第6章 放射能対策
§3 放射能対策の実施

3−3 放射能対策実施基準の設定

 原子力の平和利用による放射能の人体の許容水準は,原子力の平和利用が人間の生活に寄与する点で定められている。しかしながら,放射性降下物の場合には,利益はなく,いわゆる上記の考え方に基づく放射能の許容水準は存在しない,けれども,放射性降下物の増加は,そのまま放置しておいてよいものではなく,場合によっては必要な行政対策を実施しなければならない。
 このため,関係省庁は,この対策を実施するための目安となる基準線量を必要として,36年11月「放射性降下物の人体への影響に関する基本的な考え方について」放射線審議会に諮問した。同審議会においては,この諮問をうけて,環境放射能特別部会を設け,検討を開始したが,対策本部においても,放射性降下物,降下量および蓄積量に対応した具体的な行政上の対策を検討するため,36年12月,関係行政機関の職員および学識経験者からなる環境放射能作業班を発足させた。同作業班においては90Sr,131I,137Csなど問題となる核種を含む放射性降下物によっておこりうる事態を可能な限り想定し,それに対処する行政対策を実施する目安について,慎重な検討を行ない。37年4月,環境放射能に関する作業班報告書を発表し,放射能対策の考え方,放射能対策暫定指標および行政措置(暫定案)を明らかにした。
 一方,放射線審議会においても,審議が続けられ,37年5月,放射性降下物の人体への影響に関する基本的な考え方についての答申が行なわれた。答申は,原子力平和利用において認められている放射線に対する許容量の概念は,放射性降下物の場合には認められないとのべているが,もし何らかの対策を実施ずる必要が生じた際には,放射能対策本部の環境放射能作業班が作成した放射能対策暫定指標を行政上採用することは,今後さらに研究調査を行なうことが必要であるとしても,現段階ではやむをえないものと考えている。
 また,対策本部は,自治省,厚生省を通じて地方公共団体と連絡を密にするとともに,外務省を通じ放射能に関する海外の動向に注意している。


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