第7章 国際協力
§1 国際原子力機関の活動

 1957年(昭和32年)に53カ国の加盟国をもって発足したIAEAは,年とともに発展し, その加盟国数は,40年度に加盟したコスタリカ,ジャマイカおよびパナマの3カ国を加えて総計95カ国に達した。
 40年度におけるIAEAの活動としては,パネル,シンポジウム等の国際会議の開催,技術援助,フェローシップの供与,研究活動,保障措置等の通常業務が行なわれたほか,意義深い活動の一つとして,新保障措置規則を定めたことなどがあげられる。また,40年度に,第9回総会が東京で開催されたことは特筆されるべきことである。
 以下,IAEAの活動およびわが国のIAEAへの寄与のうち,とくにわが国に関係あるものについて述べる。

1 第9回(東京)総会

 IAEAの第9回総会は,9月21日から28日までの8日間にわたり東京で開催された。
 第9回総会の東京開催によって,各国代表が平和利用に徹してすすめられているわが国の原子力開発利用に対し認識を深めたこと,各国代表とわが国原子力関係者との会談を通じて広く国際協力の道がひらけたことなどは,東京総会の成果であったと考えられる。
 今次総会には,93加盟国中73カ国の政府代表のほか,食糧農業機構(FAO),世界保健機構(WHO)等の国連専門機関やユーラトム等からのオブザーバーを加え,合計349名が出席した。わが国は,28名の代表団を構成するとともに,会議受けいれ国としての対策に遺憾なきを期した。
 総会冒頭,佐藤総理が,日本政府および国民を代表して,参加各国代表に対する歓迎の演説を行ない,原子力の平和利用に徹するわが国の方針を述べて,各国代表に多大の感銘を与えた,このあと,総会議長にわが国の朝海代表が選出された。
 つづいて,IAEA事務局長,総会議長および国連代表の演説があり,一般討論にはいった。
 一般討論において,わが国代表は,近年の核兵器拡散防止に対する世界の世論に応えるべきであるとして,各国による保障措置制度の受けいれをうったえるとともに,IAEAに対して,すべての核物質の国際的移転を通報または登録する制度を検討するよう提案した。また,IAEAの事業活動に関して,同機関が,その憲章に定められている核物質提供者としての任務を忠実に実行するよう主張した。IAEAの地域活動については,各地域の実情に即した配慮のもとに,その事業を強力に推進するよう要請し,わが国としてもIAEAのかかる活動に協力を惜しむものではないことを表明した。
 一般討論のあと,総会は,事業計画および予算の決定,事業報告の承認,理事国の選出等通常の議題のほか,新保障措置規則の審議,新事務局長の選出等を行なった。

(1)事務局長任命および事務局長演説
1965年(昭和40年)12月1日から4年間の任期をもつ新事務局長として,理事会が任命したシグバート・エクランド現事務局長が満場一致で承認された。
 新事務局長は,事務局長就任宣誓ののち,演説を行ない,低開発国に対する技術援助の必要性,原子力による海水脱塩の研究の意義などについて述べた。事務局長は,とくに憲章の問題にふれて,IAEA憲章の改正を慎重に検討する時期がきたことを指摘した。さらに,IAEA保障措置制度を効果的なものとするため,先進国が自発的にIAEAの保障措置を受けいれるべきであると主張した。

(2)新保障措置規則
 憲章第3条にもとづきIAEAが行なう核物質等の軍事転用防止のための保障措置実施に関する規則を,出力10万キロワット以上の原子炉に対しても適用できるようにするため,第7回総会決議にもとづき,全般的に再検討を加えてきた理事会は,新規則を作成し,1965年(昭和40年)2月にこれを仮承認し,この総会に提出した。
 総会は,本会議に先立ち,行政法律委員会において,これを審議した。委員会は,理事会議長による新規則作成の経過説明ののち,新規則を総会が了知する旨の9カ国共同決議案を賛成多数で承認した。本会議は,行政法律委員会の勧告に従い,前記決議案を満場一致で採択した。新保障措置規則は,わが国も作成作業に加わり,その決定を希望していたものであって,総会直後の理事会において正式に採択された。なお,新保障措置規則については,項をあらためて記述する。

