第1章 総論

§8 安全対策

 原子力開発利用の推進にあたっては,原子力関係施設の安全を確保し,原子力関係施設の従業員および一般国民を放射線から防護することがきわめて重要である。このため,原子力委員会は,万全を期すための努力をはらってきた。
 原子力委員会の原子炉安全専門審査会は,商業用発電炉として建設される原電の敦賀発電炉,関電の美浜発電炉および東電の福島発電炉の設置の許可申請に関する安全審査を行なったほか,米国の原子力貨物船サバンナ号の本邦水域立入りの許可申請にともなう安全審査等を行なった。これらの審査には,40年11月,大型原子炉の安全解析のために作成した「原子炉安全解析のための気象手引」が適用された。
 原子力委員会は,原子炉安全専門審査会の審査結果を検討し,敦賀発電炉については,41年4月,福島発電炉および美浜発電炉については,41年11月,それぞれ設置の許可基準に適合する旨,内閣総理大臣に答申した。
 内閣総理大臣は,この答申にもとづき,敦賀発電炉については41年4月,福島発電炉および美浜発電炉については41年12月,それぞれ設置の許可を行なった。
 サバンナ号の安全審査については,原子炉安全専門審査会においてその安全性が確認されたが,わが国の法律上,外国原子力船が本邦水域立入りの許可を受けるに際して,必要なもう一つの要件である原子力損害を賠償するに足りる措置が国際約束により講じられなかったため,同船運航の責任者であるFAST社の希望した42年6月の本邦寄港は実現しなかった。
 再処理施設安全審査専門部会では,原研の再処理試験施設および46年度に完成する公社の再処理工場について,立地条件,事故対策等の検討をひきつづきすすめている。
 さらに,原力子委員会は,核燃料加工事業の許可に関する申請が内閣総理大臣に提出されたことにかんがみ,核燃料加工事業の許可に際し,加工施設の安全性を確保するため,その安全審査の基準となる事項について,あらかじめ指針をえることとし,加工施設等安全基準専門部会を設置した。
 同部会では,加工施設小委員会において,加工施設の立地条件,事故および災害に対する安全性の解析および評価,臨界管理等について検討をすすめ,42年5月,「加工施設の安全審査指針」を作成し,原子力委員会に報告した。原子力委員会は,この指針にもとづき,加工事業の許可に関する審査を行なうこととしている。
 また,原子力委員会は,核燃料の再処理によって生ずる低レベル放射性廃棄物の海洋放出に関し,わが国の特殊な環境諸条件にかんがみ,その安全確保についてあらかじめ調査研究を行なうこととし,41年度から海洋放射能汚染に関する調査研究を関係諸機関が協力して,総合的に行なうこととした。
 総理府に設置されている放射線審議会は,38年,内閣総理大臣から諮問された「放射性物質の大量放出事故に対する応急対策の放射線レベル」について審議を行なっていたが,42年3月,審議結果をとりまとめて内閣総理大臣に答申した。一方,かねてから災害対策基本法にもとづいて防災業務計画を検討していた科学技術庁は,この答申をおりこみ,42年6月,科学技術庁防災業務計画を作成し,これを公表した。
 茨城県東海地区には,国の施策の進展にともない,原研等の多数の原子力施設が設置され,これら施設の従事者も多数に達しており,さらに同地区が将来にわたりその周辺に人口の増加が予想される特殊な事情にあることにかんがみ行なうこととした東海地区原子力地帯整備については,5カ年計画によりすすめることとし,初年度の41年度には,道路,有線放送施設の整備が行なわれた。
 環境放射能調査については,中共等の核爆発実験にともなう放射性降下物に関する調査および米国原子力潜水艦の寄港に関する調査が,ひきつづき実施されたが,とくに対策を講じる必要は認められなかった。


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