第4章 環境保全
1. 概要

 わが国では,原子力開発利用の当初から安全性の確保に万全を期するとともに,放射性物質の環境への放出については,国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づき策定されたわが国の放射線防護基準を下廻ることはもちろん,実行可能なかぎりこれを低減させるよう努力してきたところであるが,今後における原子力発電規模の拡大や,使用済核燃料の再処理施設の建設等原子力開発利用が進展しても,原子力施設等から環境中へ放出される放射性物質による人の被ばくがいじるしく増加することのないよう,一層の努力が必要である。
 かかる状況に対処して,原子力委員会は,わが国の国土面積,人口密度,海洋生物資源への依存の程度等,自然的,社会的諸条件を考え,環境保全に対する要請に応える立場から,環境・安全専門部会を設置し,その中に,環境放射能,放射性固体廃棄物,低線量および温排水等についての分科会を設置し,基本的考え方,研究開発の進め方などについて鋭意審議を進めてきたが,近くこれらについて具体的方策が明らかにされる予定である。
 原子力発電所からの温排水について,近年環境とくに海洋生物に及ぼす影響が大きな関心を集めており,昭和47年度には発電所からの温排水分布拡散,温排水の漁業等への利用などの調査研究が水産庁,通商産業省,科学技術庁などにより実施された。また,環境庁においては,温排水の排水基準策定のための基礎調査が行なわれた。
 放射性廃棄物の処理処分について,原子力委員会は昭和47年6月「原子力開発利用長期計画」の中で「低レベル固体廃棄物については,昭和50年代初めころまでに海洋処分および陸地処分の見通しを得る」との方針を示している。その方針にしたがって,昭和47年度には,海洋投棄のための候補海域の海洋調査を実施するとともに,陸地保管のための実地調査を行なった。
 環境放射能調査については,47年度は,放射線医学総合研究所などの国立試験研究機関,都道府県衛生研究所等において,ひきつづき一般環境,食品等の放射能調査を行なった。放射は能対策本部は,昭和47年6月から8月にかけて南太平洋のムルロア環礁の上空で行なわれたフランスの核爆発発実験に伴い,放射能調査対策を検討するとともに,その結果の推移を見守ったが,その影響は見られなかった。
 米国原子力軍艦の寄港に伴う放射能調査については,ひきつづき横須賀,佐世保において実施するとともに,昭和47年5月15日沖縄の本土復帰に伴い,ホワイトビーチにおける調査が新たに加えられた。なお,47年度には37回(前年度17回)の寄港時調査を実施した。


目次へ          第4章 第2節へ