3. 食品照射

 食品に放射線を照射し,輸送および貯蔵中の微生物による腐敗,虫害および発芽等による損失の防止,保存期間の延長,食品の加工適正の向上や改質を行なうことは,食品流通の安定化および食生活の改善をはかる上に大きく寄与するものと期待されている。
 原子力委員会は,昭和42年9月,食品照射の早期実用化を促進すべく,その研究開発を原子力特定総合研究に指定し,食品照射研究開発基本計画を策定した。これにもとづき現在,国立試験研究機関,日本原子力研究所,理化学研究所等において食品照射に関する研究開発が進められている。
 なお,この推進にあたっては,各実施機関の関係者,学識経験者および関係行政機関の関係者からなる「食品照射研究運営会議」を原子力局に設置し,研究計画の調整評価などによって総合的な研究開発が進められるよう図っている。
 食品照射に関する研究は,馬鈴薯,玉ねぎ,米,小麦,みかん,水産ねり製品,ウインナーソーセージの7品目について行なわれてきたが,このうち発芽防止を目的とする馬鈴薯の放射線照射については研究が終了し,食品照射研究運営会議が46年度に「放射線照射による馬鈴薯の発芽防止に関する研究成果報告書」をとりまとめた。厚生大臣から照射した馬鈴薯を食用に供することの可否および食品衛生上の問題点について諮問を受けた食品衛生調査会は,この研究成果を基礎資料として調査審議を行ない,昭和47年8月14日,実用線量で照射を行なった馬鈴薯は食品衛生上安全であるとの見解を答申した。この答申の趣旨に基づき,8月30日に馬鈴薯に対する放射線照射が許可になり,さらに必要な政省令の改正が行なわれた。これらの措置によって,馬鈴薯については,わが国でははじめて照射食品として実用化することとなり,現在生産地において大量照射装置の建設が計画されるなど,その推進が図られている。

 食品照射研究開発のための施設整備については,日本原子力研究所高崎研究所において食品照射共同利用施設が昭和44年度より着手され,昭和46年9月に食品照剣研究棟が完成し,現在,昭和48年10月に運転開始を目標にガンマ線照射棟の建設が進められている。
 馬鈴薯以外の品目についての研究開発は,玉ねぎについては発芽防止,米および小麦は殺虫,またウィンナーソーセージ,水産ねり製品,みかんについては殺菌を目的とし,食品としての安全性および健全性に関する研究を行ない,かつ照射効果の研究を行なっている。
47年度には,基本計画に従って各実施機関がそれぞれの研究テーマについて,前年度に引続き研究開発を行ない,次の研究成果が得られた。
 玉ねぎについては,照射方法の再確認が行なわれたほか,安全性試験として次世代試験が行なわれた。
 米については,サイロ型照射装置を用いて,流動試験,殺虫試験,照射米の官能の検査などが行なわれた。
 また,ウインナーソーセージについては,ネト発生を1週間抑制するのに30万〜50万ラドの線量が必要であることがわかった。
 かまぼこでは,30万ラド照射後10°Cで貯蔵した場合,ほぼ満足すベき非照射かまぼこの2倍に相当する保存性(約3週間)が認められた。
 このほか,みかんの照射については,昭和46年度に引続き電子線のエネルギーの高低が照射効果に及ぼす影響に関する研究が行なわれた。


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