第1章 総論

§1 国内における原子力開発利用の動向

 (原子力発電)
 41年度には,3基の軽水炉が建設されることとなり,その建設工事がそれぞれ開始され,この結果,45年度までに,わが国で運転される原子力発電の規模は,総計約130万キロワットに達することとなった。
 さらに, 41年度において,電気事業者により,これらにつづく原子力発電所の建設計画の具体化が検討され,また,関係各機関において,わが国エネルギーの長期需給見とおしおよび原子力の位置づけが検討された。
 原子力委員会は,これらの検討結果を勘案して,長期計画において,原子力発電は,わが国エネルギーの安定かつ低廉な供給に資するものとして,積極的にその開発が推進される必要があること,そして,原子力発電の経済性向上の見とおし,わが国のエネルギー供給に占める石油の比重の大幅な増大,原子力発電と他の電源との最適な組合せなどを考慮して,原子力発電の長期開発見とおしをたて,60年度には,3,000万ないし4,000万キロワットに達すると見こみ,50年度には,600万キロワットの開発が行なわれていることが妥当であるとした。

 (動力炉開発)
 原子力委員会は,41年5月,高速増殖炉および新型転換炉の開発を国のプロジェクトとして推進することとし,それぞれ60年代の初期および50年代の前半に実用化することを目標として,42年度から開発の体制を整備し,その開発を強力にすすめる方針を決定した。
 この開発計画は,約20年間にも及ぶ大規模な国家的事業であり,これらの動力炉の実用化により,ウランの有する潜在エネルギーを最大限に活用し,資源に乏しいわが国において,核燃料の有効利用をはかり,さらには,わが国科学技術水準の向上と原子力産業基盤の確立が期待される。
 この国情に適した動力炉の自主的開発を各国の動力炉開発計画に伍して推進することは,わが国原子力開発利用のうえで画期的なことである。

 (核燃料)
 急増する原子力発電に対応して,これに必要とされる核燃料は,ここ当分の間,わが国の原子発電所の建設が軽水炉を中心としてすすめられることを前提として試算すると,天然ウラン精鉱に換算して,今後20年間に約9万トンの累積所要量が見こまれている。それ以降においては,原子力発電が電源開発の主流となるとともに,核燃料の所要量はさらに増加し,高速増殖炉が十分開発されるまでこの傾向はつづき,その累積所要量は相当な量に達することが予想される。
 したがって,今後,わが国の原子力発電をすすめるにあたって,動力炉の開発を促進し,その実用化によって,将来における核燃料の所要量を可能なかぎり少なくすることが必要である。しかしながら,当面の問題として,濃縮ウランをはじめ,ウラン資源の確保につとめるとともに,わが国に最も適した核燃料サイクルを早期に確立し,核燃料の安定供給と有効利用をはかることが,緊要な課題として,関係方面において認められるにいたった。
 一方,核燃料の所有方式については,濃縮ウラン,プルトニウム等の特殊核物質は国有のもとにおかれていたが,国際協定のうえで必ずしも国が所有する必要がなくなったこと,最近における上述のような原子力発電の進展と核燃料物質に関する平和利用の保障,安全性を確保するための国内管理体制が整備されてきたことなどにかんがみ,原子力委員会は,これを民有とする方針を決定した。これにより,今後のわが国における核燃料に関する施策は,民有化に対応して必要な安全保障措置等の整備を行なったうえで,すすめられることになった。
 ウラン資源の確保については,濃縮ウラン入手のための日米原子力協力協定改訂の準備がすすめられ,また,海外ウラン資源の確保のための予備調査が,原子燃料公社(公社)により実施されたほか,民間産業界においても,海外調査団が派遣された。
 核燃料サイクルの確立に関しては,核燃料加工事業の健全な発展を期待するとともに,国内において使用済燃料の再処理を行ない,プルトニウム,減損ウランを有効に活用することがとくに重要である。この観点から,原子力委員会は,公社に再処理工場の建設を行なわせることとし,公社は,その計画の具体化に関し,41年度には,すでに再処理工場の詳細設計を行なうにいたった。また,この再処理によって取出されるプルトニウムについても,核燃料として有効に利用するため,公社ならびに日本原子力研究所(原研)の研究施設の整備をすすめ,必要な研究開発が行なわれようとしている。
 以上のように,わが国においても,原子力発電が急速に進展するすう勢に即応して,その円滑な推進をはかるため,長期的な観点から,ウラン資源の確保をはじめとする適切な核燃料政策を確立すべき段階にたちいたっており,このため,原子力委員会は,長期計画にもとづき,さらにその具体的な施策について検討をすすめることとしている。

 (原子力船)
 原子力委員会は,前年度,原子力第1船の建造について,その着手を若干延期し,船価ならびに技術的諸問題等の検討をすすめてきたが,42年3月,これらの検討結果にもとづき,「原子力第1船開発基本計画」を改訂し,関係業界の協力をえて,42年から,その建造に着手することとなった。
 一方,世界海運の動向と舶用炉の技術進歩の見とおし等を考慮すると,10年後には,原子力船の実用化が予想されるので,40年代の後半に,実用原子力船の建造に着手しうるように,それに必要な舶用炉の改良研究のすすめ方について具体的に検討されることとなった。

 (放射線利用)
 放射線利用については,41年度においても,ひきつづき, 原研,国立試験研究機関等における研究を推進し,その実用化の促進をはかってきた。
 最近,放射線利用の新しい分野として食品照射の実用化が注目されるようになり,原子力委員会は,40年度に食品照射専門部会を設置し,その具体的な研究開発の推進方策について検討をすすめ,これにもとづき,42年度から研究開発をすすめることとしている。

 (安全対策)
 このようにして,原子力発電,動力炉および原子力船の開発,さらに放射線利用の拡大等,わが国における原子力開発利用がようやく本格化するにともない,これに即応して,原子力施設の安全を確保することが,ますます重要な課題となってきた。このため,原子力委員会は,今後とも,安全基準の確立,実証的な安全研究の充実を推進するなど,原子力の実用化の進展に対応した安全対策の整備をはかり,万全を期すこととしている。
 原子力開発利用は,経済活動の基礎として,国民経済の発展に大きな役割が期待されるものであり,しかも,上述のように,いまや実用化,産業化の移行段階に到達している事情から,長期的な国家的利益に即して,関係各界がその役割の重大性を自覚して,これをすすめることが強く要請される。
 以下に,海外における原子力開発利用の動向を概観し,原子力委員会を中心とした41年度における原子力全般にわたる開発利用の進展について,述べることとする。


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