(3)理事国選挙
 今次総会における理事国の選出は,7カ国で,コロンビア,ユーゴスラビア,チュニジア,ガーナ,パキスタン,韓国およびオーストリアがそれぞれ選出された,この結果,理事国の構成は(付録IV-11)に示すとおりとなった。

2 廃棄物処理高級訓練セミナーの開催

 IAEA主催の放射性廃棄物処理高級訓練セミナーは,国連拡大技術援助計画(EPTA)の資金および日本政府の後援により,40年10月4日から10月15日まで東海村で開催された。本セミナーは,ラジオアイソトープ利用により生ずる放射性廃棄物の管理に関する責任者を養成するための国際セミナーであり,東南アジアおよび中近東の8カ国からの参加者11名にわが国からの参加者5名を加え,合計16名の受講者があった。
 この国際セミナーは,26のセッションに分かれ,各セッションは講義および参加者相互の討論によって構成された。そのほか,日本原子力研究所(原研)における実地訓練および主要研究所の廃棄物処理施設の見学を行ない,所期の成果をあげた。

3 機器の寄贈

 IAEAは,「稲作施肥の研究」プロジェクトを同機関のザイベルスドルフ研究所において実施するに際し,必要な施設,機器,建屋などの寄贈を各国に要請した。そのうち,わが国に対しては,主として窒素元素の質量分析に使用するための質量分析器の寄贈を要請した。
 わが国は,本プロジェクトが稲作研究において意義あるものであり,また,東南アジア諸国に対してわが国が稲作研究の分野で果している指導的役割を考慮し,これら諸国に対するわが国の間接的援助ともなることにかんがみ,上記質量分析器を寄贈することとした。これは,41年2月,ザイベルスドルフ研究所において,在オーストリアの法眼大使からエクランド事務局長に手渡された。

4 国際会議,フェローシップおよび委託研究

 40年度に開催されたIAEA主催のシンポジウム,パネル,ワーキンググループ等の会議は,全部で19回であった。このうち,わが国は,17の会議に延べ43名の参加者を送った。とくに,40年9月には,核データ・ワーキンググループの会議を東京で開催するなど,IAEA主催の諸会議に積極的に協力した。そのほか,41年2月には,シドニーで開催された第4回研究炉利用専門家会議に原研から研究員2名が参加し,アジア地域における研究炉の利用等についての討論に参加するなど,IAEA地域活動にも積極的に協力した。なお40年度IAEA関係のシンポジュームおよびパネル一覧は(付録IV-14)に示すとおりである。
 IAEAによるフェローシップは,40年度末までに52カ国,合計313名に与えられた。 このうち,わが国は,主として東南アジア地域から8名のフェローを受けいれ,IAEAの技術援助活動に協力した。
 IAEAの研究契約は,40年には新たに38件の契約と47件の契約更新があり,合計85件,金額にして45万2795ドルが交付された。そのうち,わが国は,新規,更新合せて,4万7800ドルを交付されることとなった。なお,研究契約により,わが国が行なっている研究は,保健物理,廃棄物処理,ラジオアイソトープ利用等に関連したものが大部分である。

