2. 基礎研究

 わが国の原子力研究活動の中心的役割を担っている日本原子力研究所においては,前年度にひきつづき,動力炉開発,燃料および材料の開発,アイソトープの生産,原子炉多目的利用,放射線利用,核融合,安全管理等,広範囲な原子力開発利用に関連する理学,工学分野での基礎研究が行なわれた。
 昭和47年度には,動力炉に関しては,高速実験炉のモックアップによる実験的研究を行なったほか,ナトリウム冷却型炉についての基礎解析データを得るための設計研究を行なった。
 プルトニウムの熱中性子炉への利用の研究については,軽水臨界実験装置を用いて,はじめて全炉心二酸化プルトニウムー二酸化ウラン燃料にて臨界を達成した。また,燃料,材料等については,炭化物燃料に関する物性および両立性の研究,再処理に関するプルトニウムのフッ素化実験などを行なった。
 高温ガスの伝熱流動の研究では,小型ガスループにより高温における材料の水素透過に関する高温実験を行なうとともに,温度1,000°C,圧力40kg/cm2条件下の実験を行なうため,昭和48年2月に大型ヘリウムガスループを設置した。
 また,分散型燃料に関する研究では,二酸化ウランを核とする被覆粒子燃料およびそのペレットについて長時間にわたる高温加熱試験を行ない,四重被覆粒子が熱的安定性にすぐれていることを明らかにした。
 安全性に関する研究では,原子炉事故の熱工学的安全性の研究としてROSA-Iの実験を完了し,ROSO-II実験の準備を行なうとともに,反応度事故の試験研究としてNSRR実験計画の準備を進めた。このほか,各種原子力コードおよび核データの整備,原子炉内計測の研究,計算機制御システム開発と動特性解析,黒鉛等の放射線損傷研究,空気汚染モニタリング技術の開発,低レベル線量測定法の開発などを行なった。
 放射線医学総合研究所では,放射線障害と予防,診断および治療に関する調査研究,ならびに放射線の医学利用に関する調査研究について,物理学,化学,生物学,医学等の広範な分野において調査研究を実施し,多くの成果が得られた。昭和47年度には,特別研究として前年度にひきつづき中性子線等の医学的利用に関する調査研究を進めるとともに,放射線医学領域における造血器移植に関する調査研究を終了し数々の成果を得た。また,新たに低レベル放射線の人体に及ぼす危険度の推定に関する調査研究が一部着手された。このほか,放射線障害に対する生化学的指標の検索に関する調査研究が実施されたほか,経常研究として体内放射線測定法の開発,放射線障害発現の機構解明などが行なわれた。
 理化学研究所では,核融合,核物理,核化学,放射線化学,放射線生物学など原子力開発利用の基礎的な分野の研究が行なわれている。昭和47年度には,原子力特定総合研究基本計画に基づき前年度にひきつづき,核融合について,マイクロ波によるプラズマ加熱,分光によるプラズマ測定,真空技術などの開発を行ない,また,ウラン濃縮に関して隔膜の試作開発,質量分析計の自動化などを行なうとともに,食品照射における放射線高抵抗性細菌の研究が実施された。このほか,160cmサイクロトロンによる重イオン反応実験などの原子核物理研究,放射線に対する新防御薬の開発,環境放射線による情報の迅速解析に関する研究,放射性核種による海洋環境の汚染に関する研究などが行なわれた。
 以上のほか,関連する国立公立試験研究機関,および大学において原子力の基礎的研究が積極的に進められており,わが国の原子力開発利用の進展の大きな原動力となっている。


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