第4章 放射線の利用

 ラジオアイソトープ等の放射線の利用は,原子力の諸分野のなかでは,最もはやくから実用化され,わが国ではすでに戦前からラジウムやエックス線が医学の診断治療をはじめ非破壊検査などの工業面で用いられてきた。また,このほか,物理学,化学および生物学などの基礎科学の研究分野でも利用され,一部ではサイクロトロンによって作られた人工ラジオアイソトープも利用されていた。
 このような伝統的な技術基盤によって,昭和25年のラジオアイソトープの輸入開始以来,その利用分野は飛躍的に拡大し,今日では工業,医学,農林水産業および基礎科学の研究等の広汎な諸分野において多岐多様な利用が行なわれている。
 最近では,ラジオアイソトープの国産も軌道にのりつつあり,また,放射線発生装置や計測機器等も国産化がすすみ,利用分野の一層の拡大が期待されている。また,放射線化学の工業化あるいは食品の保存のための放射線照射などの研究開発の分野があらたに注目されるようになってきた。
 このような情勢に対応し,ラジオアイソトープの総合的な利用促進をはかる機関として,40年2月,日本原子力研究所(原研)のなかにアイソトープ事業部が発足し,ラジオアイソトープの生産,廃棄物処理等の事業を一元的に行なうこととなった。
 ラジオアイソトープ等の放射線を利用する事業所の数は,(第4-1図)に示すとおり,着実に増加の一途をたどっており,40年度末現在,1321に達した。また,これらの事業所のうちには,ラジオアイソトープのほかに放射線発生装置からの放射線を工業,医学,農林水産業等の各分野に利用しているものもあり,わが国におけるこれら放射線発生装置の数は,40年度末現在で148台に達した。


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