第8章 国際協力

§4 アジア・太平洋原子力会議の開催

 原子力平和利用推進のためのアジア・太平洋諸国会議(以下,アジア・太平洋原子力会議と略称する。)は,日本政 府の主催により,東京において,38年3月11日から3日間にわたり開催された,これは,原子力の平和利用研究開発に おけるアジア・太平洋諸国等の代表者に,行政面および技術面において直面している共通の問題点について討議し ,国際協力によるその解決のための方法を探求する機会を提供しようとするものであった。
 本会議の参加者は,アフガニスタン,オーストラリア,セイロン,中華民国,インド,インドネシア,イラン,日本,大韓民国,ニュージーランド,パキスタン,フィリッピン,タイおよびベトナムの14箇国の代表33名,国際連合アジア極東経済委員会,国際原子力機関,国際労働機関,国際連合食糧農業機関および世界保健機関の6国際機関の代表6名,ならびにカナダ,フランス,西ドイツ,イタリア,英国および米国の6箇国からオブザーバー6名であった。
 わが国からは,原子力委員ほか4名からなる代表および日本原子力研究所理事長ほか2名からなる代表顧問計8名の代表国が出席した。
 本会議参加者の詳細は,付録IV-11に示すとおりである。
 議事の概要は,おおむねつぎのとおりであった。
① 3月11日の午前には開会式が行なわれ,近藤国務大臣(科学技術庁長官,原子力委員長)が開会を宣言し,つづいて,パキスタン原子力委員長(国際原子力機関理事会議長)および国際原子力機関事務局長が演説を行なった。パキスタン原子力委員長は,この演説において,アジアの共通の問題点を指摘し,これらを解決するための構想を述べた。
② つづいて,第1セッションに入り,議長には兼重日本代表,副議長にはパキスタン代表が選ばれ,つぎの議題が採択された。
 (イ) 参加各国における原子力平和利用研究開発の現状および直面している問題点の報告
 (ロ) 共通の行政的および技術的問題点についての指摘と討議
 (ハ) 国際協力による共通の問題点解決のための方法と手段についての討議
③ 同日午後から,第2セッションに入り,議題(イ)について,アフガニスタン,オーストラリア,セイロン,中華民国,インド,イラン,日本,大韓民国およびフィリッピンの各国代表が報告を行なった。
④ 3月12日午前は,第3セッションとして前日にひきつづいて,インドネシア,ニュージーランド,パキスタン,タイおよびベトナムの各国代表から報告が行なわれた。
⑤ 同日午後からの第4セッションにおいては,議題(ロ)に入り,参加各国の共通の問題点を明確にするための討議が行なわれた。その結果,各国の共通の問題点として,つぎのことが指摘された。
 (イ) 人員の不足
 (ロ) 資材,器具および設備の不足
 (ハ) 情報の不足
さらに,これらに対処するため,つぎの点が討議された。
 (イ) 共同事業の問題たとえば,共同研究
 (ロ) 機構の問題アジアトム,またはパシアトムのような地域機構国際原子力機関の地域事務所
⑥ 3月13日午前の第5セッションにおいては,議題(ハ)の討議に入った。
 参加各国の代表から提起されたアジアトム,またはパシアトムの構想等に対して,日本代表は,これらの構想を高く評価するが,他方,この地域の原子力研究開発の現状にかんがみ,機が熟さないとも考えられるし,さるに,本会議開催の経緯等も考慮し,本会議は,国際原子力機関に対して,この地域に対する地域活動の強化およびこの地域における地域事務所設立の可能性の検討を要請するとともに,国際原子力機関によるこの種の会議の近い将来における開催を希望すべきである旨発言した。これに対して,国際原子力機関事務局長はつぎの発言をした。
 国際原子力機関は,その地域活動の重要性を十分認識しており,すでにバンコックにおける研究炉の利用に関する研究グループ会議等を行なってきた。今後の国際原子力機関のこの地域における地域活動は,
 (イ) この種の会議の開催
 (ロ) バンコック会議のような研究グループの会議の開催
 (ハ) 必要な問題に関する地域アドバイザーの任命
 (ニ) 共同研究計画の確立
 (ホ) 達成された成果についての2年後の再評価の結果,地域事務所の設立についての勧告にいたること。
等により行なわれることとなろう。
 このような討議の結果,原子力の平和利用促進のために,地域的協力を強化することが必要であることについて意見の一致をみた。
 また,国際原子力機関は,アジア・太平洋地域諸国の要請にこたえて,地域活動を促進すべきこと,およびこのために国際原子力機関は,地域事務所の設立について検討すべきことを参加各国の共通の要請として記録にとどめることとなった。
 さらに国際原子力機関の主催により,この種の会議を随時開催すべきであるということも各国の共通の希望として記録にとどめることとなった。
⑦ 同日午後の閉会式においては,上記の議事内容を記したコミュニケが満場一致で採択され,議長が閉会のあいさつを行ない,会議は終了した。
 本会議は,はじめての試みであったが,アジア・太平洋地域の14箇国および6関係国際機関の代表等の出席をえて,盛大に開催され,所期の目的を達成した。
 すなわち,具体的には,国際原子力機関のこの地域における地域活動の強化,国際原子力機関の地域事務所の設立の検討およびこの種の会議を国際原子力機関の主催のもとに,今後も随時開催することを参加各国の共通の要請としてコミュニケに記録したことは,大きな成果であり,また会議終了後の視察,見学等により,参加各国との間の国際親善および相互理解を深めたことも見のがせない。
 なお,コミュニケに記録された参加各国の共通の要請に対する今後の措置については,参加各国,国際原子力機関等の今後の努力にまつべきものであるが,さしあたり,情報の交換を可能な範囲において,強化することが望ましい。


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