§3 核燃料サイクル確立への努力

 原子力委員会は42年6月,核燃料懇談会を設け,今後の核燃料政策のあり方について検討を進め,43年6月,その基本的な考え方をとりまとめた。この中で特にわが国の条件にかなった核燃料サイクルを確立するため,核原料の確保,ウラン濃縮の研究,使用済燃料の再処理,プルトニウムの有効利用等の重要事項について基本的な考え方を明らかにし,これにもとづいて,今後の核燃料政策の推進をはかることとした。
 当面,わが国の原子力発電は主として軽水型炉によるものと考えられ,これに必要な濃縮ウランの確保は当面,わが国の核燃料政策上最も重要な要素である。濃縮ウランの安定供給を確保するためには,先ず核原料の入手が重要である。原子力発電の進展にともない,わが国のウラン燃料の所要量は大幅に増加することが予想され,現状では,先述の通り控え目なものとなっている長期計画の見通しにおいてさえ,その累積所要量(天然ウラン換算)は,50年度までに約1万3,000トン,60年度までに約9万トンに達している。
 一方,国内のウラン資源の賦存量は,44年度末現在,約7,700トンに過ぎず,しかも国際的にみると低品位のため,当面これを採堀,利用することはできない。したがって,海外からのウラン資源の安定供給をはかることが重要である。海外核原料の確保については,44年度においては,民間の活動に先行して,動力炉・核燃料開発事業団(動燃事業団)が海外ウラン資源事情の調査,米国,カナダでの探鉱を行なったほか,電力業界,鉱山業界は外国の鉱山会社とウラン鉱の共同探鉱を積極的にすすめている。とくに,45年5月には,鉱山業界,電力業界等によって,海外ウラン資源開発(株)が設立されニジェール政府,フランス原子力庁と共同してニジェールのウラン資源を開発する計画が具体化した。
 また,電力業界ではウランの長期買入契約を結び,核原料の確保に大きな努力を払っており,45年4月現在の確保量は約3万5,000ショートトンとなった。
 一方,ウラン濃縮サービスについては,161トン(U235量)の濃縮ウランの供給について米国政府との間で合意に達しているが,45年3月に東京で開催された第2回日米原子力会議においては,その後のわが国の原子力発電の進展に伴ない必要となった濃縮ウランについても追加供給するための措置を講ずることについて合意に達した。
 しかし,今後一層増大する濃縮ウランの需要を長期的,かつ全面的に米国に依存することは,安定供給の面でも,また将来の日本の原子力産業の発展にとっても好ましいことではない。このため原子力委員会は44年5月,ウラン濃縮研究懇談会を設置し今後のウラン濃縮の研究開発のすすめ方について検討せしめ,その報告に基づき,同年8月,現在すすめられている遠心分離法とガス拡散法についての研究開発を今後も積極的におし進めることとした。すなわち,47年度までの第1段階において,ウラン濃縮に関する技術的諸問題の解明の見通しをえることを目標に,原子力特定総合研究として推進し,第1段階終了時において,各方式の研究開発の成果を評価し,海外の動向を合わせて勘案し,第2段階以後の方針を定めることとしている。
 また,動燃事業団による使用済燃料再処理工場の建設については,原子力委員会は再処理施設安全審査専門部会を設け,その安全性について検討をすすめてきたが,44年3月,同専門部会は再処理施設の安全性は十分確保しうる旨,原子力委員会に報告した。原子力委員会はこれをうけて,44年11月,内閣総理大臣に再処理施設の安全性は確保しうる旨の答申を行なうにいたった。この間,同再処理工場の建設については,水戸射爆場の移転問題とも関連して地元の同意が得られない状況にあったが,44年9月,その返還について閣議決定がなされたのを機に,茨城県議会から設置を了承する旨の意向が表明された。同再処理工場の処理能力は210トン(ウラン)/年で,48年度の操業開始を目途に,45年度に建設に着手することとしている。
 核燃料加工事業についても,44年4月以降,新たに5件の加工事業の許可が行なわれ,この分野での産業化の進展が著じるしい。
 このほか,プルトニウム燃料の有効利用をはかるための研究開発が動燃事業団,原研等を中心にすすめられている。
 このように,44年度においては,総合的な核燃料サイクルの確立をめざし,海外核原料の確保,濃縮ウランの研究開発,核燃料加工の事業化,再処理工場の建設の促進などの面での進展がはかられた。


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