5 国際原子力機関の保障措置

(1)新保障措置規則の決定
 IAEA憲章は,原子力資材が軍事目的に転用されることを防止するための保障措置を適用する場合およびその際の保障措置の内容を定めている。
 すなわち,IAEAが保障措置を適用する場合とは,次の3つである。
 i) 機関みずから原子力資材の供給者となった場合。
 ii) 2国間または多数国間条約の締約国から要求された場合。
 iii) ある国から自国の原子力資材をIAEAの保障措置のもとに提出した場合。
 また,上記の場合に該当し,IAEAの保障措置が適用されるときには,記録の保持,報告書の提出,設計の審査,査察などの保障措置を実施することとなっている。
 このIAEA憲章をうけて,IAEA理事会は,その実施のための規則(いわゆる保障措置規則)を定めている。同規則は,まず,研究用原子炉を対象として36年1月に制定された。その後,これを大型原子炉(熱出力10万キロワット以上)にも拡大適用する新保障措置規則が40年9月,第9回総会において了知され,その直後の理事会で正式に決定された。
 新保障措置規則には,旧保障措置規則と比較して,保障措置が原子炉施設の運営上の経済性を阻害しないよう配慮することを原則としたこと,保障措置の適用上の義務を詳細に定めていることなど,商業用発電炉等の大型原子炉を適用対象としたことにともなう規定が新しく追加されている。
 また,保障措置実施にあたっては,主として核物質に着目する方式をとっていることなど,その規定の仕方もかなり変更され,合理的になっている。
 新保障措置規則の決定により,IAEAの保障措置制度は一応軌道にのり,IAEAのこの分野での役割が重要性を加えた。しかし,保障措置をより合理的なものにしようとする議論は,新保障措置規則作成に際し常になされていたことであり,今後経験をつんだうえで,さらに整備することとなった。
 新規則の保障措置手続は,
 i) 一般手続,
 ii) 原子炉内の核物質への適用のための特別手続,
 iii) 主要原子力施設の外にある核物質への適用のための特別手続,
 となっている。しかしながら,原子炉以外の主要原子力施設(たとえば再処理施設,加工施設,濃縮施設など)についての特別手続は,いまだ規定されていない。とくに,再処理施設については,それが保障措置適用上の重要なポイントであることにかんがみ,新規則の成立過程においてもさかんに議論されたところであるが,その技術的困難性および対象となる施設の見通しがないことなどにより時期尚早論が主流をなしていた。しかし,米国が,二ュークリア・フュエル・サービス社の再処理施設を保障措置の対象として提供する用意のあることを明らかにしたことなどから,保障措置手続を再処理施設に拡大する必要が生じ,IAEA理事会は,41年2月,この問題を検討するためワーキンググループの設立を決議した。わが国は,かねてから原子炉への保障措置手続の簡素化の可能性を含む再処理施設への保障措置手続の制定を希望しており,ワーキンググループによってだされる結論に注目している。なお,同ワーキンググループは,第1回会合を41年5月11日にウィーンで開催した。

(2)IAEAの対日保障措置の実施
 わが国は,米国,英国およびカナダとの間の協力協定にもとづき,それぞれの国から原子力資材を入手するにともない,供給国側の保障措置を受けることとなっている。
 一方,協力協定の締結と同時に,その保障措置の実施をできるかぎり早い機会にIAEAに移管することが合意されている。これらの合意に従って,日米間の保障措置は,39年9月に署名された日米IAEA保障措置移管協定により,その実施がIAEAに移管された。日英間の保障措置および日加間の保障措置についても,近くIAEAに移管される予定である。
40年度におけるIAEAの保障措置実施状況をみると,査察については,(第7-1表)のとおり40年9月に実施された。

 報告書については,規定どおり提出したほか,東京芝浦電気(株)研究所の事故にともなう濃縮ウランの滅失について特別報告書を40年8月に提出した。
 また,従来の保障措置実施協定では,100キロワット以上3000キロワットまでの原子炉についての手続が定められていなかったが,40年5月,これが定められることとなり,京都大学研究炉(熱出力1000キロワット)およびJRR-4(熱出力2500キロワット)が,保障措置実施の対象となった。

(3)日英,日加両保障措置の移管
 日英の移管交渉は,40年5月,ウィーンにおいて,日本,英国およびIAEAの3者間で協定の内容について最終的な合意に達し,その協定案は,40年6月のIAEA理事会において承認された。しかし,同協定の発効(すなわち移管)は,日本原子力発電(株)(原電)の東海発電炉の商業運転開始後に行なう旨の合意がなされているので,同協定はいまだ発効するにいたっていない。
 日加の移管交渉は,49年5月にカナダ原子力管理委員会の委員長が来日し,協定内容について日加間ではほぼ合意に達し,8月におけるウィーンでの日本,カナダおよびIAEAの3者間の会議で最終的合意に達した。さらに,9月のIAEA理事会も同協定案を承認し,あとは発効手続を残すのみとなっている。


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