第1章 総論

§2 海外における原子力開発利用の動向

 海外諸国における原子力開発利用については,それぞれ国情(こ応じて,その進展がはかられている。
 わが国の原子力開発利用を有効にすすめるためには,国際協力を積極的に活用するとともに,世界の動向を的確に把握しつつ,これに対処して行くことがきわめて重要であると考える。このような観点から,以下に,原子力発電,動力炉開発を中心として,41年度における海外諸国の動向を述べる。

 (米  国)
 米国においては,軽水炉の著るしい技術進歩にともない,その経済性は,在来火力発電に比較して有利になることが見とおされ,発電所建設の重点が在来火力発電から原子力発電へ移行しつつある。
 1966年(41年)中に発注された原子力発電設備は,21基,約1,710万キロワットに達しており,なかでも,テネシー河流域開発公社(TVA)が建設することになった原子力発電所は,110万キロワット2基という大容量のもので,産炭地という条件にもかかわらず,より優れた経済性を有することが明らかにされた。現在,米国の原子炉製造業者は,内外からの原子力発電プラントの発注をうけ,とくにゼネラル・エレクトリック社およびウエスチングハウス社の両社は,  1966年末における受注量が,それぞれ20基1,300万キロワット,17基900万キロワットであり,受注能力の限界に達しているといわれ,原子力部門の拡充を急いでいる。
 このような原子力発電の急速な進展により,将来の開発見とおしも大幅に修正され,1966年6月,米国原子力委員会(AEC)は,1980年(55年)には, 8,000万ないし1億1,000万キロワットに達するという想定を発表したが,その後の予想外の進展をも考慮し,さらに修正を行なうべく検討がすすめられている。
 このような内外における原子力発電所建設計画の進展に対処して,AECは,すでに,1964年(39年)に濃縮ウラン等の特殊核物質を民有に移すことを決定し,同時に,濃縮ウランの供給方式について,賃濃縮を実施することとし,その準備をすすめている。
 このような情勢からウラン需要の急増に対処し,一時停滞をつづけた探鉱活動が再び活発に行なわれるようになってきた。また,民間において初の再処理工場が稼動され,さらに,新たな再処理工場の建設も民間企業により計画されている。
 AECは,ここ数年の間における原子力発電の進展により,1962年(37年)に大統領に提出した原子力発電に関する報告を改訂し,1967年(42年)2月,新たな報告を行なった。
 この報告において,すでに商業的に実証されつつある軽水炉を用いた原子力発電所の建設をすすめ,原子力産業を早期に確立すべきであるとし,さらに軽水炉の実用化と併行して,原子力発電を,ウラン―238およびトリウムのもつ潜在エネルギーを最大限に利用可能とならしめる方向へ導くため,ひきつづき,新型転換炉および高速増殖炉の開発をすすめ,その早期実用化をはかることとしている。
 新型転換炉については,従来より,重水減速有機材冷却炉,高温ガス冷却炉およびシードブランケット炉の3炉型について開発をすすめてきたが,その成果をもとに,開発炉型を絞って開発をすすめていくこととしている。
 一方,高速増殖炉については,はやくから実験炉および臨界実験装置により研究開発がすすめられており,その開発の重点はナトリウム冷却の高速増殖炉に集中している。現在,AECは,燃料照射用大型実験炉として,高速中性子束試験施設(FFTF)を建設中であり,民間においては,エンリコ・フェルミ原子力発電所により,燃料の照射試験の計画がすすめられている。なお,同炉は,燃料溶融事故により,運転が一時停止されている。一方,AECの援助のもとに,民間の酸化物燃料高速実験炉計画であるSEFORの建設がすすめられており,この計画には,ドイツ連邦が参加している。米国では,これらの成果をもとに,1970年代には,いくつかの実証炉を建設すべく開発をすすめている。
 このほか,AECは,原子力発電と海水の淡水化装置を組み合わせた二重目的の大規模なプラントについてその経済性を検討した結果,メトロポリタン水道局による建設計画を内務省とともに援助することを決定した。また,この二重目的のプラントについては,イスラエル,ギリシャ等の諸国と共同研究がすすめられている。
 原子力船については,はやくから,実験船的性格のものとして,サバンナ号を建造し,原子力商船の運航経験を得るため,西欧各国を歴訪し,最近は極東諸国を訪問したが,今後の措置について検討が行なわれている。一方,1965年(40年)に,アメリカン・エクスポート(AEIL)社から,米国海事局に対し,原子力コンテナー船3隻を米国東海岸から極東航路に配船する計画の申請が行なわれ,また,1966年に,米国海事局において,原子力船の建造見とおしが行なわれるなど,実用化についても検討がすすめられている。

