの間に新たに必要となる濃縮ウランは,国際共同濃縮計画により建設される工場からの供給に期待せざるを得ない状況である。このため原子力委員会の国際濃縮計画懇談会において検討を行なうとともにこれに必要な調査をウラン濃縮事業調査会に委託した。
 同調査会においては,フランスとの合同検討会をもちウラン濃縮工場の経済性等に関する予備的な調査検討を行なうとともに,日米合弁濃縮事業に関する基礎的調査を実施した。
 すなわち昭和47年3月から始まったフランス原子力庁(CEA)との合同ワーキンググループは,ノンコミッタルベースで第1段階の共同調査を行ない,共同濃縮工場の技術的。経済的検討および工場実現に当たって両者の果たしうる役割について評価検討を行ない,本年4月に終了した。
 また米国とは,昨年9月の両国政府の合意(鶴見-インガソル会談)に基づき,USAECと2回にわたって会合をもち,日米民間企業による合弁事業に係る諸問題につき検討を行なうとともに,日米合同の作業グループ設立に備え,米国技術による濃縮工場につき予備的調査を実施した。
 なお,ヨーロッパ3国の遠心分離法に関する研究グループ(ACE)へは,ウラン濃縮事業調査会がわが国を代表して参加した。

(3)ウラン濃縮技術の研究開発

 原子力委員会は,ウラン濃縮技術の重要性にかんがみ,昭和45年度からガス拡散法および遠心分離法の研究開発を「原子力特定総合研究」として推進してきたが,ウラン濃縮技術開発懇談会の中間報告(昭和47年8月)を受け,①遠心分離法については,昭和60年(1985年)までにわが国において国際競争力のあるウラン濃縮工場を稼動させることを目標に,そのパイロットプラントの建設,運転までの研究開発を「原子力特別研究開発計画」としてとりあげ,動力炉・核燃料開発事業団を中心として強力に推進する。②ガス拡散法については,国際共同濃縮事業へのわが国の参加をより意義あるものとするため,基礎的研究を継続することとした。これにより,従来ガス拡散法および遠心分離法について並行的に進めてきた研究開発に終止符がうたれ,今後は遠心分離法の開発に国を挙げて取り組むこととなった。
 さらに,ウラン濃縮技術開発懇談会は,昨年10月,以下のような基本計画を骨子とする最終報告をとりまとめた。
 遠心分離法の研究開発は,総合システム開発の観点からこれを推進することとし,遠心分離機,安全工学等の研究開発とともにプラントシステム(カスケード)の開発を実施し,パイロットプラントによる総合試験に進むものとする。
 なおパイロットプラントの建設着手に当たっては,研究開発の成果,海外の動向等に関し事前に評価検討を行ない,国際競争力のある実用工場の建設の見通しが得られた場合においてその建設に進むものとする。
 現在,動力炉・核燃料開発事業団では上記の基本計画の線に沿い,カスケード試験施設の建設,その他所要の研究開発を進めている。


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