2. 海外諸国の動向

(1)濃縮ウランの需給

 米国原子力委員会(USAEC)の報告(1972年12月)によれば,第6-1表に示すごとく自由世界における原子力発電の開発規模は,1980年には約2.7億kWに達するものと見込まれており,それに必要な濃縮ウランの需要も,年間分離作業量で約3万トンに達するものと予測されている。

 一方,これに対する供給は,当分の間は米国の既設の3濃縮工場に依存できるが,1980年代初期には,自由世界の需要がそれらの濃縮能力を越えるものと見込まれており,新濃縮工場の建設が不可欠になっている。ガス拡散法による濃縮工場は経済性からみて6,000〜9,O0OトンSWU/年程度の大型のものが必要であり,また10数億ドルという莫大な建設資金を要するといわれている。また遠心分離法については,現在,オランダ,西独および英国の3国共同計画によりパイロットプラントによる経済的技術的検討が行なわれているが,同法は現段階においてはまだガス拡散法に比較して十分競争できるという確信が得られていないというのが一般的見方である。
 したがって1980年代初期の需要増に対処するためには,少なくともガス拡散法による新工場が国際共同事業として建設される必要があるものと思われる。

(2)米国の動向

イ 政府による増産計画

 現在,米国政府所有の3濃縮工場(オークリッジ,パデューカ,ポーツマス)の最大年間分離作業能力は約17,000トンであるが,現在の需要はその半分程度であり,米国は将来の需要を見越し,余剰能力の一部を使って予備生産を行なっている。さらにUSAECは,カスケード改良計画(CIP)およびカスケード出力増強計画(CUP)を実施することにより,最大年間分離作業能力を約28,000トンまで高めることとしとしている。

 なお,USAECは,濃縮工場の廃棄濃度を高めることにより,既設設備で供給可能な期間を引き延ばすことを計画しており,当面は契約上の廃棄濃度(0.2%)と実際運転の廃棄濃度(0.275%または0.3%)の差から生じる原料天然ウランの増量分は,備蓄中の7万トンのうち5万トンを充当する模様である。

ロ 濃縮技術の海外への供与

 米国は,1971年11月同国のガス拡散技術を米国外の多国間ベースの濃縮計画に対し提供する可能性を検討するため,EC諸国,太平洋諸国等と予備的な話し合いを行ったが,目覚ましい進展はみられなかった。

ハ 民間企業による濃縮工場建設計画

 米国民間企業の濃縮事業への進出を狙いとしたUSAECの濃縮技術開発計画については,現在7社が参加の意志を表明している。
 しかしながら,1980年頃の濃縮ウランの端境期に間に合うよう工場を稼動させるには,早急に工場建設に着手しなければならないことから,米国原子力委員会は,濃縮技術に関する規則,「機密データへの接近の許可(10 CFRPart25)」を改訂した。現在,米国有力企業のユニオン・カーバイト(UCC)-ベクテル(Bechtel)-ウエスチング・ハウス(W-H)3社のグループUEA(UraniumEnrichmentAssoci-ates)が,同規則に基づき米原子力委員会所有の技術の使用のための申請を行ない許可されている。

ニ 濃縮役務基準の改訂

 USAECは,昨年12月,濃縮役務基準を再検討するため新規の契約締結を中断する旨の発表を行なった。その後,本年1月にUSAECは,濃縮役務基準の改訂案を発表した。USAECによれば,この改訂の目的は現実的かつ確実な濃縮役務の供給を可能とし,新濃縮工場の必要とされる時期を明らかにし,さらには民間が新濃縮工場を建設する場合の資金調達を容易にするためであるとしている。
 新基準の主な内容としては,初装荷燃料引き取りの8年前に契約を締結すること,初装荷燃料の濃縮価格の約1/3を分割前払いすること,10年間の引取数量および時期を確定することなどである。
 これら改訂案に対しわが国をはじめとして関係各国は,この案が原子力発電計画の弾力性を損うものとして,米国上下両院原子力合同委員会(JCAE)の公聴会等において強く反対の意志表示を行なった。
 しかしUSAECは,従来,濃縮ウラン供給者側が一方的にリスクを負ってきており,需要者側もリスクを分担すべきである。また,契約数量の追加を希望する者に対しては,廃棄濃度を上げることによって追加量相当分の濃縮ウランを供給する。(この場合原料の天然ウランが多量に必要となる)という融通性をもたせる等の主張および提案を行ない,実質的にはほぼ原案に近いものが5月に発効した。
 これに伴いUSAECは,新基準にもとづくモデル契約書を顧客等内外関係者に送付し,コメントを求め,これらを検討の上,本年7月頃には最終的なモデル契約書が作成されることとなった。