 (英  国)
 英国においては,エネルギー政策の観点から,原子力発電は国産石炭に近い地位を占めているとの評価のもとに,その開発を強力にすすめ,今日では,世界第一位である343万キロワットに達する原子力発電所が運転されている。1965年には,第2次原子力発電計画による発電規模が800万キロワットに修正され,これにもとづき,改良型ガス冷却炉(AGR)によるダンジネスB原子力発電所の建設にひきつづき,1967年には,同じく60万キロワットのAGR2基のヒンクレーポイントB原子力発電所の建設が着手された。
 さらに,ランカスター地方に,60万キロワットのAGR4基による発電所の建設計画が,中央電力庁(CEGB)により発表された。この発電所は,人口稠密地帯に接近して建設されるもので,AGRの安全性に対する高い信頼性を示すものである。
 また,燃料部門を強化するため,ウィンズケールの再処理工場の改造,ケーペンハースト濃縮工場の拡充等が行なわれている。一方,原子力産業グループの再編成の検討が行なわれるとともに,AGRの国際市場への進出をはかるため,1966年6月,原子炉輸出のための機関として,BNX(The British Nuclear Export Executive)が建設された。
 動力炉の開発については,新型転換炉としての重水減速炉の開発および高速増殖炉の開発が積極的にすすめられている。とくに,高速増殖炉の開発については,かねてからすすめられてきたドーンレイ高速実験炉等による研究開発の成果にもとづき,実証炉の建設を1978年(53年)までに行なうことを目途として,1966年に25万キロワットの原型炉の建設が着手され,開発計画の一段の進展がみられた。この英国における原型炉建設は,各国の高速増殖炉の開発を強く刺激することとなった。
 原子力船については,将来の舶用炉として,バルケイン型炉の研究開発を行なうにとどまっていたが,1967年3月,産業界において,原子力船に関する実用化の見とおしについて検討が行なわれた結果,高速コンテナー船を早期に建造する気運がみられている。

 (フランス)
 フランスでは,自国で開発した天然ウラン黒鉛減速炭酸ガス冷却炉(EDF型炉)による原子力発電計画がすすめられており,1964年(39年)策定の第5次原子力開発計画(1966年〜1970年)に従って,約250万キロワットの原子力発電所が建設されている。1966年3月に,48万キロワットのEDF-3が臨界に達した。また,サン・ロラン・デ・ゾーにおいて,EDF-4の1号炉が建設中であり,さらに,2号炉の建設も開始された。
 近年,フランスでは,とくに原子力発電の経済性向上を目ざして研究開発の努力がはらわれており,建設費の軽減をはかるため,EDF-4型炉の改良型で,燃料に濃縮ウランを使用する炉型の研究開発が行なわれている。そのほか,1966年7月には,ラ・アーグ再処理工場の運転が開始され,また,原子力産業界の再編成がはかられるなど,原子力発電の進展にともない,国内体制の整備がすすめられている。
 一方,対外的には,1972年(47年)運転開始を目ざして,スペインに両国の共同出資による50万キロワットのガス冷却炉による原子力発電所の建設計画がすすめられているほか,軽水炉技術の習得等のため,ベルギーとの共同計画による26万6,000キロワットの軽水炉によるSENA発電所が建設され,1966年10月,臨界に達した。
 動力炉の開発に関しては,新型転換炉として,EDF炉の経験にもとづき,その技術を改良発展させ,経済性を一層向上させるため,重水減速ガス冷却炉の開発がすすめられ,1966年12月,7万3,000キロワットの原子炉EL-4が臨界に達した。
 高速増殖炉については,すでにナトリウム冷却の実験炉ラプソディーが臨界に達し,1970年代の実用化を目途に,1969年(44年)に原型炉の建設を開始する計画が検討されている。
 そのほか,当面,軍事目的のものではあるが,ピエルラットのウラン濃縮工場は,すでに操業が開始され,1967年中に最終段階である高濃縮ウランの生産が行なわれる予定である。

 (ドイツ連邦)
 ドイツ連邦(ドイツ)では,1963年(38年)から1967年(42年)にわたる原子力開発5カ年計画にもとづき,原子力開発利用の推進をはかっており,原子力発電に関しては,政府の積極的な援助のもとに,電力会社の協力をえて,すでに国内原子炉製造業者が米国で開発された軽水炉を国産化するにいたっており,現在,1966年8月に臨界に達した23万7,000キロワットのグントレミンゲン原子力発電所のほか,2基の軽水炉が建設中である。
 動力炉の開発については,将来,原子力産業を輸出産業として発展させることを目途に,積極的に自主開発がすすめれれている。
 新型転換炉については,核燃料の有効利用とともに経済性の向上を目的として,各種の炉型について併行的に開発がすすめられ,1966年8月には,独自に開発した1万5,000キロワットのペブルベット型高温ガス冷却炉(AVR)が臨界に達したほか,重水減速炭酸ガス冷却炉について,10万キロワットの原型炉の建設が決定されている。
 高速増殖炉については,米国のSEFOR計画に参加するとともに,従来の開発計画を繰上げ,1968年(43年)にナトリウム冷却およびスチーム冷却の両炉型について,それぞれ30万キロワットの原型炉の建設に着手することを明らかにし,その準備がすすめられている。
 また,原子力船についても,鉱石運搬用の実験船オット・ハーン号の建造がすすめられており,1967年末に試運転を行なう予定で,その完成が急がれている。

