第4章 濃縮ウラン
§2 ウラン濃縮に関する海外諸国の動向

3 欧州諸国の確保体制

 欧州原子力産業会議の報告(1969年1月)によれば,欧州では1980年に分離作業量で9,000〜15,800トン,1990年には13,800〜28,000トンの濃縮ウランが必要になるものとみられている。このため欧州諸国は米国の現有3工場以外に新たな濃縮ウランの供給源を確保する必要に迫られている。

(1) オランダ,英国および西独三国の遠心分離法による共同濃縮計画
 オランダ,英国および西独三国は,1970年3月遠心分離法による濃縮ウラン共同生産協定に調印し,1971年7月には濃縮施設の設計,建設ならびに遠心分離機の設計,製造にあたるCENTEC有限会社が,同年8月には濃縮施設の運転を行なうURENCO有限会社が設立された。

 この計画に基づき,共同濃縮工場が英国のカーペンハーストおよびオランダのアルメロに建設されつつある。なお,イタリアおよびベルギーの同計画への参加も検討されている。

(2) フランス
 フランスは,1969年従来の天然ウランを燃料とする黒鉛減速ガス冷却炉の建設をおさえ,今後は軽水炉を主流に建設する決定を行なった結果,濃縮ウランに対する需要が増大することとなった。フランスにはピエールラットにガス拡散法による濃縮工場が稼動しており,その規模は約400トンSWU/年といわれている。一方,1971年2月フランス原子力関係閣僚会議は自国のガス拡散濃縮技術を使った6,000トンSWU/年規模の濃縮工場を欧州各国が共同で建設することを提案した。この工場の建設に必要なパイロット設備はすでに完成し,所要の試験研究が開始されており,工場敷地の選定も委託を受けた民間会社の手で行なわれている。さらにフランスは太平洋地域にも共同濃縮工場を建設する構想を打ち出し,わが国にもその可能性の検討のための参加を呼びかけてきている。また遠心分離法の研究開発がサクレー研究所において続けられている。

(3) 英国
 1953年に操業を開始したガス拡散法によるカーペンハースト濃縮工場は,1970年に改造を行ない,現在の分離作業能力は400トンSWU/年である。しかしガス拡散工場は膨大な電力を必要とすることなどを理由に工場規模の拡大をやめ,ガス拡散法の開発と平行して進めてきた遠心分離法の開発に集中することを決定し,オランダおよび西独とともに世界で初めての遠心分離法による共同濃縮事業を推進している。

(4) 西独
1980年における西独の全発電設備容量のうち原子力発電は20%を占め,そのうち90%以上が軽水炉によって占められるものと予想されている。
 これに必要な濃縮ウランを確保するため西独は三国共同濃縮計画に参加するとともに,カールスルーエ研究所においてノズル分離法による濃縮の研究開発を進めている。ノズル分離法は機械的な困難性がなく,苛酷な条件で使用される部品が少ない上に,電力コストは高くとも資本費が低く,運転の信頼度が高いなどの利点を有するとの前提にたって,その開発には相当の努力が払われているものと思われる。

(5) 欧州共同体(EC)委員会による提案
 欧州全体のウラン濃縮に関する動向を勘案してECとして調整するため,EC委員会は1969年5月閣僚理事会に対しEC内に濃縮工場を建設する提案を行なった。
 それによると1973年中に濃縮方法の選択を行ない,1980年までに5000〜8000トンSWU/年規模の工場を稼動させることを検討している。


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