第8章 国際協力

§3 2国間協定の実施

 現在わが国は,原子力の平和利用に関して米国,英国およびカナダとの間にそれぞれ2国間協定を締結している。こ れらは,原子炉,濃縮ウラン等の受入れを予定しての日米協定(33年締結),動力用原子炉,これに用いる天然ウラン 等の受入れを予定しての日英協定(33年締結)およびウラン精鉱等の受入れを予定しての日加協定(35年締結)であ る。これら3つの2国間協定の37年度中の実施状況は,おおむねつぎのとおりである。日米協定により米国から賃貸 借する燃料用の特殊核物質(濃縮ウラン,プルトニウムおよび238U)については,その全ての賃貸借をカバーす る包括的な協定として,さきに36年5月ブランケット協定が締結されており,これにより濃縮ウラン等の賃貸借の手 続は非常に簡素化された。37年度中にブランケット協定にもとづき賃借した濃縮ウランは,第8-2表)に示すとおりである。

 36年3月以来,交渉が行なわれてきた日本原子力研究所の試験研究用動力炉(JPDR)の燃料購入協定は,37年11月に合意に達して署名が行なわれ,その燃料約4.4トン(235U量約114キログラム)の引取りは,38年2月に行なわれた。
 ブランケット協定が締結される以前の5次にわたる行政協定により,わが国が賃借した燃料用濃縮ウランは約26キログラム(235U量),ブランケット協定により36年度中にわが国が賃借したものは87キログラム(235U量),これらに37年度中のブランケット協定によるもの88キログラム(235U量)およびIPDRの燃料として購入した濃縮ウラン114キログラム(235U量)を加えると,わが国が米国から供給された燃料用濃縮ウランは,315キログラム(235U量)となる。これは,日米協定第7条Aに定められた米国のわが国に対する燃料用濃縮ウランの供給わく2,700キログラムの約12%に当たる。
 原子炉等の燃料以外のいわゆる研究用資材としての特殊核物質の日米協定による米国からの購入については,37年2月に署名された研究用量特殊核物質購入協定にひきつづいて,37年11月には,第2次の研究用量特殊核物質購入協定が署名され,日本原子力研究所のJPDRおよび臨界実験装置のフィッションチェンバーに使用する濃縮ウラン約4。45グラム(235U量)を購入した。
 これらの研究用資材は,原子炉,臨界実験装置等のスターターとしての中性子源,フィッションチェンバー等に使用されるものであるが,原子力の研究開発の進展にともないその需要は急速に増大しつつある。日米協定第5条Aは,これらの研究用資材としての特殊核物質の供給限度わくを定めており,それは(第8-3表)に示すとおりであるが,すでに購入したものおよび現在米国に申入れている第3次の購入協定によるものを差し引くと,残わくはきわめてわずかになっている。

 これら研究用資材の購入先としては,その他に,英国,国際原子力機関を通じるもの等が考えられるが,事実上は,やはり米国にその大部分の供給を依存せねばならず,このため,現在,米国に対して日米協定第5条Aのわくを撤廃するよう申し入れているが,早急にそれが実現することが望まれる。
 また,日米協定第3条による日米研究協力の具体化は,つぎのように進展した。36年6月,当時来日した米国原子力委員会原子炉開発部次長の提案にはじまる日米研究協力は,その後37年3月米国原子力委員会国際部長からさらに,研究協力のテーマ,実施方法等について具体的な提案がありこれらを検討の結果,さしあたり実施可能の部分からはじめることとし,実施要領が定められた。
 これは,相互主義の原則にもとづき,具体的テーマを定めて行なう研究協力であり,今後の国際協力の新しい方向を示すものとして注目すべきものである。
 研究協力の内容は,酸化物および炭化物系核燃料ならびにセラミック系核燃料を金属および黒鉛中に分散させたものを対象として行なうもので,その実施方法は,ニューズ・レターおよび報告書の交換,専門家会議の開催,サンプルの交換,照射試験および照合試験の実施,長期または短期の研究者の交流等によるものである。
 研究協力の実施にともなう特許権の取得およびその使用に関する問題については,日米両国間に特許制度の相違があるためまだ結論に達していないが,研究協力はできるだけ早く実施に移した方が得策と考えられるので,特許権に関係のない部分から順次着手することとなった。すなわち,本計画にもとづく,第1回のニューズ・レターの交換は,38年3月に行なわれ,さらに38年5月には米国の専門家8名の参加をえて,第1回専門家会議が茨城県東海村で開催され,予期以上の成果が挙げられた。
 日英協定関係では,日本原子力発電(株)の日英協定にもとづき導入して建設中の東海発電炉の完成が近づくにともない,その燃料の購入に関する日本原子力発電(株)と英国原子力公社との間の契約交渉も,近くまとまる見とおしである。
 日加協定にもとづくカナダからのウラン精鉱の輸入は,36年度にひきつづき,37年度も活発に行なわれた。なお,ウラン精鉱については,その世界的過剰傾向を反映して,カナダのほか,オーストラリアおよび南アフリカ連邦からも,その売込みが積極化している。
 これらの2国は,ウラン精鉱等を軍事目的に転用しないよう一定の保障措置のもとにおくことを前提としているが,オーストラリアおよび南アフリカ連邦とわが国との間には,保障措置を含めた2国間協定が締結されていないので,その保障措置をいかに講ずるかが問題となる,オーストラリアおよび南アフリカ共和国とわが国との間では,それぞれ37年6月および8月に,これら2箇国からわが国が講入するウラン精鉱等を,国際原子力機関の保障措置の下におくこととし,その旨これら2箇国とわが国とそれぞれ共同で,国際原子力機関に要請することを内容とした書簡の交換が行なわれた。さらに,オーストラリアとわが国は,この書簡にもとづき共同で国際原子力機関に要請を行なった。今後これら2箇国とわが国および国際原子力機関との間で保障措置を受入れるための協定を締結することになろう。
 日米協定および日加協定による保障措置を国際原子力機関に移管することについては,そのための協定の交渉が関係者間で行なわれている。これは,36年1月の国際原子力機関理事会において,国際原子力機関の保障措置規則が採択されたので,日本および米国,日本およびカナダからそれぞれ日米協定および日加協定の条項にもとづき,その保障措置を国際原子力機関に移管するため,同年4月国際原子力機関に対して申入れを行なったものである。この交渉が終了後,国際原子力機関理事会に提案することになっている。これらの保障措置を協定の相手国によるものから国際機関によるものに移管することは望ましいので,これを推進すべきものと考えるが,他方,これら移管協定は,今後世界におけるこの種協定のモデルにもなることを考慮し,慎重に措置すべきものであろう。
 そのほか,日加協定関係では,第1回の日加技術会議が,37年11月にオタワにおいて行なわれた。この会議は,毎年1回交互に開催国となり,原子力の技術上の問題を日本およびカナダの関係者間で討議したいというカナダ側の申入れを日本側が承諾し,開催されることとなったものである。
 その出席者は,日本側から石川原子力委員ほか4名,カナダ側からグレイ原子力公社総裁ほか4名であった。


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