(3)欧州諸国の動向

 欧州原子力産業会議(FORATOM)の報告(1972年)によれば,欧州の濃縮ウラン需要は1980年には年間分離作業量で約1万トン,1990年には約3万7千トンに達するものと見込まれている。これに対し供給源としては現在,米国の工場がそのほとんどを占めているが,将来においては,EC域内において濃縮工場を持つべきであるという考えから,EC委員会は,本年3月閣僚理事会に対し1981年以降の濃縮ウラン需要を満たすため欧州濃縮工場の建設を提案し,その最低規模は少くとも1981年で3千〜4千トンSWU/年,1985年で1万トンSWU/年とする必要があるとしている。このためEC委員会としては,EC域内で濃縮工場建設計画を有する企業があればこれを奨励するとともに,EC域外との供給契約およびEC域内の設備投資を調整し,本年末までにウラン供給政策を策定することとしている。これらに対応してフランスのガス拡散分離技術やオランダ,西独および英国の3国技術による共同濃縮計画が出されており,活発な動きが展開されている。

イ オランダ,西独および英国の遠心分離法による共同濃縮計画

 1970年に政府同協定により発足した欧州3国による濃縮ウラン共同生産計画は,CENTEC(遠心分離機の設計,製造および濃縮施設の建設業務)およびURENCO(濃縮施設の運転および製品販売業務)を中心にすすめられており,すでにパイロットプラントの完成と部分的な運転による生産が伝えられている。

 1972年末,URENCOは,遠心分離法によるウラン濃縮工場の,技術的経済的可能性の調査検討を行なうため研究グループ・ACE(Associa-tionforCentrifugeEnrichment)を設立すべく欧米諸国,日本等に対し参加招請を行なった。本年3月の準備会議には,わが国を含め13か国が参加し,今後の進め方を検討したが,最終的には6月,URENCO,CENTECをはじめわが国を含む16機関が参加して第一段階の調査を行なうこととなった。なお第一段階は公開情報に基づいた調査検討を約1年間にわたって行なう予定である。

ロ フランスを中心としたガス拡散法による共同濃縮工場建設計画

 フランスは,自国のガス拡散濃縮技術を使った商業規模の濃縮工場を欧州および太平洋地域に建設する構想を有し,1971年以来,欧州8か国(EURODIF:フランス,英国,西独,オランダ,イタリア,ベルギー,スエーデン,スペイン),オーストラリアおよび日本とそれぞれ研究グループを設け,濃縮工場の技術的,経済的諸問題について共同で検討を行ない,各グループとも第1段階の検討を終了している。

(4)ソ連の動向

 ソ連の濃縮工場の濃縮能力は明らかにされていない。しかし,1971年3月にフランスとの間で250トンSWUの濃縮サービス供給契約が締結され,さらに同年秋のジュネーブ会議でソ連代表は,国際価格で濃縮サービスを供給する可能性があると発表している。
 本年に入って西独もテストケースとして,300トンSWUの購入についてソ連と交渉を開始した。さらにスウェーデンもソ連と接触を行なっており,近いうちに交渉に入るものと見られている。
 わが国も,本年6月原子力産業会議視察団がソ連を訪問し,原子力関係研究所,施設,発電所等を視察し,あわせて両国の原子力開発状況および濃縮ウランの供給や技術協力の促進等将来の協調の可能性について意見の交換を行なった。


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