第8章 その他の研究開発
§1 原子力船

1−1 わが国の原子力船建造計画

 昭和36年2月に原子力委員会は「原子力開発利用長期計画」を発表したが,そのなかで[原子力船は遅くとも50年頃までにはその経済性が在来船に匹敵しうることが期待されるので,前記10年において後期の開発にそなえ,原子力船建造技術の確立,運航技術の習熟,技術者および乗組員の養成訓練等に資するため,適当な仕様の原子力船を一隻建造し,運航することを明らかにした。このため36年5月に原子力船の建造に関する基本方針を検討する新しい専門部会を設置し,放射性廃棄物の処理,安全管理体制および緊急時対策,港湾の整備,原子力災害補償の国際的および国内的整備の進捗状況等を勘案しつつ審議検討をすすめた,その結果同部会は,36年9月に原子力委員会あて中間報告書を提出し,原子力第1船の建造に関する基本的考え方および今後の審議方針につき 1)原子力船の開発は,米国,ソ連,英国,西独等において活発に進められているところであるが,世界有数の海運,造船国であるわが国としても,将来の原子力船の進展に備えて,早急にその開発に着手すべきこと 2)わが国の海運界,造船界の現状からみて,国またはこれに準ずる機関を中心として,国家資金を根幹とした開発資金によって行なうこととし,これに民間産業界が積極的に 協力するという形によるのが妥当であると考えられること 3)第一船としては,将来原子力船として活躍することが期待される高速,大型の商用船を建造することも考えられるが,資金効果,建造運航上の諸問題等からみて,将来開発される原子力船の基礎となる建造技術の開発,運航技術の習得,技術者,乗組員の養成訓練の目的達成に適し,かつ,充分な安全性を確保しうるものとの見地から,第1船は排水量10,000トン以下主機出力20,000馬力以下でなるべく高速力のものが適当であると考えられること 4)上記の趣旨に沿って,開発機構および第1船の船種,船型等の具体的検討を行なうために「開発機構特別委員会」および「第1船特別委員会」をそれぞれ設置することとするほか,原子力船の受入れ,規制,災書補償等の運航上の諸問題が別途検討されるべきであることとした。
 その後第1船特別委員会は,第1船については総トン数約6,350トン,主機出力10,000馬力の海洋観測船とし,搭載する原子炉は軽水冷却型熱出力33〜35MWとするなど要目に関することのほか,建造に約7年を要すること,総計約60億円の経費を必要とすること等,第1船の具体化についての検討を行なった。他方,開発機構特別部会は,開発機構の形態およびその業務,資金の分担およびその形態と出資時期,燃料交換施設をはじめとする付帯設備の設置に関する事項等について検討を行なった。これらの結果は近くまとめられて,専門部会で更に審議を行なった上,原子力委員会に報告されることとなっている。


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