2. 原子力産業の現状

 わが国の原子力産業は,原子力発電所の建設計画の進展と共に,原子力発電所建設に関連する部門を中心にして進展してきた。原子力産業は総合産業のうえに成り立っており,資本的,技術的に結びついて系列化をはかる例が多く,わが国においても,原子力産業5グループ〔住友グループ(住友系),第一グループ(富士電機系),東京原子力グループ(日立系),三井グループ(三井系),三菱グループ(三菱系)〕が中心となって機器供給,核燃料加工を進めている。以下科学技術庁原子力局が原子力開発利用の各分野について昭和46年度末現在の実態を調査した昭和47年度原子力開発利用動態調査により,わが国の原子力産業の現状を述べる。
 調査の結果を概括すれば,原子力発電の実用化の進展に伴う民間企業の原子力関係従事者の順調な伸び,原子力発電所設備投資の急速な伸び,および新型動力炉開発の本格化に伴う研究機関の開発費の急増等が顕著なことであった。
 また,新型動力炉の開発は,動力炉・核燃料開発事業団の大洗工学センターの高速増殖炉実験炉の建設および同事業団の敦賀市における新型転換炉原型炉の建設等が主なものとなっている。
 原子力関係従事者については,昭和46年度末において49,226人で前年度の41,906人に対し,17.5%増加している。とくに民間企業の伸びが大きく24,435人と前年度に比し25.3%増となっており,全従事者の49.6%を占め,45年度の全従事者数比率46.5%より増加している。
 原子力関係設備投資額(発電所の建設費等を含む)は45年度の998億円に比し46年度は1,560億円と57%増加している。増加は主として民間企業の1,465億円(前年度937億円)によるものである。
 設備投資の主要なものは原子力発電所の1,378億円(前年度849億円)で,これがもっとも大きく,再処理施設,核燃料加工施設がそれぞれ43億円(前年度0),31億円(前年度23億円)とこれについで大きくなっている。
 逆に設備投資の減少した分野は「原子炉製造施設」で,これは,原子炉圧力容器のような大きな機器の製造施設の設備投資が一段落したことを示している。
 原子力関係生産額は,45年度の228億円に比し46年度は323億円と41%増加している。この増加を生産分野別にみると主として原子炉機器関係によるものである。

(1)原子炉

 現在わが国で運転又は建設中の原子力発電所は濃縮ウラン使用の軽水炉(BWR,,PWR)が中心となっており,これらの建設は,米国から導入した技術をもとにして行なわれているが,原子炉機器の国産化の努力が重ねられた結果,30万,50万および80万KW級の各々の一号炉は主に海外メーカーにより建設されたが,二号炉以降は,これらの技術を吸収し,国内メーカーが建設している。即ち,現在建設中の東京電力(株),福島3号炉(BWR)は機器国産化率90%,関西電力(株)美浜3号炉(PWR)は93%,同社高浜2号炉(PWR)は89%,と80万KW級までのプラントの国産化体制は一応固まってきた。しかし100万KW級のプラントについては,海外のメーカーが主契約者となっているため,機器国産化率は50〜70%にとどまっている。((第11-1表),(付録V-3))
 機器別に,その国産化状況をみると,原子炉の安全上特に重要な機器で,その信頼性実証性が強く要求される再循環ポンプ,主蒸気隔離弁等はまだ国産化の域に速していない。しかし,制御棒および駆動装置については,近年国内メーカーが実物を試作し各種実証試験を行ない,その性能を確認した上で,一部国産品を採用している。また,循環ポンプ,弁類は一般に大容量であり製作経験がないので当分は輸入に頼らざる得ないとみられているが,それぞれの専門メーカーは技術導入あるいは自主開発により国産化の準備を行なっている。

