3. 環境放射能対策

(1)原子力施設周辺の環境モニタリング

 原子力発電所等の原子力施設が現在稼動している地区として,茨城県東海村,同大洗町,福井県敦賀市,同美浜町,福島県大熊町及び双葉町の各地区があり,これらの地区における原子力施設周辺の環境モニタリングについては,県の関係機関が独自にまたは県および設置者からなる測定技術会等を組織して,県衛生研究所および設置者が実施した放射能調査について評価検討を行なったが,いずれの調査結果も許容量に対して,きわめて低い値であった。
 また,原子力発電所の建設に着手している島根県鹿島町,静岡県浜岡町,佐賀県玄海町の各地区においても,上記地区同様の体制で原子力施設の稼動前から環境モニタリングが行なわれている。
 国においても,水戸原子力事務所が前年度に引続き放射能調査を実施した。一方,福井県敦賀市に昭和47年度から科学技術庁原子力局の専門職員を常駐させて,環境モニタリング等原子力の諸問題について,国,地方公共団体および設置者等との円滑な連絡調整を行なっている。また,昭和48年6月から福島県に同上専門職員を派遣常駐させ,環境モニタリング等の実施の準備を行なっている。

(2)核実験に伴なう環境放射能調査体制

 政府は,昭和36年10月,核実験に伴う放射性降下物の漸増に対処するため,内閣に放射能対策本部を設置し,放射能の人体に対する影響に関する研究の強化,放射能測定分析の充実,放射能に関する報道,勧告,指導,その他放射能対策に係る諸問題について,関係機関相互の連絡,調整を緊密に行なってきた。また昭和41年12月,中国の第5回核爆発実験に際しては,石川県輪島において,わが国ではこれまでの最高の観測値を記録したことから,放射能対策本部は,昭和42年6月放射性降下物に対する緊急時対策および放射能調査体制の強化について方針を決定した。
 この方針にもとづき,原子力局では,環境放射能水準を全国的に把握するため,空間線量測定用モニタリングポストを18ケ所(昭和47年度は静岡,佐賀の両県にそれぞれ1か所配備)に,また,核爆発実験後早期に牛乳等を通じて体内にはいり,被ばくを与える131I(よう素)の迅速測定を行なうため,波高分析器を12か所(昭和47年度は青森,島根の両県にそれぞれ1台)に配備するなど,放射能調査体制の強化をはかってきた。
 放射能対策本部は,フランスが南太平洋ムルロア環礁上空において核爆発実験を行なう計画があるとの情報に接し,昭和47年6月3日幹事会を開催して放射能対策等を協議した結果,従来の経緯からみて,平常時の監視体制のままで支障なしと判断し,核実験の結果の推移を見守ることとした。なお,フランスは,同環礁上空において6月19日から8月1日の間に3回核爆発実験を行なったが,わが国への影響はみられなかった。
 環境放射能調査は,昭和47年度においても,前年度に引きつづき放射線医学総合研究所,気象庁をはじめ関係国立試験研究機関,都道府県衛生研究所,民間研究所等において,一般環境(大気,雨水,陸水,海水,土壌,海底土等),食品(野菜,牛乳,海産物,日常食,標準食)および人体関係(骨,臓器,尿等)について第4-1表のとおり測定および分析を実施した。
 これらの調査結果は,放射能対策本部から,昭和48年2月「環境および食品等の放射能汚染について」として発表されたが,環境および食品の放射能水準は,横ばいもしくはやや減少の傾向を示している。しかし,放射能水準は,持続的かつ正確に調査測定することが重要であり,放射能対策本部としては,放射能調査網の充実に留意しつつ関係機関と緊密な連絡をとり,放射能水準の把握に努めている。
 放射能調査対策研究は,適切な放射能調査対策を実施するため,放射線医学総合研究所をはじめその他の国立試験研究機関等において,環境,食品,人体における放射性核種の挙動,汚染対策等について行なっている。
 また,原子力局は,昭和34年以来,わが国の環境放射能調査およびその対策研究等の成果について関係国立試験研究機関,関係都道府県衛生研究所,関係民間機関等の参加を得て,毎年「放射能調査研究成果発表会」を開催してきたが,昭和47年度において昭和47年11月,第14回の発表会を放射線医学総合研究所において開催した。
 環境放射能調査の一環として,東京湾,大阪湾などにひきつづき,昭和47年12月伊勢湾内10地点の海底土について9放射能の分析測定を行なったが,特に異常は認められなかった。

(3)放射能測定法に関する試験研究

 現在,都道府県衛生研究所において実施している放射能調査は,科学技術庁が制定した「放射能測定法」や「放射性ストロンチウム分析法」等にしたがって実施しているが,これら分析法は制定後期間が経過し,その間これら放射能の分析測定法や放射能測定装置の改良に伴い現行分析法の改訂が各方面から叫ばれてきた。
 これに対処して昭和46年度より[放射能測定法の基準化に関する対策研究」を(財)日本分析化学研究所に委託し,関係機関の研究者の協力を得て研究を実施している。その検討状況を第4-2表に示す。

 これらの検討結果に基づき作成ざれる分析法の改定案は,逐次放射線審議会測定部会に諮問し,本部会において審議の後,科学技術庁のマニュアルとすることとしている。
 なお,昭和48年度は,前年度にひきつづき「放射能測定法の基準化に関する対策研究」を実施するとともに,新たに「原子力施設周辺の放射線モニタリングの最適化に関する試験研究」を開始することとしている。


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