第4章 放射線の利用
§3 農林水産利用

 農林水産業における放射線の利用は,農業部門をはじめとして,林産,水産,畜産,蚕糸,農業土木等の各部門に及んでいる。さらに,最近においては,食品に放射線を照射して食品の保存性を向上させ,これにより食品の流通機構および国民の食生活の改善をはかろうとする研究が積極的に行なわれはじめた。これらの研究は,大学,国公立試験研究機関,民間等各分野において行なわれているが,食品照射研究は,必ずしも計画的に行なわれているとはいいがたく,このような,現状に対処するため,40年11月には日本食品照射研究協議会が設立され,各研究機関における研究の相互調整をはかることとなった。原子力委員会は,以上の情勢を考慮して40年11月,食品照射専門部会を設置し,この食品照射に関する研究推進の大綱を定め,総合的な立場から研究体制を整備し,計画的に研究の推進をはかることとなった。
 同専門部会では,すでに海外において実用化されている馬鈴薯および玉ねぎについて,あるいは,わが国独自な観点から開発すべき品目について,それぞれ小委員会を設け研究推進方策の審議を行なっている。
 放射線照射に関しては,植物等の放射線照射による突然変異を利用した品種改良の研究が,農林省農業技術研究所(農技研)を中心に各地の農業試験場,大学等で行なわれている。また,農林省放射線育種場では,ひきつづき,コバルト‐60ガンマ線源により,リンゴ,ナシなどの果樹やスギ,アカマツなどのような大型植物,穀類,野菜,園芸などの大量の作物を同時に連続して各種の線量域で照射し,植物の品種改良について実験研究を行なっている。すでに食用植物,園芸植物にはいくつかの放射線による改良品種がつくられ,各地の農業試験場等においてさらに実用がはかられている。
 また,トレーサ利用の分野では,主として,短寿命ラジオアイソトープが農林水産業に関する各種の研究に使用されているが,とくに動植物の栄養学,施肥法などの土壤肥科学,病害虫の生理生態学,農業土木等においてさかんに利用され,在来技術の改良にすぐれた成果を収め,これらの新しい技術は,すでに実地に用いられている。
 また,放射化分析の手法が農業分野にも取り入れられ,従来の化学的分析法では不可能であった動植物体内の微量成分を検出できるようになった。これにより,土壤および作物体内の微量成分,農薬成分の挙動に関する研究や重金属成分による水質汚濁の作物被害防除に関する研究が行なわれ,それぞれ効果をあげている。


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