§5 原子力船

 原子力船建造技術の確立,乗組員の養成訓練に資するため原子力第1船を建造する必要があるとの「原子力開発利用長期計画」の線に沿って,実験目的の原子力船の建造運航計画を一貫した責任体制のもとに遂行することを目的とした,日本原子力船開発事業団が38年8月設立された。同事業団は,原子力委員会の策定した「原子力第1船開発基本計画」にしたがい,総トン数約6000トン,主機出力約1万馬力の海洋観測および乗組員の養成訓練に利用できる原子力第1船を,43年度完成を目途として建造することとなり,38年度から基本設計を開始した。その後の建造スケージュールは付録IV-4表に示すとおり39年度に建造契約,40年度に船体起工,乗組幹部養成訓練開始,41年度に進水,42年度にぎ装完了,原子炉臨界の後,43年度に竣工引渡の予定となっている。
 39年度には,前年度に行なった基本設計についてさらに要目の細部を検討するとともに,安全性の評価を行ない,7月には,基本設計について一応の検討を終えたので,関係者を招いて中間報告会を開き意見の交換を行なった。ここでえられた基本設計上の考え方,要目寸法および特性について,原子力第1船の安全対策を中心に,サバンナ号の建造,運航関係者同意見の交換を行なうため,7月末から8月にわたって,同事業団役職員を中心とする原子力船安全調査団が海外へ派遣され,具体的な問題の調査を行なってきた。これらの結果にもとづいて,39年11月建造契約仕様書の作成に必要な主要目が決定された。その概要は,(第2-1表)に示すとおりである。
 同事業団はこれにもとづいて,40年1月末見積仕様書を作成したので,原子力第1船の建造を船体と原子炉を含めた一括契約のもとに行なうことを決め,大手造船所7社を指定業者として3月1日指名競争入札を行なった。しかし,7社とも入札を辞退したので,翌2日,見積範囲を縮少して,再び競争入札を行なったが,7社とも再度入札を辞退した。

 これは,原子力船の建造がわが国にとってはじめての試みであり,造船各社とも経験がなく,同事業団の提示した諸条件のもとで契約を履行することについて確信をもちえない等の事由によるものと推測される。
 同事業団は,原子力委員会,主務官庁ともはかったうえ,随意契約方式,をとることを決め,日本造船工業会に,交渉の相手方の選択につき斡旋を依頼した。3月23日,日本造船工業会は交渉の相手方として石川島播磨重工(株)を斡旋したので,同事業団は3月24日から,本船の原子炉の製作を担当する三菱原子力工業(株)をふくめて,同社と原子力第1船の建造のための具体的な折衝にはいってが,39年度末までには契約調印にいたらなかった。
 一方,原子力プラントの主要機器の設計値を確認し,安全性および性能の向上をはかるため,同事業団では,臨界実験,炉心構造模型試験,燃料集合体模型試験および原子炉制御計測器の環境試験を行なっている。臨界実験は原研の軽水臨界実験装置を用いて原研との共同研究により,炉心構造模型試験および燃料集合体模型試験は運輸省船舶技術研究所(船研)との共同研究によりすすめられている。このほか原研において,原子力第1船のしゃへいのため,JRR-4の整備が行なわれている。
 また,船研では,原子力第1船にも役立てるとともに,来たるべき原子力船時代に備えるため原子力船の船体内外の放射線強度の計算に関する研究,厚板溶接部の非破壊検査基準に関する研究等を行なっている。


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