§5 原子力船の開発

 わが国における原子力船の開発については,第1船を建造運航することにより,船体および舶用炉を一体とした原子力船建造に関する技術の確立ならびに経験の習得を目指しているが,その経済性については,世界的にまだ実証されておらず,実用化のためには舶用炉の開発を中心としてさらに研究開発を推進する必要がある。
 わが国の原子力第1船は日本原子力船開発事業団(原船事業団)によって,43年11月をの船体工事に着手され,44年6月に進水し「むつ」と命名された。進水後「むつ」は原子炉格納容器周辺の2次遮蔽工事,船体ぎ装工事等を終了し,船体部試運転を行ない,45年7月原船事業団に引き渡された。その後「むつ」は青森県むつ市の定係港に補助ボイラーにより自力回航され,直ちに原子炉ぎ装工事が開始された。
 今後,炉ぎ装工事,機能試験を行なった後,47年6月に完成の予定であまた,「むつ」の建造については,船型変更,建造費の上昇等のため着工が遅れ,実験航海が終了し,成果の取りまとめが完了するのは50年度末となる見込みとなった。このため原船事業団法の一部を改正し,同法の存続期限を4年間延長し50年度末までとする旨の法律改正が行なわれた。これに伴い原子力委員会は46年5月原子力第1船開発基本計画の改正を行なった。
 商船の大型化,高速化の傾向は近年ますます増大しつつあり,このため原子力船に対する期待は大きいものがあるが,実用化の見通しについては,世界的にその経済性が実証されておらず,原子力船の航行に必要な国際的環境も十分には整備されていない等の点から,その実現までには,まだかなりの時間を要するものとみられる。このような状況において,内外海運界の動向および海外における原子力船開発に関する動向などを十分把握し,長期的にみたわが国の原子力船開発の推進に資するため,44年6月原子力委員会に原子力船懇談会が設置され,審議を重ね,45年8月報告書を提出した。
 この報告は原子力船を実用化するためには,一体型加圧水炉等の舶用炉の設計研究,評価等を早急の行ない,舶用炉の技術的,経済的問題点を明らかにし,その結果と第1舶「むつ」の成果,内外海運界の動向等をあわせ,改めて実用化の見通しについて検討することが適切であると述べている。原子力委員会はこれを受けて,今後舶用炉の研究開発を促進する旨の決定を行なった。
 一方,民間においても,海運,造船業界と西ドイツのGKSS(原子力船建造運航利用会社)との間で原子力船の共同評価研究について合意に達し,46年8月頃を目途に8万馬力のフルコンテナー船を想定して,原子力船と在来船との経済性の比較検討を行なうこととなった。


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