第1章 総論

§7 放射線利用

 放射線利用は,その利用技術の確立にともない,医学,農業,工業等の各分野にわたって着実に普及し,最近では,放射線利用機器をはじめ,粒子加速器の発展とともに利用技術が著るしく高度化し,利用分野も一段と拡大し,放射線を使用する事業所の数は,42年3月末現在,1425に達している。
 原子力委員会は,このような放射線利用の進展に即応して,原研,国立試験研究機関等における放射線利用に関する研究を推進するとともに,ラジオアイソトープの生産,廃棄物処理等の促進をはかるため,原研のラジオアイソトープ事業部の整備を行なった。
 医学利用の分野では,放射線による悪性腫瘍の治療技術の確立にともない,コバルト―60照射装置,リニアック,ベータトロン等の粒子加速器が,各地のがんセンターをはじめ,全国の主要病院に設置され,全国的な普及がはかられている。
 また,ラジオアイソトープによる各種疾病の診断についても,短寿命アイソトープの国産化,放射線医療機器の精密化により著るしい進展をみせ,主要病院において内臓血管等の診断にラジオアイソトープが用いられるようになった。
 農業利用の分野では,施肥法,農薬の散布等に関する研究にラジオアイソトープが用いられ,その成果が実際面に応用されている。また,放射線による品種改良の研究がすすめられ,水稲,大豆等において優良品種が育成され,これらの品種が実際に栽培されるようになった。
 工業利用の分野では,原子力局が41年8月に実施した工業利用実態調査によれば,放射線を利用している企業は,今回調査した16業種の資本金5,000万円以上の企業において10.3%となっており,その業種も,化学工業をはじめ,鉄鋼,機械,電機などの諸工業に及んでいる。また,その利用方法においては,厚さ計,液面計などのゲージング利用,バルブ,ボイラー等の欠陥検査のためのラジオグフラィー利用,工程解析等のためのトレーサー利用,高分子化学製品の改良等を行なうための照射利用等,多面的な利用がはかられている。
 放射線利用の研究開発については,原研高崎研究所等における放射線化学の分野で一段の進歩がみられ,すでに粉末ポリエチレン,トリオキサン重合による新製品等の製造に成功し,さらに技術の改良,進歩がはかられている。
 また,原研高崎研究所の研究開発に関連した基礎研究を充実するため,42年6月,日本放射線高分子研究協会大阪研究所が原研に移管され,新たに原研高崎研究所の大阪研究所として発足することとなった。
 食品照射の研究開発については,食生活の向上と食品流通の安定化に資する観点から,40年11月,原子力委員会に設置された食品照射専門部会において,具体的な研究開発の推進方策が検討され,41年7月,同部会は,それまでの審議結果をとりまとめ,原子力委員会に中間報告を行なった。
 原子力委員会は,この報告にもとづき,すでに海外で実用化されている馬鈴薯および玉ねぎの発芽抑制ならびに米の殺虫,殺菌に関する研究開発を42年度から推進することとしている。
 ラジオアイソトープの供給については,現在,その大部分を輸入に依存しているが,原研におけるラジオアイソトープの生産体制の整備にしたがい,短寿命アイソトープを中心に国産アイソトープの生産も増大しつつある。


目次へ          第1章 第8節へ