第2章 動力利用

§2 原子力船

 原子力の動力利用のもう一つの柱として,船舶の推進があるが,わが国は世界第一の造船国であり,長期的には,船 舶の原子力推進化が見込まれるので,これにそなえ,原子力船の開発をすすめることは,わが国にとって重要な課題 である。
 原子力船の開発については,36年2月に,原子力委員会が発表した原子力開発利用長期計画のなかで,原子力船は遅くとも50年頃までには,その経済性が在来船に匹敵しうるものと期待されるので,45年までの前記10年間において,それ以降の開発にそなえ,原子力船建造技術の確立,運航技術の習熟,技術者および乗組員の養成訓練に資するため,適当な仕様の原子力船を1隻建造し,運航するという方針を明らかにした。
 このため,原子力委員会は原子力船専門部会を設置し,原子力船の建造に関する基本的事項について諮問したが,同専門部会は,37年6月原子力第1船の開発機構としては,広く民間,政府の協力体制が必要であり,このため,民間,政府共同出資の特殊法人が適当であること,また,第1船の船種船型については,第1船が実験目的のために設計,建造,運航されるものである点から,比較的所要資金が少なくてすみ,原子力船としての特色を生かす最小のものとして,約6,000総トンの海洋観測船が,適当である旨の報告を行なった。
 原子力船の研究は,32年以降,運輸省運輸技術研究所および(社)日本原子力船研究協会等を中心として,主として開発のための予備的研究を行なってきた。政府関係の原子力船開発投資額は,36年度までに,約3億7,000万円となり,37年度には,付録IIIのA-4-(3)およびB-1に示すとおり,約1億2,000万円で,研究がすすめられてきた。こうして,原子力第1船を建造するに十分な予備的研究段階をおおむね終了したので,原子力委員会は,実験目的の原子力船を実際に建造し,その過程において,総合的な研究開発を実施すべき時期にきたと判断した。そこで,原子力第1船の設計,建造および実験運航を,主たる目的とする特殊法人日本原子力船開発事業団の設立のために必要な予算措置を講じた。同事業団設立のための法案は,第43国会に提出され38年6月承認された。
 同事業団は,初年度政府出資1億円,民間出資5,000万円で設立され,第1船の基本設計にとりかかる予定である。第1船の開発計画の概要は,つぎのとおりである。
 まず,原子力第1船の船種は,海洋観測と乗組員の養成訓練に必要な設備,補給輸送のための若干の載貨能力および耐氷構造を有する海洋観測船で,その要目は,(第2-3表)に示すとおりである。つぎにその開発には,この計画を実施するにあたり,研究,設計,建造等が一貫した体制の下に処理される必要から既述の事業団があたることになる。その事業の内容は
 ① 第1船の設計と建造
 ② 建造にともなう研究開発
 ③ 乗組員の養成訓練
 ④ 第1船による完成後の諸試験
 ⑤ 必要な付帯設備の建設
であり,これに要する所要資金は合計約60億円と推定され,期間は9年にわたる計画である。

 第1船の設計と建造は,国内技術によって行なわれ,また塔載する炉についても,国内技術を活用することとし,原子カプラントの設計と製作にあたって,臨界実験,モックアップ実験等の研究開発を実施する。
 計画の初年度には基本設計,第2年度には,安全審査,発注,研究開発とプラント製作の開始,第3年度には船体の起工,第4年度には進水,第5年度には艤装,第6年度には臨界が予定されている。
 第1船の乗組員は,75名であって,そのうち,養成訓練の対象となるのは45名である。その訓練計画の内容は,職種によって異なるが,日本原子力研究所,放射線医学総合研究所等における基礎課程の講習,シミュレーターによる運転実習,サバンナ号による乗船実習,建造過程における工場実習が計画されている。
 第1船完成後の諸試験は,第1船の特性と性能を実証し,将来の原子力船の設計資料をえるために重要なものである。このため,計画の第7年度から2年間にわたり実験航海を予定している。
 また,付帯設備は,造船所周辺のモニタリング設備等,第1船の建造時から必要なものと,燃料交換施設を主とする完成後の運航に必要なものからなる。前者は計画の第2,3,4年度に建設され,後者は計画の後半に,建設される。
 以上の計画のタイムスケジュールは,(第2-3図),所要資金の年度別および費目別内訳は,(第2-4表),(第2-5表)に示すとおりである。


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