(2)核燃料加工産業

イ 軽水炉燃料

 現在わが国で建設中の原子力発電所はすべて軽水炉であり,今後も当分は軽水炉中心に建設が進められると考えられる。これにともなって低濃縮ウラン燃料の需要が著しく増大しつつあるが,一般にウラン燃料の加工部門は他の核燃料部門にくらべて比較的国産化が進んでいる。
 すなわちフッ化ウランから二酸化ウランへの転換加工は,住友金属鉱山(株)が年産約240トン(二酸化ウラン換算,以下同じ。)の工場を,昭和48年3月に完成し,操業を開始した。ついで,三菱原子燃料(株)が年産約360トンの工場を昭和48年5月に完成し,操業を開始した。
 また二酸化ウラン粉末から最終製品である燃料集合体への成型加工は,BWR用燃料に関しては,日本ニュクリア・フュエル(株)がGE社から導入した技術をもとに現在,210トン/年の規模で操業中であるが,48年度中に490トン/年の規模にするよう現在増設工事を進めている。PWR用燃料に関しては,三菱原子燃料(株)がWH社から導入した技術をもとに現在280トン/年の規模で稼動中であるが,昭和48年度中に420トン/年の規模にするよう現在増設工事を進めている。
 なお,47年7月,住友電気工業(株)と古河電気工業(株)の合弁により原子燃料工業(株)が設立されたが,この新会社はガルフ・ユナイテッド・ニュクリア社からBWR用およびPWR用の各燃料の設計,製造技術を導入し,軽水炉燃料加工事業に進出する見込みである。新会社の進出は実質的に原子炉系メーカーにより2分された状態にある国内市場に有効な競争を実現しようとするものとして大いに期待される。
 軽水炉燃料の国産化に関してはジルカロイ被覆管の製造が重要であるが,これまでの国産燃料は輸入品を使用している。しかし,わが国においてもすでに(株)神戸製鋼所がビレットから,住友金属工業(株)がスポンジから,三菱金属工業(株)が素管からの被覆管までの生産設備を有しており,実用段階にあるとみられる。このため電力会社の間でも国産品の使用の動きがみられ,日本原子力発電所(株)敦賀発電所の取替燃料2体に試験的に国産品が使用されており,48年度には関西電力(株)美浜発電所の取替燃料2体にも試験的に国産品の使用が予定されている。このような国産品の試験が良好な結果を示せば,今後国産被覆管の使用が急速に進展するものと予想される。
 原料からスポンジまでは日本鉱業(株)および(株)ジルコニウムインダストリーがあり,両社合わせた生産能力は420トン/年に達し,すでに相当の生産実績をもっている。
 なお,(株)神戸製鋼所は,47年にGE社と被覆管製造に関する技術提携を行なっている。

ロ 研究用板状燃料

 わが国の大型研究用原子炉で高濃縮板状燃料を使用するものは原研のJMTR,JRR-2,JRR-4および京大原子炉で,これらの年間所要量は総計250〜350本である。これに対して板状燃料の加工事業者としては,原子燃料工業(株)および三菱原子力工業(株)の2社があるが,その加工能力は年間690本で,一時的な需要の集中を考慮しても供給能力は十分であり,技術的にもすぐれたものであるので,板状燃料は現在すべて国産化されている。

 なお,前年まで生産を行なっていた住友電気工業(株)及び古河電気工業(株)は,原子燃料工業(株)の設立にともない,核燃料部門の事業を新会社に移管した。

(3)研究開発

 昭和47年度原子力開発利用動態調査によると,昭和46年度原子力機関従事者49,226人のうち研究者は9,502人で,その機関別内訳は,研究機関が3,862人で全研究者の40.9%,教育機関が3,771人で39.7%,民間企業が1,848人で19.5%等となっている。このように研究者の内訳をみると,教育機関と研究機関で全体の80.3%を占めている。
 昭和46年度の研究開発費は総額で834億円で前年度の467億円にくらべて55.9%の増加となっている。
 これを機関別にみると,研究機関が625億円で全投資額の74.9%(前年度69.6%)を占めている。この比率はわが国の研究開発費全体に占める研究機関の比率13%(昭和45年度)に比べると大きな差異があり原子力分野における研究開発活動の特徴が出ている。このように研究機関の比率が高いのは,わが国が現在ナショナル・プロジェクトとして開発を進めている新型動力炉,原子力船「むつ」の開発を担当している動力炉・核燃料開発事業団,日本原子力船開発事業団,および原子力開発利用に必要な基礎,応用研究にたずさわる日本原子力研究所が含まれているためである。
 以下,民間企業が161億2,500万円で19.3%,教育機関が32億3,100万円で3.8%,医療機関が14億9,600万円で1.8%となっている。
 一方,経営主体別の研究開発費をみると,国(国に準ずるものを含む)の研究開発費が621億2,200万円で全研究開発費の74.5%,民間の研究開発費が186億万9,600円で22.4%,地方自治体が26億1,100万円で3.1%を占めている。
 国と民間企業の研究開発費の負担比率は,わが国における科学技術全体の研究開発費における両者の比率が民間75%,国25%(昭和45年度)であるのに対してまったく反対の関係になっており,先導的科学技術分野における国の役割が大きいことの例証の一つとなっている。


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