 (カ ナ ダ)
 カナダでは,世界有数のウラン資源国として,天然ウランを燃料として使用しうる重水減速炉の開発がすすめられている。1966年には,当初から開発がすすめられてきた重水減速重水冷却炉(CANDU)を用いた初の商業規模の原子力発電所として,20万キロワットのダグラスポイント原子力発電所が完成した。さらに,50万キロワットのCANDU炉2基からなるピッカリング発電所の建設が開始されている。このピッカリング発電所は,1980年(55年)までに,400万キロワットの規模に拡張することが計画されている。
 また,この重水減速炉の一層の経済性の向上をはかるため,新型転換炉として有機材冷却炉と沸騰軽水冷却炉の2炉型について研究開発がすすめられており,すでに,沸騰軽水冷却炉(CANDU-BLW)の25万キロワットの原型炉が,1971年(46年)に完成を目途に建設がすすめられている。
 このようにカナダにおいては,動力炉開発の促進により,原子力産業基盤の強化がはかられ,すでに,インド,パキスタンへCANDU炉が輸出され,その他の諸国に対しても,原子力発電所の建設に際しては,すすんで国際競争入札に参加するなど重水減速炉の輸出に積極的な姿勢をみせている。
 一方,世界的な原子力発電の推進とともに,厖大な核燃料の需要量が見こまれるようになり,その確保をはかるために,その豊富なウラン資源が注目され,海外諸国からの働きかけが活発になってきた。1966年10月に,英国が,1971年(46年)から20年間にわたり,天然ウラン精鉱8,000〜1万1,500トンを購入するための長期購入契約を更改したほか,フランス,ドイツ,イタリア等の欧州各国も,それぞれカナダとの間に交渉がすすめられている。

 (ソ  連)
 ソ連では,はやくから加圧軽水型炉の開発がすすめられ,これにより原子力発電所の建設が行なわれ,現在,原子力発電設備容量は約100万キロワットに達している。また,国外に対しても,1966年に40万キロワット級の加圧軽水炉をハンガリア,ブルガリア,東ドイツ等の東欧諸国に対して輸出することが発表された。
 動力炉の開発については,とくに高速増殖炉の開発が意欲的にすすめれており,1959年(34年)に運転を開始した高速実験炉BR-5を発展させ,カスピ海沿岸に,1969年(44年)臨界を目標に,35万キロワットの海水淡水化装置を加えた二重目的の高速増殖炉BN-350の建設がすすめられている。
 また,将来の炉心の高温化,高出力密度化に対応した研究開発をすすめるため,6万キロワットの高速実験炉(BOR)の建設が,1968年(43年)臨界を目ざしてすすめれらている。

 (そ の 他)
 イタリアでは,軽水炉,ガス冷却炉を導入し,その国産化がすすめられ,一方,新型転換炉としては,重水減速軽水冷却炉(CIRENE)および有機材冷却炉の開発がすすめられ,さらに,高速増殖炉の研究開発が,ユーラトムとの協力のもとに行なわれている。原子力船についても,1966年12月,原子力海軍補給船エンリコ・フェルミ号の建造計画が決定された。
 インドでは,軽水炉18万キロワット2基の建設を行なうとともに,カナダより重水炉を導入して,20万キロワット4基の建設を行なっており,さらに,この重水炉により自国で豊富に産するトリウム資源を活用するための研究開発についても,これを積極的にすすめている。このほか,ノルウェー,デンマーク,スウェーデン,スペイン等においても,それぞれ重水減速炉の開発がすすめられている。
 以上の各国のほか,オランダ,フランス,ドイツ,イタリア,ベルギーおよびルクセンブルグの各国をもって構成される欧州原子力共同体(EURATOM)においては,新型転換炉として重水減速有機材冷却炉の開発がすすめられており,また,高速増殖炉についても,加盟国と密接な連けいをとりつつ,研究開発がすすめられている。
 経済協力開発機構(OECD)の下部機構である欧州原子力機関(ENEA)においては,1966年7月,ユーロケミック再処理工場の運転が開始された。さらに,動力炉の開発については,高温ガス炉のドラゴン計画および重水減速重水冷却炉のハルデン計画等がすすめられている。


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